嗚呼、第三種接近遭遇

あかくりこ

第1話

 アブダクションされた。

 天体観測をしていたら、流星とも人工衛星とも微妙に違う変な移動物体が目に留まった。どうせドローンだろうなぁと、思って眺めていたらそいつがフラッシュを焚いたようにまばゆく光って目がくらんだ。目が覚めたら得体のしれない管だの点滅するパネルだのが壁一面を埋め尽くす空間で、銀色の宇宙人、俗にいうリトルグレイに囲まれていた。うわさ話にきくように全裸で銀色の診察台に乗せられていたわけだ。ここは日本だぞ?モハベ砂漠に帰れよおまえら。

 でっかい瞳で俺を覗き込みながらリトルグレイたちが口々に話しかけてくる。

「コワクナイワ、チョットサイシュダケダカラ」

「ハイイイコネー、コワクナイヨー」

「ゴメンネースグスムカラネー」

 なんというか小児科の看護師さんや獣医さんが定期健診の時に話掛けてくるノリだ。そして病院の技師もかくやの手際でてきぱき血を抜き皮膚を削り毛髪を斬りとっていく。手練れだ。

「アラ、コノコモボッキシテルワ」

「ホウコクニアッタショウレイダヨ」

「ヨクアルノヨ」

「サイシュノジュンビヲ」

 なんで追加項目が増えたのかとえば、かっこいい言い方をすると極限状態で子孫を残そうとするあの現象だ。なるほどそりゃ精子と卵子を提供させられたって類いの証言ばっかになるわ。

 しかしサイシュノジュンビってまさか。アレか?ノルディックタイプが素っ裸でやってきて以下略、っていう。

「タノンダワヨ、シンディ」

 本当に金髪グラマーなお姉ちゃんが全裸でやってきた。

「かしこまりましたさいしゅをかいしします」

 すっげぇ美人なんだけど口調が病院の血圧測定器みたいだ。惜しい。

「りらっくすしてください」

 ノルディックが診察台に上がってきた。膝立ちになって俺をまたぐと、前かがみになって手を伸ばしてくる。

 おお、これは。「日曜夕方の名物番組で黄色いおじさんが歌うと拍手喝采のあの歌」を絶唱する絶好のシチュエーションじゃないか。

 ノルディックの手のひらが胸板に触れた瞬間、俺は歌った。こぶしを効かせて一小節を歌い上げた。

 リトルグレイたちがぎょっとして俺を凝視し、金髪ノルディックも俺の反応が想定外すぎたのか「ぴーぴーぴょろろろおろ」と硬直して機械音を上げている。

「イマノナニ」

 リトルグレイがちょっと早口になっている。動揺したのか?そりゃ動揺するよな。胸板を触って歌いだされたらそりゃ動揺するわな。

「シンディシッカリシテ」

 リトルグレイが台に上がってフリーズした金髪ノルディックの延髄をごそごそ弄る。再起動スイッチがそこにあるようだ。

 フリーズ状態から解放された金髪ノルディックが再度挑戦してきた。その度に俺が一小節歌うと、リトルグレイたちがざわつきどよめき狼狽える。分かりやすい連中だ。

「コンナハンノウハハジメテダ!」

「シンディ、カオヲサワッテ、ハンノウヲミタイワ」

「シンディ、ミミヲモウイチド」

「スゴイ‼」

「チガウパターンハナイノカ??」

「モットモット!!!」

 希少な野生種を捕獲して資料を採取したうえに珍しい、いや、反応を見る限り史上初の行動パターンに狂喜乱舞するさまは、未知の生態を目の当たりにしてテンション爆上げ状態の調査隊のようだ。喜んでいただけてなによりだ。


 ......こうして俺は元居た山の展望台に返された。結果はどうなったのかは想像に任せたい。











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