第25話—総員、25時に各々具材を持って集合‼夜鍋なのだ‼—

「や―――――――――っと戻ってこれた―――――――――――‼」

 冒険者ギルド“蒼の陽炎”に戻って来ると、カレンは大声で叫んだ。

 

 迷宮攻略をしてから1週間。レオ達はようやくスペルビア王国に戻ることができた。あれからしばらく“双濁”のギルドマスターであるエドガーにうちの冒険者にならないかと勧誘されたり、“双濁”の冒険者が野次馬のように群がってどうやって攻略したかを根掘り葉掘り聞かされたので、予定よりも帰りが遅くなってしまったのだ。ただ得られたものも大きく、レオなんかは魔剣を手に入れているので一番成果を得ているのだが。

「おぉちょうどいいタイミング戻ってきたの~。今日この後話があるから、全員後で客室に来てくれんかのう。話がある」

 そういうと、ライゴウは一度レオ達から離れ、執務室へと向かっていった。残されたレオ達は顔を見合わせ、何かやらかしてしまったか自分の胸に手を当てて考えるのであった。やがて全員同じ人に顔を向けた。

「ギルバート、何かやらかした?」

「確かに俺は昔けっこうやんちゃなことをしたが・・・さすがにそれはひどくねぇか?」





      *******

 




 一時間後、レオ達は客室のソファーに腰を掛けていた。目の前に座っているライゴウの顔はいつも以上に険しかった。いったいどんな話なのだろうと身構えていると、一人の少年が客室に入ってきた。

「お待ちしておりました、ライン様。こちらが例の者たちです」

「ふーん・・・確かに粒ぞろいだな・・・これならやっていけるかもしれない」

 ライゴウとラインと呼ばれた少年は二人だけで話を進めていた。なんの話をしているのかわからず混乱しているレオ達だったが、カレンが空気を読まずライゴウに向かって尋ねた。

「・・・え―—っと・・・何の話をしてるんですか?」

「あぁ、すまねぇな・・・っと、その前に自己紹介が先だな。こちらはライン・カーシェイン。“元”冒険者だ。何回か一緒に依頼を攻略したこともある」

「・・・一緒に?失礼ながらお歳はいくつで?」

 ロークが興味半分で聞いてきた。レオは彼を睨んだがローク自身は肩をすくめただけであまり効果がなかった。

「ん~・・・数えたことないなぁ・・・でも20は超えていると思うよ」

 ラインの反応に思わず一同全員が彼を二度見してしまった。どう見ても10代前半の少年にしか見えないからだ。そこまで考えた結果、イリスはいくつかの種族が頭に浮かんだ。

「とすると・・・グラスランナーかレプラカーン・・・いやスプリガンか?」

「おや、ご名答‼・・・自分はスプリガンだよ」

「・・・まじか。スプリガンって寿命350年程だったよな?そしたら普通に100超えてる場合があるぞ・・・」

 思わずギルバートは思っていたことを口に出してしまい、レオにつつかれた。もっとも誰も反論はしなかったが。

「ん——っと・・・そろそろ本題に戻らさせてもらうよ?単刀直入に言うと———うちにこないか?」

「・・・は?」

 唐突な話についていけず、レオ達は固まってしまった。

「俺は新しく冒険者ギルドを作りたい。そのための有力な若い冒険者を大陸中から探していたんだ。久しぶりにライゴウにあったついでにいいのいないかってきいたんだけど・・・それで君たちを紹介されたんだ。どうかな?やってみないかい?もちろん強制はしないよ」

「・・・そんな急に言われても・・・」

 レオは困った笑顔を浮かべた。シルヴィア達も同様で、どうするべきか悩んでいるようだ。

「一つ質問ですが・・・それは私たちだけではなく、他の人たちもいるんですね?」

 シルヴィアの念を押した質問に、ラインは首を縦に振った。

「すでに3人の冒険者と、“軍”所属の冒険者の人が集まっているね。そんなに急がないけど、今週中に答えを出してもらえると助かるよ」



     ***********



 ひとまず今日はもう遅いので帰ってよいとのことなので、一度客室を後にしたレオ達は顔を見合わせた。

「みんなはどうする?——あの話」

 カレンが全員が思っていることを代弁するかのようにつぶやいた。皆顔はどこか暗く、結論を出せていないようだった。

「・・・夜鍋しましょう!」

「は?」

 突然のロークの提案に、思わずギルバートは呆れてしまった。

「ここしばらく“蒼の陽炎”に戻ってこれなかったじゃないですか?。それでもらっていたものがそろそろやばいので、みんなで食べましょうよ!」

「・・・それ、お前が今まで作るのが面倒くさがって栄養カプセル(ルーンフォーク専用)で済ませた結果だよね?」

 思わずレオはジト目で彼を見た。さすが付き合いが長いだけあって、考えてることはまるわかりだ。

「・・・バレちゃいましたか!まぁでも、どうでしょう?このあと」

「といっても・・・もう24時だよ?今からやるの?」

 シルヴィアは呆れかえっていた。

 ——ただでさえ唐突な話を聞いたばかりなのに——

 そう思ったが、逆にこう思った。酔わしてみんながどう考えているか聞いてしまおう・・・と。

「・・・まぁでも、いいんじゃねぇか?いろいろと話してぇこともあるしな。酒よういしとくな。いいやつもってるから」

 そう言ってレオのほうを向いた。——を詳しく聞きてぇからな——

「ま、たまにはいいか」

「はいはーい!あたし、いいお肉持ってるよ‼」

「みんなが参加するなら、参加しようかな」

 クライドやカレン、イリスも参加の意を示したのでロークは満足そうにうなずいた。

「それでは!1時間後に集合でお願いしますね~」




         *****




 1時間後の24時半、シルヴィアが早めに来てみるとロークが先に鍋を作っていた。


「おや?お早いですねー。もう少しで第一弾完成しますよ~」


———そういえば、依頼でもないのにこんな遅くまで起きているの逃げてきた日あの夜以来だったな———

 

