第19話 因縁の対決

 没データとなっていた【隠しほこら】。その奥に潜んでいた老人目掛けて主人公ランクが駆け寄る。


 一気に間合いを詰めては左手のミラクルソードをきらめかせる。しかし、その一撃は空を斬るに終わっていた。老人は瞬時に姿を消していたのである。


 そして、隠しほこらの内を照らす2つの篝火から火炎が噴き出してはランク目掛けて伸びてゆく。


 ランクは左右からの火炎がクロスする直前に大きく後ろに跳ねては焼かれるを避けていた。その背後に人影が浮かぶ。


 ランクの背後から少しばかり後ろに現れた老人が剣を構えて駆け出そうとしたまさにその時、足下から爆煙が上がった。


「ぐほっ……」


 ランクが老人に迫る前に仕掛けておいた【爆弾】、それが時間差で爆発を起こしたのである。老人は僅かに苦悶の声を上げただけですぐにまた姿を消していた。


「くっ……。やはりだ、やはり、あの爺さんは相当にやるぞ……」


 頭上にプレイヤー名『オクラ』の表示を浮かべた主人公ランク。ハートマークで表されるLIFEポイントは最大値16で戦闘開始していたものの今は5まで減っていた。




 そう言えば忘れていた、何せ30年も前の事だ。ディスクシステムのゲームだった頃、あの爺さんと戦う展開があるのか?なんてふと思ったのを。


 ある時、どこかのダンジョンでうっかり爺さんの前で何となく剣を突き出したらブスりと…、モンスターへの当たり判定効果音が意外と鳴ってしまった事があった。


 なんで?などとゲーム画面の前で首を傾げている間に爺さんの両脇に置かれた篝火から火球がわらわらと主人公ランクに向かって飛んで来た。


 斬りつけてしまったこっちが悪いとは言え、味方とばかり思っていた相手からいきなり反撃の嵐。呆然としているところLIFEをガンガン削られGAME OVER…。


 だが、俺はこんな事を想いながらプレイを再開した。


「当たり判定があるならもしや倒せるんじゃ?」


 ゲーマーならば至極当然の考え方と言える。


 主人公ランクの攻撃オプションは2種類。ファミコンコントローラーのAボタンでソード攻撃、Bボタンは道具袋に入っている様々なアイテムを設定して使う事が出来た。


 Bボタン枠には爆弾を用意して、あいさつ感覚の爆破スタートで爺さん戦リベンジ開始。AとBを交互に連打する事でリロードの様なタイムを打ち消し間断ない攻撃を繰り出す。


 刺突、爆破、刺突、爆破、刺突、爆破。


 爆弾が尽きた処で火炎を噴き出せるランプに切り替える。


 刺突、火炎、刺突、火炎、刺突、火炎…。


 それでも微動だにしないタフ過ぎる爺さん…。結局、篝火からの火炎放射で返り討ちにされた。


 それを何回も繰り返してようやく倒せる様な設定になっていない事に気付くわけだが、どこかにこの爺さん以上の戦えるタイプの爺さんが潜んでいるのではないか?と思ったものだ。


 それから30年ほど経ち。古代遺跡群アナザー・ダイヴ・リワールドで没データが甦ってみると、やっぱりいやがった。


「それにしても何てタフな爺さんだ」


 爆弾のお土産なら10個くらい差し上げたはず、30回以上は火だるまにし、同じくらいに斬り付けたはず。それでまだ倒れないのだから…。


 更に姿を消しての転移攻撃が厄介だ。これはラスボスの大魔王ボトンと全く同じなのだが、もはや勘のみを頼りに出現位置を予測するしかない鬼畜仕様…。昔だからこそ許された理不尽ラスボス。


 そのラスボス強化版といった強さは攻略後のトライアル的な存在だったのか?この爺さんこそ『デルタの剣風伝』の裏ボスと呼んでいいだろう。


 しかも、フルダイヴ化で難易度に凶悪さが増してしまうパターンだ。


 上から見下ろしのプレイヤービューだったディスクシステムの頃と違い、主人公ランク視点だと正面に捉えているところ以外は全て死角…。


 2Dではなく3Dなので当然ながら上から不意を衝かれる事もある。


 とは言え、それにばかり意識を集中させると篝火から飛んでくる火炎放射にやられる。右手の盾で防げはするが対応がどうしても遅れがちだった。


 そんなわけで、敢えて背の後ろをがら空きにする様な位置取りをしての爆弾ばら撒き作戦で臨んだわけだが、もうそろそろ弾切れ…。


 残る手は……、やってみるか。これまでと何かを変えたかと言えば耳を澄ます事だけ。


 、出来るだけ大きく弧を描いて戻ってくる様に調整してみたアレがモンスターに当たった時のヒット音。


 その方向に振り向いて左手に持つミラクルソードを突き出す。


「ぐほっ……」


 遅かったか…。爺さんの左手から繰り出された剣の方が僅かに早く、俺がダメージを受けた。その瞬間に爺さんは再び姿を消している。


 使ってみたのは『デルタの剣風伝』で最も使い勝手のいいBボタン枠道具の【ブーメラン】。


 ダメージソースというより当てた相手を痺れさせて動きを止める攻撃補助道具、その上アイテム回収まで出来てしまう万能道具だった。


 それが当たり判定の音を発するのを頼りに、見えない位置に姿を現した爺さんの位置を探知しようとしたところまではよかったが…。


 ミラクルソードを突き出すタイミングが遅れたとは…

 

「残るLIFEは4か……」


 今ので1つ削られ、ミスが許されるのはあと4回のみだ…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る