untitled

@rabbit090

第1話

 「できれば私を、救ってくれませんか?」

 「そんなこと、できるわけないじゃん。」

 「待ってよ待ってよ。そんなこと言わないでよ、私。もうどうしようもないの、だからねえ、お願い。」

 「うるせえなあ。」

 と、煙たがられても、私にはこうするしか、方法がない。

 ここで生きていくためには、嫌だけれどこんな変態にさえ、頭を下げなくてはならない。

 でも、

 「はあ、分かりました。じゃあ、諦めます。」

 「…早ぇな。」

 「はい。」

 何て端的に物事を、諦めてしまうからダメなのだ。

 だけど、私にはほかの人のように、こだわることができない。どうしても生きたいとか、どうしても助かりたいとか、そんな強い思いがなかった。

 でも、死ぬわけにはいかなかった。

 だから、私はいつも中途半端に、周りの誰かの真似をしながら、ただ、呼吸を繰り返していた。


 はずだった。

 でも、私には目が覚めるような思いを味わわせる人間が、できてしまった。

 その子は、無口で何も喋らない、小さな女の子だった。

 いや、語弊があるな。小さいと言っても、子どもではない。立派な大人だ。

 でも、彼女は子供のように、いつも押し黙り、そして憚らなかった。

 「ねえ、大丈夫?」

 大丈夫な訳、ないけれど、でも一応そう聞いてみる。

 彼女は、捨てられた子ネコのように、ずいぶんとふてくされていた。

 そして、この子を保護する羽目になったのは、母親の伝手だった。

 というか、母の知り合いが頭を悩ませていて、娘が、つまりこの子が、自分勝手で、しっかり生きて行ってくれない、と嘆いたことが始まりだったのだ。

 そして、母はおせっかいでもあったから、同年代の友達でも作れば?と、余計なことを言って、無理やり私と引き合わせた。

 でも、私自身も退屈を感じていたし、まあ、いいかと適当に引き受けた。

 「………。」

 しかし、私は黙った。

 あまりにもお人形のようなフォルムに、そして従順じゃない姿、私は、落ちた。

 そして、暇があればいつも、この子と一緒に、ただ黙って、時間を共有している。

 と、そこまでであったらよかったんだけど、私は、彼女の生活を、全て預かることになってしまった。

 ちょっと、できるかなあと思ったけれど、彼女は案外、生活能力のある人で、私はただ、部屋を貸せばよかったのだ。


 「で、そのこと意思疎通もできないのに、ずっと一緒にいるの?」

 「うん、ダメかな。」

 昔からの友達と、たまにはこうやってお茶をする。

 「ダメって、そりゃそうじゃない?何で、何か良いことあるの?」

 「良いこと?は分からないけれど、私は、彼女のことがすごく好き。あ、女の子としてね。」

 「はあ、何それ。」

 まあ、そうだろうな。

 でも、私は人生に張り合いを得た。

 彼女を守る、守る?分からないけれど、私は彼女のことを気にかけ、そして人生に満足をもらう。

 だから、それでよかったのに。


 「え?」

 耳を、疑った。

 一言も話さないんじゃなかったの?

 私は、目の前にいる口達者な女を見つめ、固まっていた。

 「あたし、あんたに世話してもらう必要なんかないから。」

 そう言って、憤っている彼女は、そりゃ見た目そのままのわがままな女の子であるけれども、でも、不釣り合いだった。

 だって、彼女の隣にいるのは、とても身長の高い、絵に描いたような好青年だったから、つい、言ってしまったのだ。

 「ねえ、じゃあ私の前では、嘘ついてたの?じゃあ何で、私と一緒に暮らしたの?」

 「…そんなの、ウチの母親があんたのこと、無理やり連れてきてあたしを、だけどあたしは、交換条件として、この人と一緒になることを許されてるから。」

 「はあ。」

 なんか、呑気な声だけが口から洩れてしまった。

 そして、私は興奮している彼らを部屋から追い出し、一人家にこもっていた。

 「救って。」

 そう、私はずっと、こんなことばかりを繰り返している。

 だって、他にできることなんか、無かったのだから。

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