第20話 因縁の結末
「もう一度やってみるか」
一度失敗した手ではあるが、惜しい失敗でもあった。広く開いた空間に無防備な背を向けて姿を消して潜んでいる爺さんを誘い込んでみる事にした。
ディスクシステムの頃の2D見下ろし視点と違ってフルダイヴ化の主人公視点なので正面以外は死角だが、それを補う物として活用したのがサブ武器【ブーメラン】。
後ろの方に放っておいて大きく弧を描いて俺の方に戻ってくるそれが、姿を現して俺の背中を狙って突っこんでくる爺さんと重なればヒット音が響く。それで位置を探るのだから潜水艦のソナーの様な使い方。
さて、放っておいたブーメランが戻ってくるまで耳を澄ませて待つだけ。
「そこかっ」
「ぐほっ……」
前の時には素早い爺さんの突きにしてやられたが、今回はこだわりを捨てた俺の勝ちだ。爺さんが苦悶の声を上げながらノックバック。
失敗した前回は、左利きである主人公ランクの設定通り、右利きの俺が左手にソード、右手にシールド装備だったが今は持ち手を完全に入れ替えていた。
レトロゲームとしての『デルタの剣風伝』をほぼそのままフルダイヴ化したこのワールドではあるが、ランクの利き腕縛りプレイを強いられる仕様ではないのをワールドイン時に確認済み。
ランクらしさにこだわってプレイしていたわけだが、それじゃ勝てないのならばこだわりなんて捨ててしまえばいい。
もう一度その手を繰り返す。更に、更にと。
俺本来の利き腕に戻したお陰で先手を取れる事もある様にはなっていたが僅かに遅れる事もあった。
4ポイント残っていた俺のLIFEは既に残1つ…。あと1発でも食らえば全てやり直しという状況で。
「ぐほっ……」
爺さんの動きが止まった?
「よくぞ私を倒すまで力をつけたな未来のランクよ。我がランク一族の末裔よ」
つまり、この爺さんもランクだったと。
「そうか、道理で」
戦っている時は特に意識しなかったが確かに爺さんも左手に剣を握っていた。
『デルタの剣風伝』はデルタシリーズの1作目として発売されたものではあるが、時系列的に1番目の時代ではない。後にリリースされるタイトルの方が先の時代というものの方が多いくらいだ。
今目の前にいる爺さんは先代の、後にどこかのタイトルに登場するランクの後の姿という事か。
「今こそそなたに授けよう。私が使いし封魔の剣を!」
爺さんが差し出して来た剣には見覚えがある。それは続編、もう少し後のデルタシリーズで描かれた過去世界に登場したアドバンスソードだった。
なるほど、主人公ランクの旅の手助けをずっとしていた全員同じ姿の爺さん達は先代のランク達だったというわけか。
極めつけが目の前の爺さんだ。凄まじい強敵として立ちはだかり、その実、稽古をつけた上に最高の剣を授ける。
そう考えると、今俺が操っているランクも時系列的に後の時代のタイトルで未来のランクを助ける爺さんの1人として登場していたのかもしれんな。
さて、ここが何で没に?クリエイターから語られない限り答え合わせが出来ないものではあるが何となくわかった様な気もする。
「楽しみを奪わない為、かな」
ここより過去の時代があって先代のランクがいたのだと知ってしまえば、後にその物語を描いた時のインパクトが薄い。
クリアして初めて「そうだったか!!」の方がいいだろうからな。
アドバンスソードを受け取って没ほこらの外に出た。さて、どのくらいの威力があるものか?何か特殊なチカラが宿されているか?試してみよう。
「待て……、ソードが消えたぞ……」
そう言えば『デルタの剣風伝』のソードは上書き制だったな。
ソード、クラフトソード、ミラクルソード。より強力な剣を手にする毎に、前の物がアイテムとして残る事無く更新されていく。
確かに、主人公ランクのソロ冒険。より強力な剣が手に入れば前に使っていたのは必要なくなる。
それに、データ容量がファミコンの約3倍とは言え少なければ少ない方がいいなんて裏事情があったのかもしれない。
没データ領域だったほこらを出て正規データ領域に戻った時、ランクは丸腰になっていたという悲劇…。
コンプリート率に目をやれば100%に達してはいたが、現象としては主要武器を完全に失ってしまうとは何たる結末…。
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