<外伝>双剣使いと女鍛冶師

第26話<外伝>女鍛冶師の憂鬱

 フリーゲン・メイトライドには幼馴染がいる。彼女——フラムはもともととある名家の令嬢で、彼はどこにでもいる旅商人の一人息子だった。何の運命か、様々な事情でフリーゲンの父は長くハイス王国のとある町の彼女の家の隣に住むことになった。最初こそよくおもちゃの取り合いなどで喧嘩をしていたが、歳が上がるにつれて互いに認め合う存在になっていた。親同士も仲が良く、後から聞いた話では、将来的には・・・的なこともとも言っていたらしい。もっともフリーゲンが知ったことではないが。


 そんな二人には秘密があった。親たちには内緒で、とある冒険者のもとで、修行——もとい特訓をしていたのだ。二人とも筋がよかったようで、みるみる成長していった。フリーゲンは最初、フラムに一緒に冒険者になろうと持ち掛けた。魔法以外のお互いの足りない部分を補い合っているからだ。しかし彼女は一度その話を断った。——私は鍛冶師になりたい。そしてフリーのために剣を鍛えたい!——それが彼女の夢だった。彼女はその冒険者から鍛冶師としての心得も教わっており、冒険者よりも鍛冶師として生きる道を選んだのだ。フリーゲンは少し残念にも思ったが、素直に応援することができた。

 もっともフラムの親はそのことを許さなかった。フリーゲンの親は、教えるだけ教えるから後は好きにしろと言われたが、フラムの親は猛反対した。——そんな危ないことをする必要はない!——彼らが12歳になるころにはよくフラムと親の喧嘩をする声が聞こえてきた。

 


 


 しかしそんな喧嘩も戦争になれば関係がなかった。


 隣国イスプーク王国が、ハイス王国に攻め入ってきたのだ。もともと軍事力が低かったハイス王国はあっさり滅亡し、フリーゲンとフラムは戦災孤児なった。武術の心得があったおかげで、なんとか生き延びることができたが、彼等にはもう居場所がなかった。なんとかセレーノ共和国魔でたどり着き、冒険者ギルド“寝不足の羊亭”でお世話になることになった。15歳——成人すると、しばらくの間は、フラムとともに冒険者として活動していた。もともとのレベルも高かったので、メキメキと腕を上げていった。それと同時にフラムは鍛冶師としての活動も始めていた。彼女の師だったゴードンは、彼女に彼が持つすべての技術を叩きこんだ。そのおかげもあり、彼女の鍛冶師としての腕前は、並みの鍛冶師には追いつけないほどの実力を持ち始めた。

 しかしそんなゴードンも天寿を全うし旅立ってしまった。

 


 それを機にフラムは冒険者から身を引き、本格的に鍛冶師として活動を始めた。はじめのうちこそフリーゲンはフラムのもとに遊びに行っていたが、彼の仕事の都合や、彼女が“軍”のお抱え鍛冶師になり他地方にいってしまったこともあり、ほぼ会いに行くことが無くなってしまっていた。やがてフリーゲンも無理に笑顔をするようになり、このままフラムとの関係は終わってしまうのかともフリーゲンは考えてしまった。

 




   だからこそ、“寝不足の羊亭”にフラムがいたことに驚いた。



 「————————フラム?」


 「・・・・・・久しぶり。フリーゲンちょっと私の依頼受けてくれない?」


 突然の依頼頼み事に少し戸惑った。彼女がやつれすぎていたからだ。以前のような活気がなく、なにかに追われているような眼をしていた。


「・・・受けるのは構わないけど・・・少し事情を聞かせて。じゃないと俺も納得できない」

 

