快適な風に揺れ

あんちゅー

綿毛は舞い、風は吹き

春はまだ


あたりは寒々しい風に吹かれ


手肌の出したところから凍るように冷たく


面白いくらいに寒いものだから


私は込み上げてくる感情に任せて笑った


色とりどりの街灯と人々の顔色と


凍ってしまった感情はこの寒さの中でもまだ


硬くしばれ続けている


春はまだ


夢のように暗い憧憬


憐れみかぶれた彼の日常ひとつ取り


思い思われ夢現


ふわりふられて泣き毛虫


多分人の一生なんて短いもので


他人に縋るが愚かしい事なのだ


多くの人を眺めて目が揺らぐ


私が彼等に抱くもの


如何ともし難い憧れにも似た恐怖のようで


早々烟る朝靄の凍えて走る暁日


春はまだ


芽吹きは遠く雨は降り止む


濡れそぼった袖の張り付いた


肌がつっぱり絡めとる


並々溢れる器に訝し


怖々豊けし青息吹


損を承知と微笑んで


嘲る小石に腹が立つたび


己の小さきを見かねて唸る


堪んないなと呟いて


あぁもういいかとうそぶいた


春はまだ来なくても


枯れないように背筋を伸ばして


春がまだ来なくても


私は私であれればいいと前を向く


春が来てもいいように


薄手の袖で風を切る


それでも楽しいものよねと


微笑む彼らが恨めしい



ある時吹いた風が嫌に心地好くて


私は振り返った


空気はどこか濁ったみたいなのに


心ばかりが煌めいていた


また鼻先を掠めるように


一陣吹いた風が攫う


小さな綿毛のひとつが舞って


故なく私は眠たくなった


春風に乗って揺蕩うように


私はほっと冬を終えた








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快適な風に揺れ あんちゅー @hisack

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