第7話 三日三晩寝続けた勇者

 「あれは無呼吸症候群っていうものですね」

 「無呼吸――? いや、それはヤバいやつじゃないのか?」

 「寝ている最中に気道が狭くなって、一時的に呼吸が止まる病のことです。勇者が離婚された原因の一つです。最大の原因は遊び人との不倫ですが。まぁ、大丈夫――ほら」


 「……ゴゴッ! ングォォ!!」


 おお、呼吸が戻ったか!


 「良かった、無事だったか」

 「魔王様も寝てるときあんな感じですよ」

 「え?」


 まじかー、あんな野蛮な魔物みたいなん嫌だわ、めっちゃショックなんですけど……知りたくなかった。

 しかも悪魔神官にみられていたなんて余計ショックだ、幻滅されていないだろうか……。


 「で、どうしますか? 今のうちに殺しますか?」

 「いや、なんか虚しくなったわ。もうやる気が起きん」

 「そうですか……」


 ――3日後


 「う、うーん……よく寝たわ!」


 ようやく勇者が目覚める。

 呼吸が止まるたびに何度も死んだかと思ったが大丈夫なようだ。


 「はて、爺さんがなんで一緒にいるんだい?」


 続けて魔法使いが起きる。

 もはや何故ここに来たのかも忘れているらしい。


 「足、治ってる?」


 盗賊も目を覚ます。

 腫れ上がって放っておくと大変なことになりそうだったから我輩が足を治してやった。


 「イッたーい! もーカラコンつけっぱなしで寝ちゃったじゃない!」


 カラコン? というのは分からぬが、遊び人が目から何かを取り出すと真っ赤に染まった目があらわれる。

 ほとんどハゲ落ちた化粧と真っ赤な目と唇、最初よりも化け物だ。


 「無事起きたか……」


 正直あの程度の睡眠魔法でここまで寝るのには呆れるが、もはや達観してしまっていた。


 「ま、魔王! お前はここで倒――グハッ」

 

 勇者が我輩を見つけ、一気に起きあがろうとした拍子に倒れてもがいている。

 腰をやってしまったようだ――仕方ないな。


 「《回復魔法》」

 「――おぉ! 痛みが楽になった!」

 「ちょっとは大人しくせんか!」


 元嫁の魔法使いに勇者が杖で叩かれている。

 しかし気持ちはわかる、本当にうるさい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る