10冊目 消えた館の宝石


 静かな海辺の町に、長年誰も住んでいないとされる古い館があった。


 ある日、その館から貴重な宝石が盗まれたという噂が町中に広がった。


 不可解なことに、館には入り口も窓もしっかりと施錠されており、侵入の痕跡は一切なかった。


 この奇妙な事件の調査を引き受けたのは、名探偵・朝倉光一だった。


 朝倉は館とその周辺を丹念に調べ上げることから始めた。




 最初の手がかりは、館の裏庭で見つかった古い時計だった。


 その時計は止まっており、針は深夜の12時を指していた。朝倉は、この時計が事件の夜に何らかの意味を持つと確信した。



 次に朝倉が注目したのは、館の図書室に残されていた一冊の日記。


 日記には館の前所有者が書き記した、館に隠された秘密の部屋の存在が記されていた。


 その部屋には、特別な仕掛けが施されており、深夜12時にしか入ることができないという。


 朝倉はこれらの手がかりを元に、事件の夜に再び館を訪れることにした。


 深夜12時になると同時に、朝倉は時計を持って図書室のある特定の本を引っ張った。


 すると、本棚がゆっくりと動き始め、隠された部屋への入口が現れた。




 部屋の中には、盗まれたと噂されていた宝石が無事に保管されていた。


 しかし、そこにはもう一つの謎が隠されていた。


 宝石のそばには、館を訪れたことのある町の人々の名前が記されたリストがあった。


 リストには、各人が館を訪れた日付と共に、宝石に対する「評価」が記されていた。




 朝倉はすぐに真相に気づいた。


 この宝石は、実は館の所有者が行っていた、町の人々の正直さを試す実験の一環だったのだ。


 宝石が「盗まれた」という噂は、実験のために意図的に流されたものだった。




 事件の解決後、町の人々は、宝石を巡る不思議な実験とその背後にある意図を知り、驚きと共に笑いが広がった。


 朝倉はこの一件で、物事の表面だけでなく、背後に隠された真実を見抜く重要性を改めて人々に教えたのだった。


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