土魔法じゃ冒険者になれないってマジですか?~不人気魔法と拳で異世界を生き抜きたい~
メガネ紳士
第1話 プロローグ
―末筆になりますが、佐藤様のこれからのご活躍を心よりお祈り申し上げます。
「ああああああああ!!また落ちた!!!何社目だよ!」
数えるのが馬鹿らしくなる程見慣れた文章。
(どうして世界はこんなに生きにくくなったんだろう…?いや昔知らんけど…)
AI技術の発達に伴い失われていく就職先。
若者は働くことさえ許されないんだろうか。
俺こと佐藤遊太は今日も今日とて就職活動中だ。
驚くほどに世界は平和である。
小さな争いはある。経済格差もある。
だが世界は平和である。
日本で過ごす上で餓死するような状況ではない。
日本に産まれて良かったとさえいつも感じている。
(仕事さえ決まればな!)
そう仕事が無いのだ。
「何でもいいんだけどな~。生活に困らない程度に金さえ稼げれば。」
佐藤遊太、21歳。
身長170㎝、体格普通、成績普通。
どこに出しても恥ずかしくない程に平凡な俺。
将来の夢はのんびり暮らすこと。
そんなありふれた生活の第一歩を踏み出せずモヤモヤとした状態が今。
◇
「で、どうゆう状況?これ?」
数秒前までコンビニで肉まんを買っていた俺は真っ白な部屋に立っていた。
訳が分からない。
周りを見渡しても真っ白。本当に何もない。
―訂正。認識したくないけど、1つだけ視界に入る。
『世界へ羽ばたけ若者!』
そんなことを書いた旗を振っておっさんがガン見してくる。
どことなくコンビニのレジ担当の人に似てる気がする。
(声かけるしかないよな…。いやこんな状況でどんな話題振ったらいいか分からんよ…。)
コミュ障ではない。だがコミュニケーションが得意でも無いんだ俺は。
混乱する気持ちをグッと堪え、旗振りおっさんに声をかける。
「あの~肉まんまだですかね…?」
「この状況で肉まん頼まれたのは初めてだよ!違うでしょ?!」
旗を床に投げ捨てたおっさんが叫ぶ。
叫びたいのはこっちだよ!
◇
「落ち着きましたか?」
「こっちの台詞!なんでそんなに落ち着いてんの?!」
俺自身混乱しまくってるが、おっさんの暴れっぷりを見て逆に冷静になった。
ありがとう見知らぬおっさん。
「んんっ、はい。大丈夫。落ち着いた。君は...大丈夫だね。」
「はいおかげさまで。で、ここはどこですかね?」
「うーん、ここは名前無いんだよ。突然だけど頼みたい”仕事”があるんだ。」
なるほど、どうやら採用面接のようだ。
面接のプロとしてここはガツンと決めていくしかないな。
俺は定職に就きたいのだ!
「はい!御社の理念に共感しました!学生時代は空手で県大会3位に入り、努力する素晴らしさ、最善の結果を得る難しさを体感しております!御社に入社した暁には、基礎的な勉強を欠かさず地域の方に貢献できるよう努力してまいる所存です!」
「急にギア上げて来たね?!」
「えっ」
「えっ」
「御社にアピール出来る点としては、私の生活スタイル、採用後の柔軟性です!勤務時間および勤務地のこだわりはありません!独身のため転勤なども柔軟に対応可能です!日勤でも夜勤でも真摯に取り組んでまいります!」
「仕事の面接じゃないよ?!」
「えっ」
じゃあ、どういうことなんだ...?
「そもそも、私の会社経営者じゃないからね。一度落ち着こう?」
「じゃあ仕事って何ですか?定職に就きたいんですけど!」
「落ち着いて、よく聞いて?私は神です。」
「はい。」
「ん?だから神です。」
「ですから、はい。」
「あの、結構偉い人なんだけど...。はいで終わるの?」
「あっ!神様!今日も決まってますね!」
「微妙なヨイショはいらないよ!」
旗振りおっさんは自称神様らしい。
「さっきも言ったけど君に任せたい仕事があるんだ。引き受けてくれるかな?」
「お任せ下さい!勤務地や勤務時間にもこだわりはありあま「それは聞いたよ!」
くそ...偉い人は会話被せてくるのか...。
「君にはこの日本から飛び出して、とある世界で活動して欲しいんだ。」
(勤務地は日本以外と)メモメモ...
「私が管理してる世界なんだけど、新しい風を入れて少しでも発展を促したいってわけ。」
(仕事は地域の発展と)メモメモ...
「私が求める人材は健康で危険な思想を持っていないこと。そして仕事に対する熱意があることだよ。」
「募集条件は結構緩いんですね。」
「そうだね。正直命の危険性が無いとも言えないから、危険に対応する能力は欲しいけど、日本だとそんな人材少ないからね。だきょ...緩くしているね。」
この自称神様、完全に妥協って言った。
「今なら現地になじみやすいように、移住特典もついてるからおススメだよ。どうする?少し考えてもらっても大丈夫だけど」
(就職活動を続けていくのも精神的に辛い。そろそろ腰を据えたいから受けるべきか?命の危険ってのが気になるけど、普通に考えればめちゃくちゃ危険な所に人を送らないだろう)
「いえ、任せて下さい!いつでも勤務開始できます!」
「よし、何か致命的なまでに話が嚙み合ってない気がするけどどうにかなるでしょ。じゃあ早速移住特典について説明するよ」
自称神様から言われた内容は以下の通りだ。
<移住特典>
①言語は自動翻訳されるので勉強の必要は無い
②特典スキルとして何でも1つ与えてくれる
③小さな町の赤ちゃんになる
「なるほど、無職の俺を馬鹿にしてますね?」
「なんで?!」
「移住特典としてば住宅貸し出しとかの福利厚生とかでしょう!何ですかこの変な内容は!」
「いや本当なんだけど...。とりあえずスキル選んでみる?」
(駄目だ。完全に気持ちが折れてしまった。無職は見知らぬおっさんにまで煽られるのか...。もう適当に話して家に帰ろう...。)
それからの事はあまり覚えていない。
おっさんと会話をして、適当に話を合わせた。
失意の俺はおっさんに誘導され、突然現れた扉を開いて白い世界を後にした。
◇
そして俺は…
「おぎゃ?」
俺は赤ちゃんになっていた。
これどういう状況?
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