レベル03 ただの屍のようだ。遺影ッ!

「ビチ。あんたは勇者。それは間違いない。疑う余地のない事実さね。オッケ?」


 さね魔人よ。マジんがぁ。マジンガー?


 マジんがぁなのか? おおう? コラ!


 コンバトラーVッ! ダルタニアスッ!


 だわよ。


 俺はな。


 遺影ッ!


 って、それならば勇者になる。しまった。しまったぞ。


 ビックリドッキリメカでやられる、あの一味に変身ッ!


 欲しいよ、欲しいよ、髑髏ストーンだ。


 この野郎。なんだバカ野郎。コマネチ。


 つうか。


 街の入り口でな。ようこそ、コカーラの街へ、と定型文を吐くだけのモブだぞ?


 俺はな。


 いや、モブキングが、そうであってはならない。むしろ、返事がない、ただの屍のようだ、が、ベスト・オブ・ベスト。無論、気絶しているだけ。それでも司法からも死亡扱いされるような屍っぷりこそが似合う。モブキングにはな。


 遺影ッ!


 それにしても思うんだ。ただの屍ってさ。普通、屍なんて転がってないからね。


 どこにも。そうは思わないカネ、諸君。


 ソレに凄い冷静だよね。異様に。ただの屍のようだってさ。もっと、こう驚いたり、しないのとか思っちゃうわよ。だって目の前に屍が転がってるんだぜ? 普通の人間の普通の感覚を持ってたらバイオハザード的な反応こそが正解だよね?


 ああ、あっち〔バイオハザード〕は動く、ただの屍か。動いてるからか。納得。


 違う。ちゃう。ドラクエは屍が動いていないからこそ余計に恐いんじゃないの?


 どうなんだろう。モブキングの感覚がおかしいのかな。


 動いてないから恐くなくて、動いてるから恐いのかな。


 うぬぬ。


 遺影ッ!


 ただ、どっちにしても目の前に屍があったら恐い。それが普通の感覚だべさよ?


「ああ、恐い。恐いさね。本当に。これでいい? ビチ」


 うむむ。


 何も言うまい。いや、言ったところで無視か、とも聞こえてないのかもだがな。


 いや、ちょっと待て。待てよ。今の、さね魔人の発言はおかしい。半端なくな。


 何故ならば俺の考えていた事に反応したんだぜ。しかも別に頭の中に思い浮かべて問いかけたわけでもなく応えた。応えたんだ。という事は、さね魔人は俺の思考を読めると考えられるんじゃなかろうか。うぬぬ。北の大地から来た北野武だ。


 北の国からのビートルズだ。カブトムシ。aikoだ。


 生涯忘れる事はないでしょう。だぜ。ただの屍だがな。


 いや、待てよ。返事がない、ただの鉄くずのようだ、の方がいい。俺的はなッ!


 つうか、ただ鉄くずに反応する人間って、どうなんよ?


 遺影ッ!


 というか、脱線して経営破綻ばかりしているA列車だと一向に話が前に進まん。そうだな。今は真面目に生きよう。まあ、死んでいるが。リビングデッド。アンデット・アンラックだ。アンラックみたいな可愛いパートナーはいないけどな。


 一応、アンスリープの相棒がお気に入りと言っておく。杉下右京のじゃないぞ。


「とにかくさね。復活の呪文を入力するさね。もう一度」


 うぬぬ。


 というか、そろそろハッキリして頂きたい。お前が何者なのか、を。さね魔人。


 もはや、さね魔人とか表現するのも飽きてきたからな。


 お前は、何者なんだ? おおう?


 忍者、患者、魂砂利水魚。缶砂利水魚、いや、海砂利水魚。くりぃむしちゅー。


「アハハ。それ、全部、スベってるから。笑えないから」


 五月蠅い。笑ってるじゃないか。ちゃっかり。くっきり。こっきりな。遺影ッ!


 兎に角。


「聞こえてないと思ったの。ビチな、あんたの思考がね。ダダ漏れさね。あんたの思考は。私らは、そんな存在さね。もちろん、敢えて応えなかっただけさね」


 うむむ。


 ジョン。


「だったら応えて欲しい。真面目な話。そのビチとは、なんなんだ? 知りたい」


 ほほへ?


 と素っ頓狂な声を出した、さね魔人が応える。いいの?


 と言い、


「それよりも私らが何者か知りたかったんでしょ? もちろん、私じゃなく、私らなんだけど、それは応えなくてもいいさね? サヤエンドウ、食わすぞ的な?」


 いやいや、確かに、さね魔人とか呼ぶのは飽きてきた。


 それよりも気づいてしまったんだ。ビチというビチピチに包まれた甘く蠱惑的な危ない水着〔もの〕の下に在るデルタ地帯の存在にな。それはビチ。ビチという謎のワードだ。死んでも、生きているとさえも思える魅惑の媚薬にだ。この野郎。


 ビチなんてのは職業にしろ人種にしろモブキングに相応しくない称号だからな。


 ジョン。


 ただの屍はレベルアップした。デスピサロにな! クリフトのザキによってだ。


 遺影ッ!


