第9話 おっさんゲーマーの歳の功(没クエスト発生中)

 魔塞都市ベルナダウン。その中心部にある商業区画の大通りの両端にずらりと並ぶ露店ではいつもの様に大勢の客で賑わっていた。


「お嬢ちゃん、熱いうちに食べなっ!」


 その中の一つ、少し小太りで陽気な店主が肉を鉄串に刺して焼いた簡単な料理を客の少女に手渡し母親から代金を受け取っていた時。


「ママ、あれ何?」


 突然、少女は空を見上げて何かを指さす。


「あぁ、流れ星よ。 えっ……、嫌だ、何よアレ!?」


 母娘が目にした流れ星は…数え切れないほど。光の尾を引いて東から西へ流れていくそれは突如として向きを変え地上を目指し始めた。


 星のスコール。そうとでも呼ぶべき災厄が都市に降り注ぐと至る所で上がっていた人の悲鳴は轟音の中に搔き消えていった。そして、地表では少し小さめなクレーターの様な穴が残るばかり。


 生き延びた人々は辺りに充満する何かが焼け焦げた臭いにむせていた。


「ひぃぃぃぃ!! 誰か助けてぇ」


 運よく助かり何とか穴から這い出して人間。そう見えた者に誰かが手を差し伸べると、まるで機械仕掛けの人形の様なぎこちない動きで手を振り回す。助け出すつもりで差し出された手は肘の辺りから斬り落とされた。


 その場に崩れ落ちて悶える人間。そこに、人間らしきものがやはりぎこちなく歩みで寄せてはチェーンソーの様な音を響かせながら再び手を振るう。ゴトリと人間の首が落ちる。


 たちまち人間は人間の様なものから逃げ始める。その様な光景はあちらこちらで起き凄惨を極める光景となった。



 俺とオデンさんは周囲のそれより少し高い石造りの建物の上からオリジナル版では詳細が描かれなかった魔塞都市ベルナダウン崩壊の始まりを眺めていた。強制イベント、全く身動出来ないままにおぞましきを見せられた…。


『魔導のチカラを恐れる邪星帝ネーブラによって一日で滅ぼされた』


 オリジナル版ではメッセージウインドウにただそれだけの表示で済まされたものだ。それが実際にはクエストとして用意されていたが結局は没となり、データの奥底に眠り続け今こうして甦った。


 強制終了。ようやく動けるみたいだな。


「崩壊シーン、ちゃんと出来てたんですね。でも、よりによってフルダイヴのリメイク版で見ちゃってるから大夫エグいヴィジュアル化してしまいましたけど……」


 途中から目を覆い隠そうとしたが強制なので金縛りにあったかの様に震えていたオデンさんがそうポツリ。


 全くだ…。


 ここに入ってからすぐにパーティを組む事になったが相手だが、まあ、アレを1人で見させられるより被害者仲間がいた方が少しはマシだったかな、と。


「没モンスターにモブ人間のキャラデザをあてがっていたからおぞましさ倍増。当時は何気なくそうしただけなんだろうが、せめて雑魚モンスターとか他の方法があっただろ」


「えぇ……、そうですねぇ……。ところで、住民の人々が可哀想な気もしますが先を急ぎませんか? それにクエストを終わらせればこの殺戮も終わるでしょうから」


 ゲームとは言え、この惨劇を目の当たりにしてドライだ、過ぎるほどにドライな人だ…。


 だが強制イベントとしては終了したが人々が逃げ惑う状況は未だに続いている。これは…。


「オデンさんも割と……」


「薄情とか言わないで下さいね。これゲームデータなんですから」


「いや、そうじゃない。割と甘いんじゃないかっと」


 俺は建物から飛び降りた。


「ちょっと! オクラさんっ!! 私の話聞いてました?」


 長いスカートを引きずってもたもたとこちらへ向かって逃げていたご婦人とすれ違う。彼女の背を守る様に追って来た者との間に身体を滑り込ませた。


 とりあえず、1人っと。


 妙な機械音を撒き散らしながら首が変な方向に捻じ曲がった格好で迫るモブの少年がキャッキャッと笑いながら駆け寄って来る。そいつに剣の一撃を叩きこんだ。主人公キャラの専用武器『ラグナソード』で飛びっきりのを。見た目少年がエグい事にはなったが。


 ※※※『機動星兵デストロイ』ダメージ9999※※※


 ダメージ判定と共にモンスター名が表示された。こんな名前のヤツは初めてだ、没モンスター始末という事で。


「オクラさん。もしかして、没モンスターを狩ってモンスター図鑑埋めようとしてます? そういうの後でやってもらっていいですか……」


「違う違う。あのね、ゲームにはたまにあるんだよ。こういう状況で一定数の住民を逃がさないとゲームオーバーとかクリア報酬に影響が出るとか」


 ※※※離脱数【1】※※※


 やっぱりな。


「あっ、カウント表示が出ましたね! それにしても、どこでその可能性に気付いたので?」


「まあ、条件反射みたいなものかな。何十年間もゲームばっかりやってるとそうなる様な」


「はぁ……、そういうものですか?」


「毎日海に出る漁師は天気がわかるようになる。聞いた事ないかな?」


「それはありますけど。ゲームも肌感でいけるようになるのかな……」


 何となくわかったのは確かだが。ヒントというか前振りみたいなのは、モンスター入りの物体が落ちた後にクレーターみたいなのがポコポコ出たところだろうな。あれが絶妙な位置加減で住民が逃げるのを邪魔していた。


 つまり、都市破壊演出シーンに忍び込ませた障害物出現シーンってなところだろうと。


「オデンさんも協力してくれないか!?」


「はいっ! クエスト攻略の手順であればもちろん!! では、いきますね!」


「いや、そのまま!」


「えっ? どういう?」


「上から住民の逃走状況を教えてくれ。どの通路に移動してどの住民から助ければ効率がいいのか? フルダイヴ型にリメイクされた副作用だ、目の前の状況しかわからない」


「あっ、はい!!」


 このゲームはそもそも2Dのドット絵でプレイヤービューは上から見下ろしたもの。主人公視点になるなんて想定されていない時に作られた没データは見下ろし前提の難易度。


 フルダイヴ化で開発時の想定より難易度大幅上昇…。そういうケースもあるんだな、覚えておくか。



 ガシガシガシッ…、ギゴギゴ…。


 見た目は人間、中身はおそらく機械、その名は機動星兵デストロイとやらもこれで30体ほどをガラクタに。


 ※※※離脱数【30】※※※


「お兄ちゃん、ありがとう! お礼にこれどうぞ」


 最後に逃がした住民から声をかけられたので後ろの方を振り向いた。鉄串に刺して焼いた肉をくれるらしい。


 あぁ、最初のあの娘。無事だったか。


 ※※※ミニゲーム『逃げ惑う魔塞都市の人々を救え』コンプリート※※※


 ※※※アイテム『お嬢ちゃんの感謝の気持ち』※※※


 そう、らしい。しかし、これのどこがミニゲームなものか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る