第12話 喧嘩

「そんで?いつ辞める予定なんだよ」


「...そろそろだな。一応うちの会社のルール的には1ヶ月前だから。まぁ、篠田にバレずに行けたら御の字だが、どうやったって直属の上司の耳には入るだろうからな」


「労基に相談すりゃいいって話でもなさそうだもんな」


「勿論、話だけは通すつもりだけどな」


「んじゃ、あれは?退職代行みたいな」


「それも選択肢にはあったけど、悪い噂も聞くしな。悪徳業者がいたり、そもそも退職代行での退職を拒否したり、損害賠償を請求するケースも少なくないからな」


「やっぱそういう感じだよなー。それでも直接辞めたいっていうよりマシな気がするけど」


「そういう玄太は辞められそうなのか?」


「ん?俺はそこそこ営業成績出してるからねー。多少渋られるとは思うけど別に関係ないからな。辞めたいですお願いしますじゃなくて、辞めますっていう報告だから」


「そっか。とりあえず今日一回部長に話してみるよ」


「おっけ」


 ◇


「部長。少し時間よろしいですか?」


「ん?なんだ」


「...この会社を辞めさせていただきたいのですが」


「...それはいきなりだな。最近は下の教育にも力入れてくれてると篠田から聞いているぞ。もう少し頑張ってみてもいいんじゃないか?」


「...すみません」


「...そうか。まぁ、話はわかった。代わりが必要だからな。そういうところも含めて一旦篠田にも聞いておく」


「...分かりました」


 やっぱりこうなったか。

まぁ、わかってはいたが。

とりあえず、川上にも全てを話しておかないとな。

それと...。


「部長、少しだけ二人で話せますか?」


 部長と二人きりで話した後、川上を探していると、会議室の中から声が漏れて聞こえてきた。


「やめてください」


 嫌な予感がして扉に手をかけるが鍵がかかっているようで開かない。


 ガンガンとドアをいじっていると他の人が集まってきて、「どうしたの?」と聞かれる。


 すると、扉が開いて中から篠田と川上が出てくる。


「扉ガンガンやめてよー、高橋くん」


 川上の涙目を見て俺は確信する。

やましいことをしていたということを。


「いえ、川上と話があったので」


「ふーん?それって仕事の話より大事なこと?」


「仕事の話なので大事ですね」


「...ふーん」と、やや不満そうな顔をしながら「また後でね、川上ちゃん」と言いながら手を振って去っていくのだった。


「...大丈夫か?川上」


「...大丈夫じゃないです。無理やりキスされて...胸を揉まれました...」


「...すまん。すぐに助けられなくて」


「...いや、先輩が来てなかったら...私...」


「とりあえず、いろいろ話をしたいから今日の夜時間あるか?」


「...分からないです。篠田先輩に呼び出されるかもしれないです」


「...んじゃ、単刀直入に言うぞ。この会社をやめろ」


「...そうしたいのは山々ですけど、また転職するのも簡単じゃないと言うか...」


「無責任に辞めろと言うつもりはない。お金のこととかは一旦俺がどうにかする。だから、今すぐにこの会社を辞めろ。頼む」


 その俺の言葉に何か察したのか、そのまま荷物をまとめて会社を飛び出すのだった。


「あれ?川上ちゃんは?」


「川上なら早退しました」


「いや、聞いてないんだけど」


「言ってないですから」


「お前誰に口聞いてんの?」


「...お前だよ、篠田」

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