 彼女は無言でうなずくと、ついてくるようにうながした。


             ***


「それで?何があったの?」

 フリーゲンは単刀直入にフラムに質問した。彼女は大きなため息をつくと、辺りを見渡しながらぽつぽつと答え始めた。

「・・・“軍”のお抱え鍛冶師になったって去年言ったじゃん?2か月前まで働いていたんだけど・・・上司からのパワハラがひどくて・・・・・・やめた」


「・・・・・・それは・・・・・・・」


「しかもさ!最近誰かに見はられてる気がするの!外に出ているときは毎日なんだよ!」

 それを聞き、フリーゲンは何とも言えない顔になった。


「“軍”からの監視じゃない?やめたといっても、抜けた後しばらくは監視されることがあるっていうし・・・」

「いやあまりにも下手すぎる。おそらく密偵専門じゃない。とにかく私からの依頼はストーカーからの護衛と、あとはヴォワ鉱山で採れる銀の採取をお願いしたい」

 フラムはそう断言し、依頼を提示した。

「・・・あんま言いたくないけど報酬は?」

 フリーゲンが気まずそうに尋ねた。仮にも幼馴染なので、あまり聞くのも気が引けたのだ。

「採れた銀から鍛える魔剣でどう?」

「よし、その依頼受けよう!」

 もっとも彼は今回報酬があろうがなかろうが、今回の依頼は受けるつもりだった。幼馴染ということもあるので、どうにか力になりたい。そんな思いがあったからだ。

「それじゃあ出発は明日ね?寝坊するんじゃないよ?」

「だっ誰が寝坊するって⁈」

「あれれー?冒険者ギルドに登録しようって言った初日に寝坊したの誰だっけ~?」

 そんな様子を、温かく見守る人影があった。ギルドマスターことトーマスだ。戦災孤児だった二人を受け入れてからずっと見守ってきた彼は、また彼らに笑顔が戻っていることに一安心したのだ。


 ——なぁゴードン、あいつらはやっぱ一緒じゃねーと駄目みたいだ——

  そう今は亡きゴードンに語りかけた。

 


 こうしてフリーゲンとフラムは昔の話に花を咲かせながら夜を過ごすのであった。

 


                 ***



 次の日、フリーゲンたちはセレーノ共和国より東部に位置するヴォワ鉱山に来ていた。徒歩三日で行って帰って来れれる距離なので、そこまでトーマスからは心配されなかった。もっともフラムもフリーゲンほどではではないがレベルが高いため、そこまで心配をしなかったのだ。

「久しぶりだね。こうやって二人で冒険するの」

 フリーゲンは上機嫌だった。なにしろもう二度と会うことはないかと思っていたので、また話せていること自体、この上ない喜びなのだ。もっとも

 しかしそれはフラムもまた同様だ。二度と会えない・・・とまでは思ってはいなかったが、やっぱりフリーゲンといっしょだと落ち着くのだ。はたからみたら、それはもう・・・ということなのだが、フラムはそれを認められずにいた。

(あいつとはただの幼馴染なんだけなんだから!べべべべ別に好きとかじゃないんだから!)

 そんなフラムだったが、なるべく表情は冷静を保っていた。皮肉な話だが、上司からのパワハラから逃れるためのすべがここに役立ったのだ。

「なーに~?浮かれているの~?」

「もちろん!だって、やっぱりフラムといると楽しいから!」

「・・・・・・そっそう//////」

 からかうはずが、不発に終わるどころかむしろこちらが思いもよらない反撃を食らい、平常心が崩れてしまった。

(なんでそんな恥ずかしいこと堂々と言えるの~)

 そんなことをフラムは思っていると、空から何かが飛来してきた。それは体長3mほどの大鷲だった。

「・・・ジャイアントイーグルか。少し腕がなまっている気がするし、気を付けないと」

 そういうと、彼女は剣を抜いた。それは彼女自身が作った魔法のフランベルジュだ。



 最初に動いたのはフラムだった。彼女は大きくジャイアントイーグルに向かってフランベルジュを振り下ろすと、足を切り裂いた。ジャイアントイーグルは数秒悶えたが、そのあと無事な反対側の鉤爪でフラムに襲い掛かった。


 それを彼女は華麗に避けると、両手で持てる力をすべて振り絞りジャイアントイーグルを叩き切った。一般的に言う“全力攻撃”というものだ。


 どうやらクリティカル——急所にも当たったらしく、しばらくの間悶えていたが、しばらくすると動かなくなったのであった。



              ***


「全然腕なまってないじゃん。俺の出番もなかったし・・・」

 フリーゲンはちょっぴり不服そうだった。

「まぁまぁ。このあともどうせ戦うことになるんだし・・・それにあそこまで簡単に倒せたのはまぐれだって」

 


 ——変わらないな、フリーデンは。いつまでたっても無邪気で、明るくて、心配してくれて・・・いつまでもあの頃のままだ——


 フラムはどこかうらやましいような、むなしいような気持ちになった。自分はどうだろう。上司に嫌がらせをされて、周りからは憐みの目線しか向けられなくて、やめたらやめたで知らない人にストーカーされて。


 ただフリーゲンといると、なぜか心が落ち着いた。その理由は、気づかないふりをしていたい。



第26話<外伝>女鍛冶師の憂鬱 —完—

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