第9話 サンドイッチには何を挟む?

 皆様、サンドイッチは好きですか?

 ちなみに私はタマゴサンドが好きです。

 何が言いたいかと言うと、すり潰したタマゴを食パンで挟んで一緒に食べるから美味しいと言う事です。

 イメージして下さい。

 あなたの目の前に二切れのタマゴサンドがあります。そして、そのうちの一切れを分解して、食パン二枚とすり潰したタマゴの三つに分けます。 

 どっちを食べたいですか?

 マックのハンバーガーだってそうです。

 一緒に食べるから美味しい……効果的と言えますよね。

 会話にもサンドイッチ方式と言う手法があります。

 譲歩→威圧→譲歩と言う流れで、威圧をサンドイッチの様に挟んで、相手に伝えるテクニックです。


 あなたは会社の上司です。

 もし、あなたの部下が仕事でミスをしたら、どの様に言えば良いか?

 「何年仕事してるんだ! 君がしっかりチェックしないと駄目じゃないか!」

 上司のあなたは部下を威圧し、反省を促す様にしているが、人はこの様な時に、自分の考えと合わない話は防衛本能として聞き流そうとする意識が働く。

 だから、上司が威圧するだけでは反省どころか、反発するか心を閉ざすかの悪影響でしかない。素直にミスを認める事も出来ない。

 「最近、君はとても頑張って仕事をしている。だからと言って、今回のミスは許されない。ちゃんとチェックしないと駄目だろう。今までの良い仕事が台無しになるぞ」

 上記二つの話の内容は同じ。

 両方共、部下にチェックをし忘れた反省を求めている。

 しかし、後者は褒め言葉で挟んでいる為に、威圧的に感じない。そして、結果的に部下は反発する事なく、自分の否を認めやすくなる。

 猫田はラジオでのヒーロー扱いを受け、くるみと話した後の「考えさせてくれ……」との言葉。

 確かに何かが変わろうとしている。 

 そしてくるみは、電話を切った後、相変わらず俺のコーラをまずそうに飲みながら話している。

 「猫田さんの中で、自分自身の行動に疑問を感じたかも知れないよね? これだけ騒ぎになったら、銀行の周りを囲まれている状況だって認識すると思う。そして自分が不利な立場だって思い始めてるかも知れないね」

 「そうだな……」

 「私が最終段階って言ったのは、あとは猫田さんが犯罪を降りやすい様に仕向けてあげればいいと思うから」

 「…………」

 結果から話すが、くるみは狙撃班の撤収を俺に要求した後、交渉の最終段階で以下のやり取りをしていた。

 『猫田さん。あなたの活躍はラジオでみんなが知ったよ』

 『ああ……』

 『そして、猫田さんはまだ人質に危害を加えてない事も知ってるし、お金を要求してるけど、銀行内にあるお金に関しては手を付けてないよね? いくらあるかも知らないでしょ?』

 『あ、ああ……』

 猫田がくるみの話をしっかりと傾聴している姿、表情が電話越しでも容易に想像出来た。

 『ラジオを聞いた人は誰も猫田さんの事を、根っからの極悪人とは思ってないと思うよ』

 『…………』

 『でもね、人質に危害を加えれば終身刑にもなりかねないけど、今なら刑期も短くて済むの』

 『…………』

 『よく聞いてね。さっきの猫田さんの依頼――ニュースへの出演の準備もしてるよ。そこで、あなたの言いたい事を言えばいいじゃん。だから、人質を解放して、猫田さんも出て来ない?』

 『…………』

 『私ももう一回、猫田さんにとって何が最善か? 考えて、また連絡するね』


 くるみは前述したサンドイッチ方式を応用した。

 簡単に説明すると――――

 譲歩→みんな猫田を根っからの極悪人とは思ってない。

 威圧→人質に危害を加えれば終身刑になりかねない。

 譲歩→今なら刑期も短くて済むし、ニュースへの出演の話も準備している。

 威圧を譲歩で挟み、猫田が犯罪から降り、人質を解放しやすい様に仕向けていた。

 「ん~~っ!」

 くるみは、何かの仕事が一息ついたかの様に、両手を挙げて伸びをした。

 「一応猫田さんには伝えたよ。最善を尽くしたつもりだけど、これで駄目だったら、ごめんね春男。あと、このコーラは春男の? なんか薄いよ?」

 これもサンドイッチ方式か?

 だが、何をどれとどれで挟んでるのかがわからない。

 その後、一時間近く猫田とくるみのやり取りはなかった。

 俺はその静かな合間に、捜査本部である店舗の隣に設置してある自販機で、コーラを買おうとしたが売り切れだった。

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