除け者たちの森
吉岡剛
第1話 森へ
「ここ、かな?」
目の前に広がるこの森は入るのを躊躇うほど鬱蒼としている。
「ここで合ってるよな?」
俺は、懐から取り出した地図を確認し、間違っていないことを確認した。
森には入り口らしき場所があるが、獣道程度のものでしかない。
正直言えば入りたくはない。
けど、今の俺にはここしか行き場所がない。
「しょうがない。行くか」
俺は覚悟を決め、獣道を通って森に入った。
誰か人が通ったと思しき獣道はあるが、その他はまったく手入れされておらず木も草も生え放題。
頭上は木の枝と葉で完全に覆われていて陽の光があまり入ってこないので薄暗く、それが余計に不気味さを醸し出している。
おっかなビックリになりながらも、俺は森の深部を目指し、極力気配を殺しながら歩き続ける。
そうしてどれくらい歩き続けただろうか? 森の奥から、俺に近づいてくる気配に気付いた。
俺は、その気配を警戒しながら到着するのを待つ。
隠れる選択肢はない。
なぜなら……。
「おっと。これはまた、見事な黒髪だな」
「そうね……これだけ黒いと、余程迫害されていたに違いないわ。あなた、よくここまで無事に来られたわね?」
現れたのは人間で、それは俺が会いたいと望んでいた人たちだったからだ。
「あ、すみません。お邪魔します」
現れた男女二人に、俺はひとまず挨拶をする。
なぜなら、この森は彼らの居住区だから。
俺は、彼らの居住区を訪れた来訪人に他ならず、ここに置いてもらうためには彼らの心象を悪くするわけにはいかないからだ。
俺はちゃんと頭を下げ、挨拶をしたと思ったのだが、なぜか彼らは訝しげな顔をして俺のことを見ていた。
な、なにか失敗しただろうか?
そう心配になってオロオロしていると、男性の方が口を開いた。
「……黒髪なのに、随分とまともな話し方をするな?」
「そうね。おどおどしているわけでもないし、卑屈になっているわけでもない。何より、身なりもいいし健康体に見えるわ」
そういうことか。
この
街で見かけた黒髪の人間は、例外なくガリガリで不衛生な身なりをしていた。
そういう人たちを見慣れていると、俺のことは異質に見えるんだろう。
「気になるところはあるが……君が黒髪であることは間違いない。とりあえず場所を移してから詳しい話を聞かせてもらいたいのだが、いいだろうか?」
男性がそう訊ねてきたので、俺は首を縦に振った。
「はい。よろしくお願いします」
俺の返事に、また訝しげな顔をする男性。
「まあ、いいか。それじゃあ行こう」
男性はあまり深く考えない方のようで、俺のことを不思議に思いながらも後で聞けばいいかと考えているようだった。
それに比べて女性の方は俺に対して警戒心を持っているようで、俺のことを見ているというより睨むと言った方がいい目付きで見ている。
女性に睨まれながら歩くという、非常に居たたまれない状況のまま二人のあとを追っていく。
すると、なにも考えていないのか男性が呑気な感じで話しかけてきた。
「そういえば、まだ自己紹介していなかったな。俺はエルロン。元騎士だ」
そう言いながらニッと笑うエルロンさんは、濃紺の髪色をした百九十センチくらいで筋骨隆々の大男だ。
そのエルロンさんは、自己紹介をしたあと俺をチラリと見た。
俺も自己紹介しろってことなんだろう。
「俺の名前は、黒崎圭吾。十七歳の高校生です」
そう名乗ったら、二人は怪訝そうな顔をした。
「クロサキケイゴ? 変な名前だな」
「あ、いえ。クロサキが姓でケイゴが名前です」
そう言った途端、二人の目が見開かれた。
「姓持ち……ってことは……そうか。貴族の子だから、黒髪でも身なりがいいのね? アナタの親は、黒髪でも差別しない貴族だったのかしら?」
女性の方は変な勘違いをしているな。
「いえ。俺は貴族じゃないです」
「はあ? 貴族でもないのに、栄養状態も良さそうだし、なによりその服。そんな仕立ての良い服を着ているのが貴族の子でないわけがないでしょう!?」
え、なんでキレてんの? この人。
「まあまあ、そう怒るなスカーレット。ケーゴを見ろ。なにも怒られるようなことを言ってないのに怒られて困惑しているじゃないか」
「だって! そうでないとおかしいじゃない!! 怪しいわよ! コイツ!!」
女性はスカーレットって言うのか。
なんかずっと睨んでくるなと思っていたら、俺、怪しまれていたのか。
さて、どうしようかな? と考えを巡らせようとするが、そこでタイムアップとなってしまった。
「その辺も含めてじっくり説明してもらうさ」
エルロンはそう言うと、木が生い茂る藪の中に入って行った。
俺もそのあとに続いて行き、そこで目を見開いた。
さっきまで、こんな光景は見えていなかった。
なのに、今俺の目の前には信じられない光景が広がっている。
「さて、俺たちの隠れ里にようこそ。色々聞かせてもらうぞ、ケーゴ」
エルロンがそう言って紹介したのは、さっきまで本当に影も形も見えていなかった、人の住む集落だった。
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