 急にあの地獄の日々のことを思い出し、ゾッとした。何故か、手の震えが止まらなかった。





「———シルヴィ?どうかした?」


いつの間に来ていたのか、レオが心配そうに尋ねてきた。

 


——大丈夫。何でもないよ——



そう言いたかったが、震えを抑えることができず、ますます恐怖心が増していった。


———なんで今になって?———


「...シルヴィア、ちょっとごめんね?」

 そういうと、レオはシルヴィアを軽く抱きしめた。彼はほんのりと温かく、優しさを感じた。いきなりの出来事に思わずシルヴィアは驚いて固まってしまった。

「———レッレオ————⁈」

「・・・あんまり俺、だれかを励ますことはできないんだけどさ・・・その、今はもう一人じゃない。自分も人のことは言えないけど、シルヴィアももっと周りを頼ろう?」

―――それレオがいう?――――

  そう思わずにはいられなかったが、いつの間にか震えは止まっており、自然と気持ちは熱を帯び始めていた。しかしそれは長くは続かなかった。

  なぜなら―――


「お熱いのは構いませんが、私がいることも忘れないでくださいね?」


 ロークは苦笑交じりに言った。あまり口出しはしないとは決めていたが、さすがにこれは気まずい。

 レオとシルヴィアは、またやらかしてしまったと羞恥心でいっぱいになり、今すぐ逃げたくなった。

「・・・あれ?シルヴィア?顔赤いけど大丈夫⁈もしかして熱あるの⁈」


 タイミングがいいのか悪いのか入ってきたカレンが心配そうに尋ねた。その後ろからは、額に手を抑えたクライドの姿もあった。さらにその後ろには、面白いものを見れたといわんばかりのイリスの満面の笑顔もあったのだ。


「———まぁ、とりあえず飲もうぜ?」


 いつ部屋に入ったのか、ギルバートはレオの肩に手を置き、酒を差し出した。もっとも彼は真っ白で今にも消えそうだったが。


      *****


「・・・プッハ———————————————!!!やっぱピエーデ産の蛇足酒はうめぇな~」

 25時、さっそく鍋パが開始されていた。始まってそうそうすぐにでき上ってしまった。そんな横でレオはを話そうか話さまいか悩んでいた。しかし——

(・・・シルヴィアに言っといて、自分だけ隠すのは違うよな・・・腹くくるか)

「・・・ちょっと話があるんだけどいいかな?」

 レオの発言に辺りは一度静まり返った。なんとなく厄介事な案件な気がする。ロークはそんな気がしてならなかった。ギルバートやシルヴィア、そしてカレンとクライドは笑顔でうなずいた。イリスは無言で鍋を食べている。

「・・・実はこの前、怪しいフードを被った男に会ったんだ。おそらくロークがあった奴と同じだと思う。“紅鴉に入らないか”って直接言われたよ。もちろん断ったけどね。今後もまた会うことになるかもしれない。————だから俺は今回、ラインさんのところでお世話になろうと思う」

 それは覚悟が決まっている目だった。レオは他に誰が何と言おうと意見を曲げるつもりはなかった。———ただこうも考えていた。

—――――まだみんなと冒険がしたい。一緒についてきてほしい———————


「・・・私もかな」

「・・・え?」

 一瞬何を言っているのかわからなかった。しかしそれは喜びへと変わっていった。

「あれ?もしかしてシルヴィアも?やった———!またいっしょだ!」

「なんだよ。おまえもか!ひょっとしなくてもお前も来るんだろ?クライド?」

「当たり前だ。こんな機会まずない。ロークはどうなんだ?」

「ん——?一から実績を作っていくのも面白そうですしね、ついていきますよ。皆さんといるほうが楽しいですし」

「誘ってくれたのは君たちだしね。私もついていくよ。」

 どうやら皆考えていることは一緒のようだ。不安もなくなり、ようやくすっきりして鍋に手をつけることができそうだ。っとここまできて気づく。自分用にとっておいた肉がない。鍋をよくみてみると、肉がほとんどなくなっていた。———何故?っと考えてとある事実に気づく。

「・・・イリス、さっき無言だったけどさ、ここの肉食べたのって・・・」

 そこまで言い終わる前にイリスは逃亡を図ろうとした。しかしすぐにシルヴィアに捕まってしまった。

「ちょっと何一人で肉全部食べてるの!私も狙っていたのに!」

「ちょっと待て‼いつのまにそんなに食べたのか?食いすぎだろ?」

「戦争だイリス!覚悟しやがれ!」

「ちょっごめん‼夢中になっちゃっただけだから————————!」

 そのとき町中にイリスの叫び声が響き渡った。そんな地獄絵図を見て、レオはこんなバカ騒ぎがまたできるといいなと思うのであった。


 こうして夜鍋パーティは終わった。余談だが、騒音迷惑で、ライゴウに怒られたのを記しておく。

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