夫がダメなら眷属です〜結婚断ったら女神様の眷属にさせられたけど自由に生きていいらしい〜
蛾々らんまる
結婚前夜はまだ早い
まずはお友達から……眷属?
やあみんな、俺ちゃん名無しの権兵衛! あるいはジョン・ドゥ! ……本名? 佐藤田中とかじゃない?
覚えてないことはどうでもよくて、いま人生で一番重要なシーンに直面してるの。だって目を覚ましたら知らない場所で目の前に美女がいるんだから。
「結婚してください!」
しかも結婚ですって、俺ちゃんまさかのモテ期みたい。でも会って五秒でそんな関係ノーセンキュー、お友達から仲良くなっていきたいでしょ。
なので俺ちゃんの答えは――
「ごめんなさい」
誠意たっぷり、頭を下げて謝った。
でも選択を誤った、まさか目の前の美女が異世界の女神様だなんて思いもしなかったから。
なんか世界の管理がどうとかで数千年の間異世界を見ていたらしいけど、特にすることもなくて暇つぶしに別の世界覗いてたら俺ちゃんを見つけて、ついに勢いで呼び出したらしい。
ついでになぜか記憶はほとんど消えてて、自分の名前も顔も覚えてないよ。一般常識はあるのでおそらくメイビー日本人だけど。
「う、うう……一目惚れだったのに、私女神なのに……!」
「ちょっと泣かないでよ! 俺ちゃん女の子の涙がクリティカルヒットするタイプなんだから。ほらほら泣かないで、あなたはやればできる子よ!」
「じゃあ結婚してくれますか?」
「ごめんちゃい」
「うわあああん!」
泣いててほしくない、でも結婚はさすがにねぇ……せめてお友達から始めてお互いのことを知ってからいろいろ進めていこうと思うんだ。
「じゃあ眷属にするぅ! 契約させて決心着くまで一生私の下僕としてこっちの世界で生活させるぅ!」
「そんなファンタスティックなこと勢いでやっちゃいけませ――!」
おう……目の前が光ったかと思ったら知らない森の中だぜ、ワイルドだろぉ?
周りを見渡してみれば木と草しかない大自然だが、遠くにはお城みたいな立派な建物が見える。街でもあるのかなと思って歩き出そうとした時、体がピタッと動かなくなった。
「はい、あなたはこの『星の女神』の眷属として異世界転生しました」
喋ってるのは俺ちゃんじゃないよ、たぶん女神様。体乗っ取られちゃった、てへ!
「まず覚えてもらわないといけないことがあって、私の眷属として『重力魔法』を与えましたのでその使い方を説明します」
しかも魔法あるぅ……めっちゃ異世界っぽい。
「簡単な説明ですし、私があなたの体を使って実践しますので感覚を覚えておいてください」
『感覚で使えるもんなの?』
「魔法ってそんなもんですよ、ではちょうど近くにヴァンパイア・ロードの城があるのであれ使いますか」
パチンッと指を鳴らすと手のひら大の黒い玉が現れて、ふわふわ宙に浮いている。
これが魔法というやつなのか、無から有を指パッチンで生み出したんだが?
「人に合わせて重力魔法って呼んでますけど実際は生星能力です。星を作って質量調整とかして重力を生み出します、試しにこの手のひら大の星を城の真上に持っていって……」
指先の動きに合わせてふわふわ浮かぶ玉が遠くへ飛んでいき、見えないほどの距離まで行ってしまったところで指の動きが止まった。
「サイズはそのまま質量をめちゃくちゃ上げます、すると引力が発生して周辺のものが中心の星に吸い込まれるんですよ」
指先をクイッと動かすと、遠くにある城が揺れ始めて天井からどんどん崩れて空中へ昇っていき、中にいた人っぽいのが大騒ぎでなにか叫びながらジタバタとしているのが見えた。
『だいぶやばくない?』
「まあヴァンパイア・ロードは怪物なんで、減って困ることないですから気にしないでください」
クスクス笑ってますけどえげつない天変地異を起こしているんですわよ? あんなんされたら私の知ってる世界じゃ終末が訪れたと思われるんじゃないかしら?
「指向性をもたせることも可能ですよ、基本円形に作用しますが上手く調整すれば――」
もう一つ生み出した玉を指先でくるくる回して止め、手を開いて引っ張るように握り込むと遠くで浮いていた豪奢な服装をした青黒い肌のおじさんがこっちまで引き寄せられてきた。
「なにものだ貴様!? 吾輩の城に手を出してただですむとでも――むぐっ!?」
「ちなみに決めた物体にだけ作用する引力を作ることもできますよ、星を作り出す過程でちょっとコツがいりますが」
『おじさん息できてないけど……』
「――!?」
声は聞こえないけどすんごい悶え苦しんでる。女神様はニッコニコなのが自分の体だからわかるけど、原因はたぶんおじさんの目の前にある三つ目の玉かな。
「いまやってるのは反重力ですね。星の質量をマイナスにすることで発生します、そして空気だけを指定して飛ばしてるんです」
「――!?」
『はえーすっごい、かなりなんでもできるじゃん』
「ちなみに質量は物体そのものに付加はできないです、自分の体か星を使ってくださいね」
また指を鳴らすと玉が一つ消えて泡吹いてたおじさんが息を吹き返したが、身動きが取れないようだ。
これもまた引力とかだろうか、ちょっと浮いてるし。
「我が眷属よ! この不届き者から血を吸い尽くせ!」
「キイィ――ギャ!」
おじさんの声とともにやってきた悪魔みたいなコウモリの軍団が、一瞬で潰れて小さなビー玉みたいになりボトボトと落ちてくる。
「本当は男神として祀ってもらって天界で新しい星を作る初めての共同作業がしたかったんですけど……仕方ないんですよねー、断られると元の世界返すしかないですし」
『帰る選択肢あったんだ』
「あるにはあるんですけど、帰ったところで記憶ないですよ? 消えたの私じゃなくて転移の影響なんで」
「なにを一人でボソボソと……食い殺してやるっ!」
凄んで叫ぶおじさんだが指一本動かせていない、口をパクパクしているだけで本当になにもできないようだ。
女神様すごーい! でも結婚しなくてよかった、こんな強いと俺ちゃん立場ないですからね。
「まあ頼みたいことと言えば……私は世界生成が専門なんでそこで生まれた生物はノータッチなんですよ、こんなんが蔓延ってるんで気分で消してください」
『気分でいいんだ……世界が危ないから討伐の旅を――だと思ってた』
「本当に危なかったら天変地異起こして一回洗い流しますから」
女神様マジ神様、さらっと生物滅亡させて一から作り直しますなんて積み木で遊ぶ子供じゃないんだから、そんな簡単に言わないで欲しい。
「さて、魔法についての説明はこの辺にしますので手伝ってくれたヴァンパイア・ロードには感謝して消えてもらいましょう。あざっしたー」
『軽っ!?』
抵抗する間もなく内側に潰れていったおじさんは球体にまとまって、それを女神様は軽く踏み潰した。
「次は身体のこととか、あと世界についてご説明しますね」
『アッハイ、オナシャス』
俺ちゃん、生きていることが不思議。
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