第6話 君は私のヒーロー
私はどうしても心残りがあって大浴場に向かっていた足を再びホールに向けると、楽器の片付けを進めていた演奏者さん達に頼んで、もうしばらく残ってもらうことにした。
そして温室で食器をまとめていたフレッドを連れて二人で一緒に踊った。
どうしても感謝を伝えたかった。舞踏会でのことを含め色々とフレッドにはお世話になった。
そもそも私がみんなの前で踊ることが出来たのはフレッドが丁寧に教えてくれたから。だから折角なら二人でもう一度、練習とは違った形で踊りたかった。
フレッドの優しい踊りは演奏の終わりとともに終わりを迎えた。本当にあっという間だった。
すると余韻に浸る前にどこからか拍手が聞こえてくる。正面に立つフレッドも驚いたように目を見張る。二人で拍手が聞こえてきていた方に目を向けると階段上にお母様が立っていた。
するとフレッドは慌てたように私から離れると、慌てたように謝り出す。
「申し訳ありません。私のような者がアンリ様と踊ってしまい」
そんな風に頭を下げている姿を見ていられなくて、弁解しようと口を開こうとしたが、その前にお母様が「いいのよ」と言った。
「いいのよ。私はあなたのことを、ただの使用人と思ったことは一度もないわ。きっとお父様もアンリだってそう思っているわ」
お母様のその言葉に全力で頷く。それが必死すぎておかしかったのか、お母様は私を見て微笑んだ後、再びフレッドに向き直った。
「あなたは家族同然なのだから、もっと自由にして良いのよ」
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