第25話 逃避行
家に到着するとゴロゴロとし始める。
こういうまったりとした時間が好きだ。
「悠人さん〜」と、家の中でも可愛く甘えてくる葵ちゃん。
「ん?どした?」と、俺も抱きしめながらイチャイチャとしていると、ピーンポーンとチャイムが鳴る。
その瞬間、何故だか嫌な予感がよぎった。
「はーい」と言いかけた葵ちゃんの口を思わず塞いだ。
これまでの人生でも何度かこういう嫌な予感みたいなのがよぎったことがある。
その時、大概碌でもないことが起こった。
そうして、俺は葵ちゃんに静かにするようにというジェスチャーを行い、ゆっくりとインターホンの液晶に近づいていった。
恐る恐るそのボタンを押すと、そこには明らかに頭の悪そうな格好をした男女が2人。
男はアロハシャツを着ており、女はその年齢ではダメだろうといったはだけた服装をしていた。
その姿を認識した瞬間、葵ちゃんが小さく呟いた。
「...お母さん」
雀の囀り程度のその声量で発せられた声が俺にははっきり聞き取れたのだった。
そして、そのままインターホンを液晶を切り、葵ちゃんに近づく。
顔は青ざめて体は震えていた。
「...大丈夫。俺がいるから」というと、力強く袖を掴むのだった。
「...ごめんなさい」
「葵ちゃんが悪いことなんて何もないよ。大丈夫」
しかし、インターホンは鳴り続ける。
それから10分ほど経ったタイミングで、ようやく鳴り止んだ。
すると、緊張の糸が途切れたのかその場でへたり込む。
そのまま優しく抱きしめる。
「...この街を出よう」と、俺は呟いた。
それは葵ちゃんに言った言葉なのかそれとも自分に言い聞かせた言葉なのか俺には分からなかった。
◇
あれからすぐに引越しの準備を始めた。
引っ越すことを両親に伝えたら、もともと解体の予定だった家だったから引越しについては問題ないとのことだった。
そうして、俺たちは少し遠くの県に引っ越すことにした。
もう怯えることのないように、遠くに。
不動産に話をして出来るだけ早く引越しがしたいことを告げた。
引越し予定の県がやや過疎っているということもあり、すぐに家は決まり引っ越しも来週には可能とのことだった。
勿論、その期間黙っているわけにもいかないので最低限の荷物を持ってすぐに退去をし、大きな家具とかは運ぶことを諦め改めて購入することにした。
そして、1日目。
家から離れたホテルに泊まることにしたのだった。
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