第40話 551も富士山も……

 副校長先生は最後に、帯同ナースからの伝言だと言い、

「新幹線に乗ると、列車の揺れで腸が動いて、また吐く事があるかもしれません、という事です。」

と言った。揺れで腸が……ああ、だから私もさっきお腹がね、なるほどね。

そして副校長先生と別れ、ホテルを出た。次男が、

「ちょっと観光する?」

とか言う。バカ言ってんじゃないよ。丸一日何も食べていない人を連れて、どこへ行かれるって言うんだか。それに、新大阪駅近辺には、観光地もなさそう。反対側は分からないが、北口には何もない。

 次男の切符は渡してもらえるのかと思っていたら、なかった。そうか、京都からの乗車だもんな。それに、恐らく団体切符なのだろう。後で払い戻してもらえないかな(と思ったのだが、残念ながら払い戻してはもらえなかった)。何せ、運賃は高い。次男が、

「6千円くらいでしょ?」

と言ったが、それは乗車券のみの値段。特急券と合わせるとその2倍なのだよ。発券機で次男の切符を買ったら、

「ほんとだ!」

と、次男はビックリしている。そして、申し訳なさそうにしている。せめて学割料金にしたかったよ。一応現金を多めに持ってきていたものの、もしクレジットカードで切符が買えなかったら足りないところだった。危ない、危ない。

 改札口から駅構内へ入ったが、551の店はどこだか分からなくなってしまった。それに、次男が割と元気そうなので、私は午後の産婦人科へ直接行こうと決めたので、冷凍ものは買わない方が良かろう。こんなに交通費がかかって、その上お土産まで買えない。

 いやーでも、大好きな大阪に来たのに、とんぼ返りとは勿体ない。残念だ。帰りは始発で、各駅停車?だったので、空いていた。2人席に座って、富士山を見ようと思っていたのに、次男は眠っていたし、うっかり本を読んでいたら窓の外を見るのを忘れて小田原に着いてしまった。多分、天気が悪くててっぺんは雲に隠れていただろうが。しかし、裾の方だけでもいいから富士山を近くで見たかった。これも残念。

 次男を品川から1人で帰し、私は他の電車に乗って産婦人科へ。電車の中で「BTS活動中止」というニュースを見てびっくりした。これは結局デマというか、誤解だったわけだが。

次男はちゃんとした食事は摂れていないものの、腹痛は治まり、入院しなくてよさそうだ。また鼻から管を入れるのが嫌で、大きい病院には行きたくないと言う。私が産婦人科に行っている間には、自分で購入してきた宮島のお土産「もみじ饅頭」を食べたそうだ。ずいぶん大量に買い込んできたようだが、そのもみじ饅頭のお陰で彼は無事、生きていた。

 次男の話では、今回お腹がこんな事になったのは、尾道でのお昼ご飯の際、あまりお腹が空いていなかったのに、どうしても食事を残すことができず、ガッツリ系のご飯を残さず食べてしまったからだと言う。本来は食べ盛りの高校生、食べようと思えば一人前くらいは胃に入ってしまう。だが、疲れなどで腸が上手く動かないので、その後困った事になるのだ。お腹が空いていないなら残せばいいのだが、私が厳しく育ててしまったせいか、食事を残すことに罪悪感が半端ないようだ。だからって、後からこんな事になれば、残すより迷惑をかけ、どうせ勿体ない事になるのに。それは、頭では分かっているようなのだが。まあ私も、たとえお腹がいっぱいでも、ダイエット中だったとしても、飲食店でご飯を残す事は絶対に出来ない人だから。それは、厳しく育てられたというよりも、親の背を見て身に着いてしまった性(さが)なのだろうな。

 3時半には私も帰宅して、夕飯も作った。移動距離は長かったものの、自分は座っていただけなので、思った程疲れていないようだ。それにしても、次男のお陰で色々な経験をさせてもらえるものだ。次男は、吐き慣れて人様に迷惑をかけずに吐けるようになったと言っているし、私も慣れて心配しなくなってきたかもしれない。

 次男は可愛がられ、保護されているようだが、痛みや苦しみに人一倍耐えているのだ。決して弱くなんかない。あーいや、忙しいのには弱いが。

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