「そうだな。まずは、とにかくビチについて聞きたい!」


 よかか?


 おかか?


「分かったさね。……応えようでないか。フハハ。今、一番、ホットでベッドインなソレをな。余の名はジョンドット五世。まあ、偽名で、きめぇ丸なソレだが」


 応えようと言った、いきなり変った、その謎の存在が。


 良かろうもん。応えろもん。もんもん。ずんだもんだ。


 というか、あのハイトーンボイスから、ドスの利いたムキムキ言語になったぞ。


「ズバリ言うわよ。ビチとは主の名じゃ。ビチ・ゴソな」


 グではなく、ゴであるぞ。ゴソゴソとまさぐるゴソだ。


 などとジョンドット五世と名乗ったゴリ野郎は言った。


 ちょっと待ってプリーズ・ミィ。


 モブキングを目指し、ただの屍にもなり、その果てでデスピサロにもなった俺に名前があったん? しかも、中心を狙って微妙に外した、ビチ・ゴソ、だと? いやいや、むしろ、ストレートに、ビチ・グソの方が良かった。死にたい。


 色んな意味で。死にたい。今から改名してもいい? ビチ・グソに。ねぇねぇ?


 ビチ・グソの方がモブキングに……、いや、ちょっと待て。それこそ。だわよ。


 マジで?


「というかだな。ビチよ。思うのだが、お前は既にモブキングではない。立派な主人公になっておる。その見事なまでの、唯一無二の個性。光り輝いておるわ」


 さね魔人、改め、ムキゴリ野郎よ。……そんなのは言われなくても気づいたぞ。


 今だが。


 そうだ。


 無個性万歳なんて言ってたのに、いつの間にか個性が生まれ、俺という人間は確立されつつある。だからこそ、ただの屍として消えたい。この世界から。だって俺が生きる意味はモブキングになる事以外ないのだから。モブキングこそだから。


 クソう。


 こうやって悔しがるのも、すでに個性確立の一助になっちゃってるんだろうな。


 俺さ。思うんよ。みんながさ。俺を見てさ。ああ、あいつよりはマシだ、なんて思って、うん、僕らも主人公になれるかも、なんてさ、思ってくれてさ。勇気をさ。与えられたらって、そう思ってんのよ。だからモブキングになりたいんよ。


 うおおん。泣きたい日もある。素敵な日もあるだ。この野郎。私は真理子だぞ。


 いや、ビチ・ゴソか。それこそ個性の固まりすぎるソレなんだわよ。死にたい。


 まあ、死んでるけど。遺影ッ! なんて、おどけたいが、寂しすぎるから止め。


「だがな」


 なんだよ。ムキゴリ野郎Aチーム。今の俺は傷心に昇進したんだよ。おろろん。


 閻魔君。


「だからこそ、主は、今一度、モブキングを目指す必要がある。全てを台無しにして、この世を終わらせるには、まだ早い。もう少し、頑張ってみんか? ビチ」


 お、俺は、……まだモブキングを目指してもいいのか?


 モブの中のモブ。モブの中心であるモブキングを……。


「アハッ」


 さねッ!


 と、突然、あのハイトーンボイスに切り替わる。さね魔人、再びだ。どうした?


「オッケ。オッケさね。私らとの利害の一致さね。私らは、あんた、ビチを使い、ある計画を進めてんのさね。ソレに協力してくれるんなら、私らも協力する」


 いいさね? それで、いいさね?


 ううん?


 静かに目を閉じて真っ白インの天らしき場所を見上げる。白い雲のように。猿岩石も司会へとレベルアップした。とても残念だが、片方だけ、なのだが。その後、紆余曲折あって、それでも頑張って、辛口であだ名を付ける毒舌家になった。


 うんッ!


 湿っぽいのはモブキングには似合わん。俺は、ようこそ、コカーラの街へ、だ。


 それどころか、リアル、ただの屍だ。どうだ? まいったか? この野郎ども。


 逝くぜ。あの世に。よみがえるぜ、ラブゾンビだわよ。


「ふふふ。吹っ切れたようさね。おめでとう。ビチ。新たな自分に生まれ変わった気分は、どう? いやいや、感想を聞くのは無粋ってもんさね。でしょ?」


 ビチ君。


 というかだな。さね魔人とムキゴリ野郎Aチーム。お前の本当はどっちなんだ?


 さね魔人なのか、Aチームなのか。ハッキリして頂きたい。24時間戦ってな。


 まあ、モブキングである俺は三食昼寝付きで社会科クラブへと入部してやんぜ?


 もちろん、勇者にはならない。ただの屍でいい。今は。


 遺影ッ!

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