星空の落とし物
帰ったら何をしようかな思いながら、俺はうきうきと河川敷を歩いていた。
今日はとっても調子がよくて、サクサクと仕事が進み、サクッと会社を後にしたのだ。
帰ったら、ネットで小説でも読もうか。
それともオンラインゲームでもしようか。
そう思いながら、軽い足取りで歩いていた。
どうしたものかと考えていると、視界に小学校低学年ぐらいの赤いランドセルを背負った女の子が「どこにいっちゃったんだろう」と言いながら何かを探している姿が目に入った。
うん?デジャヴ?
なんだか、二週間ほど前にもこんな光景を見た気がするぞ?
また何か奇怪なものでも探しているのか?
前回は、水たまりに映った青空だったな。
今回は何だ?
そのまま横を通り抜けようとしたが、気になってしまい足が止まってしまう。
そう言えば、前回はこのタイミングで女子高生が声を掛けたんだよな。
「あれ?また探し物をしているの?」
「手伝おうか?」
そうそうこんな感じで…
ってええ???
また、デジャヴか!?幻聴か?
それともドッキリでどっかからテレビ局のスタッフとかが看板もって出てくる感じか?
そう思って見まわすと、出てきたのはショートカットとポニーテールの高校生だった。
「あーー。お姉ちゃんたち!!こんにちは!!」
「ふふふ。こんにちは。今日は何を探してるの?」
なんともまあ、偶然にもやさしいお姉さんたちの登場だ。
すごい偶然だな、と思たけど、学生は基本的に同じタイムテーブルで活動している。
それを踏まえて考えると俺の方がイレギュラーか。もしかしたら俺の知らない間に交流があったのかもしれない。
思考に入る俺をよそに、話は進んでいく。
「あのね、あのね。おほしさまをさがしてるの」
うん。そんな答えが返ってくるような気がしたよ。
青空の次は、星ですか…
ああ、そう言えば昨日、ニュースでオリオン座流星群が昨日の夜、ピークだったと言っていたな。
「今度は星って…また面白いもの探してるのね」
「昨日、流星群が見えたらしいから、それを探してるんじゃないかな?」
ポニーテール、ショートカットとこそこそと話をする。
ショートカットが俺と同じ答えにたどり着く。
でも、確か流星群って『現象』であって、もし落ちてきてしまったら『隕石』になってしまうのでは?
「お星さま…ね。最初から順番にお話できる?」
ナイス。ショートカット。
詳しく話を聞きだすんだ。
「うんとね。さあちゃんがね。おほしさまをくれたの。うれしくてうれしくて、もういっかいみようとおもってかばんからだしたら、おとしちゃったの」
なんだって!!
詳しく話を聞いたら、余計ややこしくなったぞ。
さあちゃんとやらが、流星群の時に隕石を拾って、小学生にプレゼントしたってのか?
うん。嘘くさいな。
もし、隕石が落ちたらもうちょっと大騒ぎになるはずだし、それを友達においそれと渡せるものか?
「隕石だよね。そうなったら」
「うん。なんか話が変な方向にいってるね」
ショートカットとポニーテールが困っている。
どうしたものか…
そんな大人の空気を読んでか、読んでいないのか、小学生が話を続ける。
「おほしさまはちいさくてね、いろんないろがあってね。」
ん?
「それとね、あまくておいしいの!!!」
小さくて、いろんな色があって甘くておいしい、星型の食べ物…
「「「金平糖 (か) !!!」」」
またもや偶然にも女子高生たちと声がハモってしまった。
そして前回と同じようにポニーテールがこちらを見てきたので、さっと目をそらした。
うん。今回は、会話に参加しているつもりになってた。
おっほん。
つまり、小学生は、友達から金平糖をお土産かなんかでもらったんだ。その金平糖をこの子は、「星」と表現した。
そして、俺たちは、前回の突拍子もない探し物のやり取りと前日の流星群の話題で、勝手に空から落ちてきた本物の「星」を探していると勘違いしたんだ。
こうなったら、話は簡単だ。
「どんな入れ物に入っていたの?」
ショートカットが尋ねると、
「これくらいのふくろにはいってる」
小学生が両手の人差し指と親指で丸を作る。
それを聞いてポニーテールが土手の草の間を探し出す。
すると、
「あった。これじゃない?」
そう言ってポニーテールが掲げた小袋には、色とりどりな金平糖が入っていた。
「はい」
小学生の手のひらに金平糖の包みを乗せる。
はじける笑顔と共に、小学生がお礼を言う。
「ありがとう!!お姉ちゃんたち!!」
嬉しそうな笑顔で跳ねるように帰っていく小学生。
その後姿に、高校生たちが声を掛ける。
「落とさないように気を付けて帰るんだよーー」
「ばいばーーい」
「おねーちゃんたちー。ばいばーーーーーい」
元気に手を振りながら、走り去っていく。
女子高生も手を振り返して、「今回は、普通の落とし物だったね」「二度あることは三度あるって言うし、もう一回、一緒に落とし物を探したりして」と楽しそうに笑いながら帰っていく。
俺はと言うと…
再び、軽い足取りで自宅に向かって歩き出したのだった。
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