第2話 その地名『マップ138』

 地名『マップ138』。ドラグーン・ファンタジアのワールド内にその様に表示される場所がある。


 最初にそこを発見したプレイヤー達が踏み込んでみれば何の変哲もない村の光景が広がるだけだった。


 畑を耕す農夫に犬を追いかけて走り回る子供。フルダイブVRMMO化した事で個体毎に多少の違いは出たが、どこにでもいる様なモブキャラ達が暮らすのどかな村であるのに違いはなかった。


 プレイヤー達が農夫の脇を通り抜けて行こうとした時、彼は笑顔を浮かべ気さくな様子で話しかけてきた。


「旅の方。この村は野菜が有名でねぇ、今朝採れたのトマトでも食べていくかい?」


 農夫はそう言いながら手に持っていた鎌でプレイヤーAを斬り付けた。そのただの一撃でHPは1/3ほど削られ瞬く間に戦闘不能に。それを合図としたかの様に他の村人たちも実にほがらかな顔で寄って来ては凶悪な一撃を繰り出し始めた。


 慌てて応戦を始めた残りのプレイヤー達は苦戦を強いられた。村人の姿を持つ者達に表示されていた名前はカオスゴブリンにゴッドデーモン。それらがシリーズ二作目以降に出て来るモンスター名だと気付いた時には壊滅していた。


 名前が無く適当な数字が割り当てられている。適当なモブキャラの姿をしているが中身は全くの別物。開発段階で放置される事になった没データにはよくある話で、マップ138の噂がプレイヤー達の間で拡散するとすぐに没データ領域として注目される様になった。


 そうして没データの発掘を旨とするプレイヤー達が大挙して押し寄せ攻略が進むと村の奥地にある祭壇から飛べる異空間と一体のモンスターが発見された。表示名『破竜神ドグーマ』、ラスボス名が『破竜マグード』であった事からそれは裏ボスなのだと目される事となったのである。



 今、おっさんゲーマーの根深蔵人は地名『マップ138』へ足を踏み入れたところである。


 ん?消えた、このエリアに入った途端にBGMが止んだ。本当は専用BGMを用意するつもりだったが付ける前に没が決まってしまったエリアという事か。


 だが、無音な感じがそれらしい雰囲気を醸し出している様な気もする。ここが噂の地獄の138番地。


 モブ村人の没モンスターどもを蹴散らして森の奥へ。早速目に入ったのは祭壇の前にそびえ立つ山、何人ものプレイヤーが積み上がって出来た山だ。まだまだ高くなりそうだ、祭壇の辺りから弾き出される様に現れたプレイヤー達がわらわらと。


「ぐっ……、ダメだった。破竜マグードラスボスを余裕で倒せるレベル50で10秒間もたないとは化物すぎる」


「やはり、最初の一撃で即死か?」


「没データだ。そもそも何とか倒せる程度の強さにすら調整されていないのかもしれんぞ……」


 さてと、俺の予想通りならば30年前に戦う準備は整っていたはず。さて、あまり気は乗らない部分もあるが仕方ない、着替えるか…。


 最強装備からソレに代えた。途端に寝転がっているヤツらの視線が飛んで来た。


「あんた、どういうつもりだ? そんな骨なんかを全身に付けて……」


「冑も鎧も盾も骨製? それに何かの牙を握りしめて……。どこでどうやって手に入れたか知らんが完全にネタ装備じゃないか。ぎゃはっはっはっ!」


 確かにそう見えるかもしれない。これは普通にやってたくらいじゃ入手出来ないレアアイテム、それでいてクズアイテムだ。


 ドラグーン・ファンタジアには雑魚モンスターとして4種類のドラゴンが登場する。3種類がそれぞれに骨防具を、1種類が牙を落とすわけだがいずれもドロップ率1/1092。1092匹倒して入手出来る確率は66.22%しかない。


 その苦行を越えて4種類全て手に入れてみてもアイテム説明欄には【古の竜の骨でつくられし物】、【古の竜が遺した牙】と簡単に表示されるだけ。肝心の性能表示も【防御力※※※】、【攻撃力※※※】といった具合。


 いざ装備して戦うと雑魚モンスターの一撃で防具は砕け散り、牙は折れる。骨だし、牙だから、そういう小ネタ付きかと思えば本当に所持アイテムから消えているという……。


 不測の事故で味わった後悔を乗り越えて揃え直してみたが結局のところ使い道は見つからないままだった。だが、クズアイテムにしてはそれなりの設定が存在する。どうしてだ?


 もしや消し忘れ?対になる物は没にしたがこっちはうっかりと。発売済みのゲームにそんなミスが残っていたなんてよくある話だ。


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