勇者を待ち続け60年、ついにやってきた勇者が老いぼれ過ぎて逆に焦る魔王

茶部義晴

第1話 勇者一行が来ました

 「ついにここまで来たぞ魔王!」


 ついにこの時が来た――魔王として勇者と雌雄を決するこの時が。

 勇者が旅に出たと報告を受けてから早60年、正直諦めかけていたから嬉しさが溢れでる。


 「ようやく参ったか勇――」


 魔王の間――魔王城にあり我輩に謁見するこの円形の広間は薄暗く、太陽の明かりを採り入れるはずの窓からは代わりに雷の光が差し込む。


 そして颯爽と勇者の前に姿を現した我輩だったが、勇者一行の姿を見て唖然とした。

 勇者に魔法使いに遊び人に盗賊……なんということだろうか、全員が老け込んでいる。


 勇者の頭髪は薄く全てが白髪、顔や目の周りには皺が目立ち青の瞳には力がない。

 痩せた体は鎧を着るのもやっとと言う様に重そうで剣を支えにしている始末。


 「おい、悪魔神官よ」

 「はい何でしょう?」

 「あれは本当に勇者一行か?」

 「はい、そうでございます」


 隣にいる神官服を着た可愛い悪魔――我輩の右腕である悪魔神官に確認する、それ程あれが強き勇者一行とは思えぬ姿なのだ。

 しかしながら本当に勇者一行だという、その返答に思わず大きくため息を吐いた。


 「魔王、貴様の野望もここまでだ!」


 意気込んで言ってくるが大きな声をだすのがしんどいのか咽せてしまっている。

 ま、まあ強ければそれでいい、強きものと闘うためにここまで待ったのだ。


 「ならば力を見せるがよい勇者よ!」

 「よし! じゃあ私からいくぞ! 覚悟!」


 女盗賊がその自慢の速さを活かし我輩に向かって――。


 「――イデッ!!」


 あら転けちゃった、大丈夫かな?

 そもそも動きやすい布製の軽装服を纏い頭にはターバン、短剣を構えているので盗賊と思ったが本当にそうなのか? 全然速くないし。


 転けて打ってしまったのだろうか、皺の多く大きなシミの出来た顔を歪ませ、いくらか抜けてしまった歯を見せながら右膝を抱えて悶えてしまう。


 「大丈夫か?」


 勇者がのそのそと重い体で盗賊に駆け寄る。


 「足が……折れてしまったかも……」


 嘘、まさかの自滅?

 これが勇者一行の、魔王討伐を目指す盗賊の姿か?


 「魔王、なんて卑怯な! 許さぬぞ!」

 

 え? 我輩のせい!?


⭐︎以下あとがきです。⭐︎

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