第28話 退院の朝

 次男の退院当日、私は長男と車でバーベキューの買い出しに行く事になっていた。それは午後に行くとして、夫と私は、午前中に車で病院へ向かった。前述した通り、車は義母宅のものである。9時半ごろに病院に着くように出かけた。すると義母からLINEが入った。

「早くから買い出しに出かけたのですか?」

しまったー!義母に退院の事を伝えるのを忘れてたー!夕べ、私の実家の両親には伝えたというのに。つい、ぬか喜びさせてはならぬと思って、そのまま今日になってしまった。

「実は、急に次男が退院する事になって、迎えに行くところです」

と、慌てて送ったのだった。「急に」を付けて。そして、それに加えて、

「早く退院できて良かったですね!」

と、にっこりマークまで加えて書いたところ、

「わかりました」

と、絵文字も何もない返事が……。

 いやいや、親世代の返信に一喜一憂してはいけない。私の母は何でも「了解しました」と返してくるし。でも以前、義母から仕事を頼まれた時、その時間は歯医者の予約が入っているんです、と返したら、

「だったらいいです」

と返ってきて、一瞬凹んでしまった。その時にも次男が慰めてくれたっけ。表現力の問題だから、とか何とか言って。これについても、多分しゃべるのであれば、明るい声で「ああ、だったらいいわ」と言ってくれるところ、文字だからこのようになったのだと思われる。よくよく考えればそうなのだが、文字は誤解を生む。多分、誤解。そう思いたい。

 さて、9時半に病院に着いた。すると同時に次男から、

「準備できたよ」

とLINEが来た。私1人で病院に入っていった。キャリーケースに次男の洋服だけを入れて。

 そう、夕べ危なかった。服を持って行くのを忘れるところだった。靴下やTシャツは持って行ってあったが、車だからってTシャツとパンツで帰って来るわけにはいかん。せめてGパンを持って行ってやらねば。ちゃんとトレーナーとベルトも用意して行った。

 受付では緊張してしまった。やっぱりセキュリティの厳しいのは嫌いだ。用件を聞かれ、子供の名前を聞かれ、それで、検温だけで通された。退院患者の名簿があるらしい。まだ面会時間ではないので、この間とは違う対応だったのだ。書くのはいいが、言わなければならないのは苦手だ。

 例によって2階の西病棟へ行く。面会時間に行った時には、衝立で見えないようになっていたが、今日は何もなし。どこまで入っていいのか分からん。その辺の掃除の人にナースステーションの場所を聞いて、案内してもらった。

 ナースステーションで次男の名前を言うと、

「ああ、学校から救急車で搬送された……。」

と言われた。はい、そうです。その次男です。

 そうしたら、看護師さんがキャリーケースを受け取り、私はまた入り口のパイプ椅子に座って待つようにと言われた。待っていたら、着替えてキャリーケースを引く次男が1人でやってきた。

「あれ?退院の手続きとか、しないでいいの?」

と聞くと、

「なんか、いいみたいよ。」

と言う。でも、色々聞きたい事があったのに。

「食べ物とか、何か聞いた?」

「柔らかい物を食べてねって。」

「薬はもらった?」

「もらった。」

「来週の13日の金曜日に来るようにって言われたけど、聞いてる?」

「聞いてる。」

「何時でもいいって言われたけど、何時までかな。」

「午前中だって。」

なるほど、ちゃんと聞いているわけか。退院のお知らせの電話の時に、先生から13日に来るようにとも言われていたのだ。何時でもいいと言われたが、外来受付は午前中だったか。学校が終わってからではダメなのだな。それじゃあ、なるべく早く来て、診察が終わったら学校に行く感じだな。学校に近くて良かった。

 というわけで、ただそのまま病院を出てきたのだった。休日に退院の場合は、請求書を自宅に郵送すると書類に書いてあったし、どうやらこれで帰って良さそうだ。

 それにしても、車は楽だった。電車だと45分くらいかかるのに、車だと20分だもの。次男は首を寝違えたとかで、お腹よりもそっちの方が辛いと言っていた。

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