魔法職(最後の神様)

グイ・ネクスト

第1話 魔法職《さいごのかみさま》の仕事

 イチカ・リィズ・アナスタシア。その名前を呼び上げるだけで、全ての種族が平伏する。魔法職さいごのかみさまという役職を授かったイチカは森の中央で、眠りについていた。風と炎と水の精霊たちが、イチカのためにわざわざ快適な温度を保っている。そこに夜のイチカが帰ってくる。夜のイチカの名前はニュクス・リィズ・アナスタシア。夜のイチカこと、ニュクスがイチカのおでこに口付けをする。入れ替わりの合図だ。プラチナに輝いていた髪、金の目、宵闇のドレス。それらはニュクスと共に消えて行く。夜の終わりを告げるように、朝日が森の木々の間から差し込んでくる。

 イチカは目覚める。金に輝く髪、虹色の目、白い長袖を下に、赤いワンピースを上に着ている。イチカが上半身を起こすと、赤い不死鳥が、イチカの頭上に着地する。着地と同時に赤い帽子に姿を変える。イチカは膝を曲げて、身体を右に捻って、回転するように四つん這いになってからゆっくりと立ち上がる。

立ち上がった足元に四色の花が咲き始める。花はどんどん増えていく。

イチカは目を細めて半眼になる。目の前に小鬼、ゴブリンと呼ばれる魔物がやってくる。「イチカ様、おはようございます。カードを引く時間でございます」と、ゴブリンは45枚もあるカードを見せる。カードの表紙には黒い翼の天使が描かれていて、じっとこちらを見つめているようだ。イチカは「混ぜて」と、ゴブリンに依頼する。ゴブリンは「頼まれました」と、カードを混ぜていく。「ストップ。じゃあ、上から三番目のカードをちょうだい」と、イチカはいう。ゴブリンは三番目のカードをそっとイチカに渡す。カードをめくると、33番。全てを明らかにするドレス。と、書かれてある。

「恐れを手放す時なのだわ。私、お母様がお腹を壊して…私が助けなくてはならないって自分を責めていた事があるの。でも、お母様は自分で食べたいものを食べて、自分で寝床に入られて…そのまま私は仕事に行くのだけど、お母様は大丈夫なのかしらって。ずっと心は囚われたままだった。でもね。そういう時は、導きたまえ。そう、唱えるの。お母様の事が心配になった時は必ず、導きたまえ。そう、唱え続けるの。すると心は今を見ようとしてくれるわ。そして結果的に心は答えをちゃんと用意してくれるの。お母様の笑顔で、人生を楽しんで過ごしている姿が心に浮かんだわ。私の魂の色は黄色。そこに黒を混ぜることでもう一人の私(潜在意識、集合意識、阿頼耶識)オリーブ色に辿り着く。そうやって心はイメージをひらめきを与えてくれた。ゴブロウタ、ありがとう」と、イチカはゴブロウタに微笑む。ゴブリンのゴブロウタは白い光に包まれる。ゴブロウタは黒い燕尾服を手に入れた。「ありがたき、幸せ」と、ゴブロウタは片膝をついて跪く。

「ゴブロウタ、クロちゃんを呼んで」と、イチカはゴブロウタに頭を下げる。

「はっ。仰せのままに」と、黒い燕尾服をきたゴブロウタは小走りに走って去っていく。それをイチカは半眼のまま見つめている。妖精たちがダンスを始めた。赤、黄色、青、紫、緑。それぞれの妖精がそれぞれの踊りでイチカを歓迎している。ダンスは黒い狼の出現で終焉を告げる。

「クロちゃん」と、イチカは言う。

「おはよう、イチカ。どうした?いつのもサイコロか」と、クロちゃんと呼ばれた黒い狼は普通に会話を始めた。

「うん。サイコロを振りたいなって」

「今日は五つでいいのか?」

「うん。それでいいわ。」と、イチカが言い終わると…五つの魔法陣がイチカとクロちゃんを囲むように現れる。魔法陣からはサイコロが現れた。

「さあ、行くわよ」と、イチカの声に合わせて、サイコロは回転を始める。

出目は六、五、五、一、一。

「隠された数字は四という事で…つまり、扉は開かれた。」

【天界の扉が開かれました】

雷を司る神が現れた。「こんにちはっていやぁいいか」と、横柄な態度をとっている。「ええ、いいわよ。それでどうしたの?落とす場所を相談に来たの?」

「落とす場所はもう決まっている。浄化するためのポイントを俺っちが間違うわけねぇ。それよりもいいのか?そこから動かなくて」

「あーうん。そうねぇ、動くと妖精たちを騒がしてしまうけど…そろそろ動いてもいいかしら。クロちゃんも一緒だし。」

「?ブラックフェンリル様?え?あれ?えっとあなた様は?」

「あら、私を知らない。イチカ・リィズ・アナスタシアよ」

雷を司る神は地面まで降りてきて頭を下げた。

「いいの、いいの。気にしないで。さあ、それじゃ動くわよ。クロちゃん、行こ」と、イチカとクロちゃんは歩き出した。

四色の花が咲いていく。妖精たちが後をついていく。精霊たちが環境を整える。

イチカのためだけに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る