蕾みのしずく
美作依織
第1話 さりげない出会い
工場で働く派遣社員32歳独身のたかしは、毎日なんとなく会社に行き無難に仕事をしていた。
人の目を気にして嫌われないように振る舞う、ただそんな毎日。
前職で営業マンだったたかしは、人当たりも良く笑顔が可愛らしいと周囲からは言われていた。
そんなたかしは、前付き合っていた彼女と別れてから交際できず、恋愛から遠ざかって六年が経っていたのだった。
好きな人はできるし、女性に興味が無いわけではないので周りから紹介してもらえてご飯にも行っていた。
出会いのチャンスはいっぱいあったのだ。
しかし、気になる人が目の前にいると緊張してしまい言葉が出てこない。
ご飯に行く前にイメージトレーニングして仲良くなりたいと無駄に力が入っていたのだろうか・・・。
意識していないと女性とも普通に会話もできるしコミュニケーションも取れるたかし。
周りの人の目を気にするあまり積極的になれず恋愛に臆病になっていたのだった。
ルックスがいいわけでもなく身長も高くない、そんな自分を好きになってもらえるわけないか・・・。
ずっとそう考えてネガティブになっていたのだ。
たかしは完全に恋愛の始め方を忘れてしまった・・・。
いつの間にかこの工場で働き始めて4ヶ月経っていた。
朝起きてシャワー浴びて歯を磨いて出勤する。
毎日残業して帰り道にあるコンビニでご飯を買う。
誰もいない部屋に帰り、ご飯を食べてお風呂に入って寝る。
ただ毎日、その繰り返しで時だけが過ぎていった。
休日も出勤があり、趣味に時間も取れない。
ご飯を食べるときもYouTubeを見ながらだらっと食べているだけ。
一体どれぐらい夕飯を誰かと一緒に食べていないんだろうとふと考えるときもある。
周りの友達は結婚して子供もいる。
休みの日に遊ぶこともいつしか無くなっていた。
そんな日々に、焦っていた時もあったがいつしか結婚への憧れや焦りは無くなっていたのだった。
お金がある訳でもないし恋人ができても幸せになんてできないか・・・。
そう考えて無意識に恋愛から遠ざかっていたのかもしれない。
そんなたかしだったが、ある日工場に出勤し更衣室から現場の休憩場に向かって歩いていると一人の女性が笑顔で
「おはようございます」
と挨拶をしてくれた。
「お、おはようございます」
突然だったので少し驚きながらたかしは会釈をしながら挨拶をした。
見覚えもなく、自分と違う部署で昼夜違う勤務体制だったので話した記憶も無い。
誰だろう・・・?
そう考えながら休憩所に向かって再び歩き出した。
たかしの担当作業では、時間に追われてしまい他の部署の人や誰かと会話をする時間がない。
だから業務で一緒にやっている人でもないよなあと思っていた。
休憩所に着いて椅子に座って自販機で買ったコーヒーを飲む。
まださっきの女性のことを考えていた。
笑顔が可愛らしく元気のある人だったな・・・。
と思った。
まあ工場内であれば面識のない人でも挨拶はすることだから日常か・・・。
とも思ったので、同じ部署の人とタバコを吸う為に喫煙所に向かっていった。
同じ部署でタバコを吸うメンバーとアニメや漫画、競馬の話をしながらまたいつもの日常になっていったのだった。
第二話 〜無意識から意識への変化〜 へと続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます