旭日章〚鳳凰の翼〛

138億年から来た人間

春の雨

「お疲れ様でした!」


「おう!お疲れ!気を付けて帰れよ。もう8時半だ。暗い夜道は特に。」


「はい。」


祇条しじょう工業組合連合会東京支店経理課、清水しみず ゆき


26歳は決算日当日の繁忙からやっと解放され、帰宅の途に就いた。


学生時代から、頭脳明晰でスポーツにも長けている秀才肌の女性だ。


祇条工業組合連合会の体操部所属で腰がくびれた均整の取れた体つきをして


いる。


ゆき恵は、自らの身体に自信過剰なところがあり、身体の線を強調する服装が多かっ


た。


今夜も、タイトワンピで帰宅していると、男性の目線が自分に集中してくるのを楽し


みながら、自分の気の強い性格から、男を下卑げびた生き物として相手にしな


かった。




「何?あの男。道の真ん中で座り込んで、通れないじゃない。」


新宿駅からバスに乗り、新代田しんだいたのバス停で下車したゆき恵は|環七


《かんなな》通りを東松原方面に曲がってアパートへ徒歩で向かった。


15メートルほど進むと古い工場が建ち並ぶ路地に入る。


工場の殆どが昼間の操業で、夜の灯は小さな街灯と満月の月明かりのみだった。


「ちょっと―っ!どいてよね。通れないじゃない。邪魔よ!」


ゆき恵は、街路灯の下で座り込んでいる男の足を思いっきり蹴飛ばし、通るスペース


を開け、その男を振り向きもせずさっさとそこを通り過ぎた。


男は深く眠っていたのか、呻き声一つ漏らさなかった。


彼女のアパートの入り口にはエンブレムアパートと彫られてある御影石の表示盤があ


る。


家賃6万円の単身アパートだ。


ゆき恵の部屋は4階にある。


エレベーターを上がると東側の一番端の部屋だ。


窓にはいつも朝日が昇るのが見える。


「あれ?雨かな?」


夜空を見上げると、顔に春の温かい雨が降ってきた。


「急いで洗濯物、取り込まなくちゃ。今日は晴れ予報だったのに…」


エレベーターの前にに着くと上向きの矢印ボタンを押した。


その時、後ろに人の気配を感じ、振り向くと視界が一瞬のうちに暗闇となった。


茫然として、何が起こったのか認知できなかった。


身体が誰かの力で引っ張られ、帰宅した道を再び戻ってるように感じた。


足がもつれ、歩く事も儘ならず、そのまま倒れ込むように強い力に身を預けた。


すると、ゆき恵の太ももあたりに、誰かが手をあてがって下着を下ろそうとしている


のが分かった。


「な、何するの!やめてよ!」


その手は、下着をはぎ取り、陰部をもてあそんできた。


「いやぁ!やめてぇ!」


彼女の声は、辺りに響き渡ったが、何故か反響して自身の耳に返って来た。




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