第2話 ラバスト
話しかけられないまま何日かたった。それでも気になったのはやっぱり「推し」の話がしたいからだ。でも話したことのない女の子に話しかけられないよなぁ。小学校から一緒の子とか話しかけられたら普通に話しかけられるけれど、一度も話したこともない子に「推し」のことを話すのはちょっと厳しい。
否定されても好きでいられるけれど、できれば好きでいてほしい。そんなときに思いついたのが、自分も何か推しのものをつけていけばいいのではないだろうか。手っ取り早いのはラバストかなぁ。
そんなにたくさんつけてなければ先生たちに怒られないし、みんな各々のラバストをつけている。いくつか持っているけれど、去年誕生日を祝うラバストがあったので買ってしまった。ラバストはこれしかないからつけて行った。
次の日学校に登校したとき隣の女の子はもう来ていたので、そちら側にかばんをかけてみた。カバンを脇にかけたとき、一瞬動きが止まって見られたような気がした。
そういえばつけていたのだと思い出して女の子を見てみたけれど見ている様子はない。その後もラバストを見ている様子はなかった。やっぱり気のせいだったかなぁ。ただデザインが好きで使っていただけなのかなぁ。少しがっかりしたけれど、今まで通りにひとりで推せばいいだけだと心に決めた。
次の日、ペンケースが変わっていた。小さくロゴが入っている前のも持っていたが、明らかに「推し」が大きく入っているものを持っていた。長い時間机に出しているわけではないけれど、もう一つ別の筆入れを持っていた。
女の子ってなんだか色々なペン持っているから、ふたつ持っている子はそんなに珍しいことではなかったが、どちらも推しの入っているペンケースだ。これはやっぱり好きなんじゃないかともう一度思うようになった。
さらに次の日シャーペンが変わった、そして次の日消しゴムが、下敷きが変わっていった。着々とグッズが増えてくるのでもう自分の中では同じ「推し」を推しているのだと確信した。
しかし、しかしである。それで話しかけられるかって言われると話しかけられるわけないのだ。なんでだろう、クラスメイトの女子に話しかけられないことなんてないのだ。普通に話している。なんで彼女にだけは話しかけられないのだろう。やっぱり怖いんだ。「推し」も自分も嫌われるのが怖いんだ。昔のこともある。また否定されるのが怖い。
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