6-8-2 パワーよ
『――パワーよ』
その声は、本当に聞こえたのかどうか。
少なくとも次の瞬間には、光の奔流はアーシャの世界の音という音すら破壊した。
<ナイト>級魔道機関が生み出す魔力を、ほぼ全て注いで生み出された破壊光。空を見上げ、飛び出そうとしていた<ダンゼル>を――ダンデスを、何の余韻もなく呑み込んでいく。
これと同質のものを、アーシャは以前見たことがあった。メタル襲撃の日、レティシアが超大型メタルを消し飛ばしたあの一撃。アレと比べればはるかに小さく、また時間も短いが……
やがて閃光が消え去ったとき、元居た場所にダンデスの姿は……ない。
空に留まったまま、唖然とアーシャは呟いた。
「……殺、した……?」
『――まさか。こんなことで手を汚したりなんてしないわよ』
「え?」
呆れたように言うセシリアにぎょっと彼女を見やると。
彼女はその場から指をさすように、ガン・バズーカをとあるほうに向けた。スタジアムの、ちょうどセシリアが撃った方向だ。その壁際に、叩きつけられたようにノブリスが一機、ノビている……
と、そこできょとんとアーシャは首を傾げた。先ほどの一撃は明らかに威力がおかしかった。本来なら<ダンゼル>どころか、スタジアムの壁も原形をとどめているはずがない。なのに、スタジアムも消し飛んでいない……
呆然としていると、フフンと今度は鼻で笑ってセシリアが言ってくる。
『
壁に叩きつけられたまま――ついでに衝撃に押しつぶされて全身バキバキの――<ダンゼル>を見やってから、アーシャは恐る恐る聞いた。
「……全力で撃つ必要はあったの?」
『ただの八つ当たりよ』
「……なんで?」
『あんなのがノーブルを名乗るなんて、私たちへの侮辱もいいところでしょ? 言っておくけれど、私だって怒ってるのよ』
「…………」
胸を反らして怒ったようにセシリアは言う。だが“ノーブル”に関しては一家言あるようだし、自分なりに――アーシャはどうかと思っているが――ノーブルであろうとしているセシリアにとって、ダンデスのような存在は許せたものではないのだろう。
と、ふと思い出してアーシャは空に人を探した。見たかったのは、アーシャを助けてくれた先輩の<ナイト>だが。
『…………』
ガディと呼ばれた先輩は、何も言わずに空からダンデスを見下ろしていた。何か思うところがあるのか。そういえば、彼はダンデスにも先輩と呼ばれていた。ならばダンデスの関係者だろうか……
そこまで考えて、アーシャはふとため息をついた。今はそんなことはどうでもいい。なんにしても、これで一旦はひと段落か……
などと思った、ちょうどそんな時だった。
「……え?」
『あー!?』
そのダンデスと、ついでに墜ちていた空賊の<ナイト>をかっさらう、影が一つ!
完全に忘れていた。ムジカが去り際にガン・ロッドを破壊して無力化していった、もう一機の空賊の<ナイト>だ。戦闘に参加していないのでどこかに逃げたのだと思っていたのだが、まだ居残っていたらしい。
自身のガン・ロッドもその辺に放り捨てて、二人を抱えて一目散に逃げていく。
「あ、ちょ、ま……待ちなさいよ!! これだけ荒らしておいて何逃げてんの!! セシリア、追うよ!!」
『ちょっと待って! 魔力全部使っちゃったから、リスタートに時間が……!! 第一あなた、ガン・ロッドないでしょ!? ……ガディ先輩!?』
『わかっている!! このまま逃がすわけには――』
と。
『
上位者からの強制介入通信。問答無用で回線がオンされ、勝手に通信が起動する。
モニターに表示されたウインドウからこちらを見てくるのは……
「アルマ先輩?」
『アレを追う前に、やってもらいたいことがあるんだがね』
なんで彼女が? などと思う間もなく、マイペースに彼女は話し始める。
『具体的には北のほうなんだが。空賊の<ナイト>八機に襲われて、警護隊の連中がピンチらしい。時間稼ぎが目的なのか、はたまた別の何かがあるのか、人死には出てないらしいんだが……
『なんだと……!? その情報をいったいどこで――いや、だが、逃げる奴らは――』
『あんなの逃がしたところでどうということもないよ。殺したいなら止めはせんがね……ああ、あとやたらとうるさい小娘ーズ。お前らもう役に立たんから、これ以上は仕事せんでいいぞ』
「そ、そんな!? こんなにやられて、そのままあいつら逃がすんですか!? それに、今はムジカが戦ってるんです! 生徒会長とリムちゃんも攫われてる――追いかけないと!!」
『――そんな様子でか?』
「……!!」
ぴしゃりと言い切られて……というよりは。
冷たい、何の感情もない目で睨まれて、アーシャは言葉を失った。
その間にアルマは呆れたように肩をすくめて、
『やめとけやめとけ。それならまだお前も北に行ったほうが役立つというものだし……小娘。お前、あの冷血女を勘違いしてるぞ』
「冷血女?」
誰のことか。思い当たらなかったが、こちらの理解を置き去りにしてアルマは言う。
『あれが助手とリムくんだけ引き連れてったということは、仕込みはそれで十分ということだ。他に何か手を回してるかも知らんが。まあ声がかかってない以上、お前に役はない……それに小娘。お前が助手の心配など十年早い』
そしてアルマが口にしたのは――
不可解と言えば不可解な、こんな言葉だった。
『お前、あのエネシミュを使ってるんだろう? ならば知っているはずだ――
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