第2話 秘め事

 私は生まれてこない方が良かったらしい。

親から何度も何度も言われてきた。

そう言われながら何度も殴られた。


 テストで一番じゃなかった時も殴られたし、部活で遅くなった日も殴られたし、中途半端に可愛いその面がムカつくと殴られた、笑ったら殴られた、泣いたら殴られた、怒ったら殴られた、気に食わないことがあれば殴られた。

そうして私はいつの間にか感情を失った。


 ある日を境に体からあざが消えることは無くなった。


 私は誰かに必要とされたかった。


 そんなある日、お母さんの彼氏を名乗る人に犯されそうになった。


「可愛いね!葵ちゃん!俺としよ!ね!」と、胸を無理やり揉まれ、舐められた。

どうにか、逃げ出したがそれから何度も襲われそうになった。

そのことでまた母に殴られた。


「お前顔はいいもんな」と言われ、クラスメイトに無理矢理されそうになったこともあった。


 自分なんか生まれてこなきゃ良かった。

そう思っていた。

親も、先生も、警察も、児童相談所の人も、誰も私を助けてくれなかった。


 助けてくれなかった理由はわかっている。

それは私が必要ないからだ。

この世に私を必要としてくれる人はいない。

私も私が必要ではないと思っていた。


 だから私はロープを買って、ここら辺で有名な自殺の名所に向かった。


 けど、ある人が私を助けてくれた。

必要だと言ってくれた。


「それがお兄さんだった。お兄さんは私を私として見てくれた。だからね...私のあげられるものは全部あげる。だから...その代わりここに居させてほしい。私を必要として欲しい。どんな形でもいいから...」


 ようやくした話はこんな感じだった。

相変わらず淡々と童話を読み聞かせるような、まるで他人事のように自分の昔話をする彼女が少しだけ怖かった。


 もし、ここで俺が突き放せばきっとこの子は本当に死ぬ気だろう。

そんなのは...絶対ダメだ。


「...事情は分かった。まぁ、この家一人暮らしにしては無駄に広いし、ここに居ていいよ」


「本当ですか?...断られると思ってました...」


「...とりあえず、色々揃えないといけないし、少し元気になったら買い物に行くか」


「いや、大丈夫です。必要なものとかないので」


「いやいや、服とかはないと困るでしょ。ずっと制服とか俺のパジャマ着るのもあれだし...」


「...私は全然いいですよ。お兄さんのパジャマ好きですし...」


「お兄さんじゃなくて、悠人ゆうとな。俺は髙橋悠人だ」


「...悠人さんですね」と、彼女はようやく少しぎこちなく微笑むのだった。


 ◇翌日


 葵ちゃんは元気になり、二人で買い物に出かけるのだが...。

ものすごく密着してくる葵ちゃん。

肘に...当たってるのだが。


 そもそも制服の女の子を連れ回してるとか、なんかやばい気持ちになってくる。

というか、この子の親が捜索願とか出してたら俺逮捕されるんじゃないか?


「...体調は大丈夫?」


「はい。何から買いますか?」


「えっと...ベッドかな」


「ベッドですか。やっぱり布団だと体が痛いですもんね」


「いや、他人事みたいにいうけど買うのは葵ちゃんのベッドだよ」


「いや、いいですよ。私は悠人さんの布団で」


「ダメだ」


「そうですか。じゃあ、2人で寝れる大きさのベッドを買いませんか?」


「え?2人?」


「...夫婦になるわけですから...」


「いや、でもいきなり一緒に寝るのはちょっと...」


「...そうですか」


「...」「...」


「...一緒に寝たいの?」


「すごく寝たいです」


「...じゃあ...まぁ...分かった。俺も布団だと疲れ取れないことあったし...。ちょっと大きめのベッド買うか」


「...優しいんですね」


「別に」


 頑張れ、俺の理性。


 そうして、ベッドを購入し、服を購入し、携帯を購入し、...そして。


「...こういう派手なのはどう思いますか?」


「どうって...」


 彼女の手にはTバック的なものが握られていた。


「じゃあ、黒と白ならどっちが好きですか?」


「いや...」


「...どういう女の子が好きなんですか?」


「...わかんねーな。女の子に好かれたことなんてないし...。誰かと付き合ったこともない。それに...会社でも...あっ、いや、何でもない」


「...帰ったら悠人さんのこと色々教えてください。私も全部教えるので」


「...おう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る