第二十三話 過去編(ルルムとの出会い)

 俺が、第653階層を攻略していた頃――


「ロボさん! 守れ! 【侵略せし激流。命への干渉――】」


「ハイ。【我ハ我ガ主マスターノ守護者。ソノ使命ノ下ニ、絶対ノ障壁ヲココニ――《完全障壁マスターガード》】」


 前方から押し寄せる、多種多様な大量の魔物。それらを前に、俺は横に立つ騎士型ゴーレム――ロボさんに命令を下した。

 直後、ロボさんは高速で詠唱をし、半透明の巨大な結界を構築した。


「「「「「グルアアアアァァ!!!!」」」」」


 数多の魔物による猛攻が、ロボさんの障壁を砕かんとする。だが、部分的にとは言え、俺の固有魔法レジェクトフィールドに匹敵する強度を誇るそれは――砕けない。

 その隙に、俺は詠唱を続けた。


「【――魂を侵し、汚染し、堕とす。それは絶望の呪い。やがて呪いは氷に閉ざされ、永遠とわの滅びを迎える――《永劫氷壊呪バイオレーション・グレイシャル》】」


 紡がれ、発動する魔法。

 直後、障壁の外側に出現した魔法陣から、大量の黒い水が流れ出てたかと思えば、魔物共を絡め、一気に押し流す。すると、黒い水に触れた魔物どもが、一斉に魂の底から苦しみだし――そのまま物言わぬ氷像と化したかと思えば、砕け散った。


「ったく。ちょっと数多すぎだろ……」


 200体を優に超える、レベル800超えの魔物の群れを掃討した俺は、ロボさんに障壁を解除させると悪態をついた。

 確かに第601階層以降は、魔境を通り越して別世界とでも言いたくなるぐらい、ヤバい場所だ。だが、それでもあれは異常すぎる。


「……ん? なんか音が……」


 違和感を感じ、ふと耳を澄ませてみると、奥の方から戦いの音が聞こえてくるのが分かった。


「何でだ……? 魔物同士は戦わないのに」


 長い間ダンジョンを探索して分かった事――魔物同士は殺し合わない。故に、ダンジョン内で俺以外が戦う音は聞いたことが無いのだ。


「流石に人は居ないだろうし……」


 居たら、流石に会っているし――何よりこの気配は人間のものじゃない。魔物のものだ。


「……見に行ってみるか。行くぞ、ロボさん」


「リョウカイシマシタ。マスター」


 突然の異常事態イレギュラー

 それに俺は動じること無く、警戒心をより一層高めながら、ロボさんと共に音がする方へと向かうのであった。

 そうして向かった先には――


「きゅきゅきゅ〜〜〜〜〜〜!!!!」


「グギャアアア!!!」


 空色のスライムによって蹂躙される、哀れな魔物たちの姿があった。魔物にあるまじき、逃走をしている奴も散見される。


「きゅきゅきゅ〜」


 そして、スライムは無邪気に殺した魔物を取り込んでいた。


「なんかヤバそ〜……」


 そう言って、そのスライムの異常性に目を見開いた――その瞬間。


「きゅきゅ?」


 魔物の掃討を終えたスライムが、俺に興味を向けた。そして――


「きゅきゅ〜〜!!!」


 溶解液を全身から放出しながら、俺に向かって跳び掛かってきた。飛び散る溶解液が俺の頬に触れた途端、凄まじい速度で侵食しようとする――が、毎度お馴染みの《常闘不堕ファイトルヒール》が発動している俺には全然効かない。


「【強化せよ――《身体強化ブースト》】!」


 そして、跳び掛かってきたスライムを、素手の拳で思いっきり殴る。


「きゅきゅ!!」


 だが、この階層の魔物を掃討出来る力を持っているだけはあるのか、それともスライム故なのか、ほとんど手応えを感じない。


「が、距離は稼げた。【水よ、凍れ。穿ち続け――《幾千氷槍アイシクルランス》】」


 俺は距離が開いた隙に詠唱を紡ぐと、幾千もの氷の槍を、スライム目がけて乱れ撃ちした。


「ぐきゅ! きゅっ! きゅ〜〜っ!」


 頑張って避けるも、次々と刺さっていく氷の槍。絶対零度には及ばずとも、相当な極低温で生成された氷の槍は、その冷気で追加のダメージを与え、動きも鈍らせていく。

 だが――


「ちっ まだ生きてるか」


 溶解液の全面展開でダメージを減らしたようで、これを受けても尚生きていた。

 だが、それ以前に戦っていた事も相まってか、相当消耗している。これなら直ぐに、殺れる。

 そう思った直後の事だった。


「きゅ〜きゅ〜きゅ〜」


 まるで犬がお腹を見せて服従するかの様に、スライムは溶解液の放出を止めると、びろ~んと地面に広がった。

 あれだけあった俺への殺気が完全に消え去っており、逆に若干の怯えまで見えている。


「……何なんだよ」


 理解不能な状況に、俺は思わず天を仰いだ。

 そして……悩む。


「敵意の無い魔物を殺すのは……ん〜……どうすっか……」


 このままサクッと殺すのは、何かあれだ。

 人間なら、こうやって油断させてから殺しに来るのがオチだから容赦しないが、魔物はな……


「ん〜……ロボさん。こいつが何を思っているか、なんとなくでもいいから分かる?」


 同じ魔物なら分かるかな〜的な感じで、俺はロボさんに話を振った。すると、ロボさんは「ハイ。スコシカンサツシテミマス」と言ってから、このスライムをじっと見つめる。


「……ゲボクニナル……ト、イッテイルヨウニ、オモワレマス。テキイハカンジマセン」


 下僕……つまり、ロボさんと似たようなポジションに入りますと言っているような感じか。

 それは、純粋な戦力増強に他ならない。

 裏切りも、人間じゃないならしないだろ。


「……よし。俺の仲間になれ。だが、裏切ったら承知しねぇからな?」


 言葉が通じているのか分からない故に、俺は威圧をコントロールして、それっぽく意思を伝えてみる。

 すると、スライムはより一層ぺた〜んと広がり、無害アピールをしだした。

 これは通じたって事でいいのだろうか……?


「……まあ、取りあえず名前を決めるか。お前の名前は……ルルムだ」


 ロボさん同様なんとなくで、俺はこのスライムに名前を付けた。すると、ロボさんの時と同様に、何かで繋がったような感じがした。

 この繋がりは――恐らく、名付けによる従属契約の証。

 言葉が言霊として、魔力――そして理に影響を与えるからこそ、起こる現象。

 あれから更に魔法の深奥に迫った俺は、そう結論付けた。


「よし。そんじゃ、行くぞ。ルルム、ロボさん」


「ハイ、ワカリマシタ」


「きゅきゅきゅ!!」


 そうして新たな仲間を見つけた俺は、再びダンジョン探索を進めるのであった。

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