迷える女子の、心のアップデート録

弁財綾乃

【エッセイ_01-1】凶を3回引いた女(前編)

 初体験で味わった新鮮な感覚は、いくつになっても忘れられない。

 それが、「凶」というセンセーショナルな二文字が目に飛び込んできた出来事であってもーー。


 凶という言葉は知っているが、自分の手を動かして書いたことはほぼない。

 この文字を書く場面は今までなかったし、書いたことがある人は神社で働く人や占い師ぐらいではないだろうか。



 21~22歳の時、友人と京都にある地主神社へ行った。

 清水寺の敷地内にある縁結びで有名な神社で、当時、付き合っていた人と別れたばかりのわたしは、すがるような気持ちでお詣りをし、良いことが書かれているといいな~とうきうきしながらおみくじを引いた。

 閉じられている紙をゆっくり開くと…。



凶。



 そこに綴られている神様からのアドバイスは、もはや何も頭に入ってこない。



 凶、凶? 末吉とかではなくて?

 目の前に印字されている衝撃的な文字。

 おみくじに凶ってあったっけ?


 あまりにも不意打ちすぎて頭の中が真っ白になり、呆然としていると

友人が横から覗き込み、小さな声でボソッと追い打ちをかけた。


「凶って、初めて見た…」。


 その言葉でハッと我に返り、思わず語気を荒く言い返した。

「わたしだって、初めて見たよ!」。


 心の救いを求めで出かけたのに、さらに悲しみの底に突き落とすような一文字。

 その2年後に幸せな恋愛が待っているのだが、その恋に出逢うまでは以前の恋人を忘れられず悲しみに打ちひしがれていた。


 2回目に凶を引いたのは、確か30代になってからだ。

 だが、いつどこで引いたのかは覚えていない。


 凶という言葉を見た瞬間、「今のはなかったことにしよう」と身体が防御反応を示した。咄嗟の出来事だった。


 自分で言うのもなんだが、わたしの性格は基本しつこい。

 特にいやな気分になった出来事や人は子どもの頃のことであってもしっかりと記憶しているので、その分、刻印されたそれらの記憶にさいなまれることが今でも多々ある。



 そんなわたしが、2回目の凶のことは忘れている。

 ということは、心底いやだったのだろう。

 自分で自分がかわいそうになる。


 そして2019年の年末、思いもがけぬ場所で「凶」という二文字とまさかの再開を果たしたのであるーー。

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