第三十四話 魔滅会
「……よし。あそこだ」
転移した俺は、そう言って前方に見える店を指差す。
木製の、それっぽい横開きの扉と、その上部分を隠すような感じで垂れ下がっている暖簾は、なんとも趣が感じられるな。いかにも伝統的な日本食屋――寿司屋に見える。
「じゃ、早速行こうか……と、言いたい所なのだが……」
転移した瞬間から、この場にある違和感を覚えていた俺は、その違和感がある方向に目をやる。
その方向に見えるのは、この前行ったダンジョン用品店の”ダンスタ”なんだけど……
「何やってんだ? あれ」
何故か、武装した統一感のある装備をした人たちが、そこを取り囲んでいた。
あの服装、確か今の警察だよな?
何で警察が、取り囲んでるんだ……?
「ふむ。良からぬ事では、ありそうじゃのう」
「む!? あっちから、ピリピリした気配を感じる……! ご主人様! ちょっと殺してく――うぎゅ!?」
俺は咄嗟に、飛び出そうとしたルルムの首根っこを掴んで、自分の下に引き戻した。
危ない危ない。流石にそれだけで殺すのは、道理に合わないってか、もはや末期の独裁者がする事だよ。
俺の知らない所でやる分には結構だが、見ている前ではやらないで欲しい。
「んー? 気配が不自然だな。ちょっと中の様子を見てみるか。【繋ぎ、監視せよ――《
”ダンスタ”の中がどうなっているのか気になった俺は、《
「うわー……なるほどなるほど。立て籠もり的なやつかな?」
すると、そこには一纏めにされ、一部殺されたりもしている店員らしき人間と、捕らえた人間を監視する人間の姿があった。
ややあって、建物の入り口付近に居た人間が、外に居る警官に向かって叫び声を上げる。
「ダンジョン探索を支援するから、奴らはこうなったのだ! ダンジョン探索を止めろ! 魔石を使うな! 我等”魔滅会”こそが正しいのだ!」
んーすまん。ちょっと何言ってるか分からない。
いや、言ってる事は分かるのだが、内容がちょっと同意しかねると言うか……そんな感じだった。
「まあ、なるほど。”魔滅会”か……たしか、ダンジョン反対組織の筆頭だったかな?」
ネットサーフィンをして手に入れた知識を引っ張り出してきた俺は、《
「む? 心当たりがあるのか?」
「ああ。やはりと言うべきか、人間の中には不明な点が多すぎるダンジョンを忌避したり、ダンジョンで手に入る資源は有害だとか言う奴が一定数居たりするんだ。で、その集まり的な奴らが、あそこで暴れてるって訳だ。お陰で、店は閉まってるし」
分かりやすいように説明しつつ、俺は恨ましげに”閉店中”と書かれた札が下げられている寿司屋を見やる。
ちっ クソ人間がっ……!
俺はイラつき、色々と悪態を吐こうとする――が、それ以上の殺気を横から感じ取り、口を噤んだ。
「ほう……ご主人様と折角”美味しい料理”を食べに来たと言うのに、彼奴等のせいで台無しになったと……。容赦なく妾が消し炭にしてくれるわ!」
やっべーアルフィアがマジギレしてる。
《
「落ち着け、アルフィア。そのまま炎で消し炭にしようものなら、その余波の熱で周囲一帯の建物も溶けるぞ? そしたらこの店は廃業だ」
流石に怒りのまま、アルフィアが最高火力で燃やしたら、どれだけ制御しても二次被害は避けられない。
アルフィアの魔力操作能力は確かに高いが、俺やロボさんに比べれば、甘いと言わざるを得ない。
因みにルルムは、お察しの通りって感じだ。
「だから、ここは引いてくれ」
「……ふん。彼奴等め、命拾いしたな。寛大なご主人様に平服するのじゃ」
アルフィアはふんと鼻を鳴らして、指先に宿ろうとしていた炎を完全に引っ込めた。
うん。良かった良かった。
流石にあのままやられてたら、マズかったからな。
「ありがとう。で、1つ訂正させて貰うが――別に俺は、奴らを生かすつもりはさらさらないぞ?」
俺だって、怒ってるんだ。
折角の楽しみが、あろう事か人間によってぶち壊された事を。
実害が出ている時点で、向こうに俺たちを害する気は無かったとかは――通用しない。
「今殺った所で、この寿司屋には入れないが……またいつか、食べに行けばいい。今日は、また別の美味い飯を食えばいいんだ」
そう言って、俺は再び《
終焉を呼び込む、呪いの言葉を――
「【死ねよ。糞野郎どもが――《
猛烈な――先ほどのアルフィアを遥かに上回る、原初の殺意。
アルフィアとルルム――そしてロボさんまでもが震える、俺が抱え続ける闇。
それが言霊として魔力に干渉し、絶対的な”死”という一種の概念が宿った不可視の魔力が、魔滅会に所属する
「なっ えっ!?」
「え、ど、ど、どういう……」
殺意の余波を浴び、一瞬ピクリと震える囚われていた人間たちであったが、やがて立ち上がると、逃げるようにして店の外へと向かって走り去って行く。
俺は念の為気配を探り、殺り残しがいないかを探したが――その気配は感じ取れなかった。
「よし。こんなもんか」
もう大丈夫だと思った俺は《
「おおう……。やはり、ご主人様の殺気は恐ろしいのう……」
「まー俺だからな」
殺す気概が足りないと、生き残れないのがダンジョンだ。長らく孤独に戦い続けたのなら、尚の事。
俺は腰に抱き着くルルムの頭を撫でながらそう言うと、チラリと警察の方を見た。
「な、何が起きたんだ!?」
「し、死んでるぞー!」
「回復術師に準備をさせるか?」
「いや、その前に制圧だ!」
どうやら警察たちは、突然の事に相当戸惑っているようだ。
まあ、厄介事は片付けたんだ。後始末ぐらい、警察なんだからやってくれ。
「もうあれは良いだろう。それよりも、さっさと夕飯を食べに行くか。ここの寿司は結局食べれず終いだが、他の……よし。今日は牛丼にしよう」
「うむ。分かったのじゃ。ご主人様よ」
「は~~い! マスター!」
「ハイ。リョウカイシマシタ。マスター」
そうして、想定外のトラブルに遭いながらも、さっと解決した俺は、別の夕飯を求めて、歩き出すのであった。
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