雪が好き。

明鏡止水

第1話

雪が好きです。

子供心と、いうなかれ。

たしかに雪のせいで大変な思いをした記憶は、……ありましたね。

登校した学校で滑ってコケてみぞれの水溜りにハマり、べしゃべしゃに濡れ。

緊急時用にランドセルに入れておいた薄手のズボンとパンツで乗り切った過去があります。

じゅわじゅわのシャーベット状の通学路。

たまに目に入るよう雪のひとひら……。

大人になっても大きな傘が必要で、ところどころ滑りそうになりながら、なんと言いましたっけ。

グレーチング。

側溝の網で滑らないようにドキドキチキンレース。

それでも、雪が好き。

明鏡止水は早くに高校へ通えなくなったので、雪のせいで交通機関の乱れを体験したり、大人ならではの帰宅難民や大雪警報に恐れを抱くことがないのですよ。

雪が降ったら、

わあ、

雪だあ……っ!

喜びます。

今日はポカポカの服を着ていたので大して寒くもないのですが、温かい缶コーヒーや、ミルクティーを買って。

窓の外を見ながら贅沢に、風流に、教室の窓から雪景色へと変わっていくいつもの光景を、

ほう、

と眺めておりました。

みなさんは旦那さん側の勤め先のほうの雪の積り具合はどうか。車のタイヤの心配。交通機関などなど。家族と連携と相談を取りながら。

午後の授業どうなるの?

と、きっちり考えておりました。

すごいなあ。

私なんて、飲んでるミルクティーの名称が「白い贅沢」というミルク入り紅茶なことに。

雪となんて合うんでしょう!

と感激していたのに。

詳しいことは言えませんが学校にもいろいろあり、職業訓練は早々と切り上げる、わけにもいかず。

五限まで粘って、講師の先生の裁量のおかげで授業自体は早く終わり。

お掃除も免除。

みなさん気をつけて帰ってください、と。

千両だか万両だか、赤い小さな実をつけた植物に雪が積もっており風情がある道。

前を歩く女子学生達は雪を掬ってぶつけ合い。

それを眺めながら駅へと向かえば足先の感覚がわからぬほど靴が濡れて冷たくなっている。

交通機関は通常通り動いていて、人々が最初ひしめいていましたが。

圧倒的に若い人が多い。

きっと、同じように帰された学生達ですね。

同じ方向へ乗っていく人がいたのですが、喋りながらや他の人と電車に乗ると自分のペースを見失い、乗り物恐怖症が出る気がしたので飴を舐めることにしました。

いつ買ったのかわからない、古い飴です。去年の夏より前かもしれない……。

「ずいぶんたくさん持ってるね」

「のどが渇くと緊張するんです。でもいつ買ったものか分からない!」

「飴なんて砂糖のかたまりだから平気よ!」

本当は綺麗で可愛い飴をお裾分けしたかったのですが古い分、そう言うわけにもいかない。

このやり取りで救われました。

あとは事前に隠れて飲んでおいた精神安定剤が効く事を祈るだけ。

明鏡止水の雪の日はこんなふうに過ぎてゆきます。

雪。

降ると嫌だなあ、と感じることが少ないのは。

事前にタイヤ交換をしてくれる父や、帰ってきた時に。

「リュックに雪が積もってる! ちょっと外出て!」

と玄関でばしばし雪を払ってくれる母達のおかげなのかもしれません。

みんなに支えられて、私は雪が好きなままなのかもしれない……。

帰宅難民にはならなかったし。

明日もドカ雪じゃなければ授業もある。

日常。

そして雪。

母が作る謎の千切り白菜のキノコと鮭入りのシチュー。

そして、どかんと通販する午後。

……ちょっと、かなりお金使い過ぎかもしれませんね。

みんな我慢してるんだから、お前だけがするわけにもいかない。

父の言葉です。

タイヤ代とるぞ。

とも付け加えられました。

なんでも人にやってもらっています。

雪が楽しいだけなのに。

私の生活は、充実しているようです。

心配事もあるけれど。

雪の日、楽しむ大人がここに一人。

レインブーツもないのに。明日はどうやって歩いて行こう……。

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雪が好き。 明鏡止水 @miuraharuma30

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