第23話—迷宮攻略の裏で・・・—

 レオ達が戦っているころ、ライゼはひたすら観察に徹していた。彼らの戦闘データを得るためだ。しばらく見ていると、彼はとあることに気が付いた。

(・・・守りはほぼあのリルドラケンクライドに任せきりなんだな・・・おそらく全体的に体力はあまり防御は高くはないのだろう。—あの“蒼瞳の獅子”は別だが。ファルシュ様が言う通り、おそらく彼が一番の強敵だ)

 そう分析をしていると、不意に後ろから声がした。

「楽しいですか?誰かの戦闘を見ているのは」

 後ろを振り向くことはできなかった。背中に突き付けられているものを理解したからだ。

「物騒な男だな。銃口を突き付けておいて何の用だ?“機械仕掛けの射手”ローク」

「先日、スペルビア王国のとある貴族が暗殺されましてね~・・・そのときの目撃情報と、あなたの宿を抜けた時間を調べてここまで来たのですよ。実際大変でしたよ。あなたを探し出すのはとても苦労しました。何しろこの少ない状況から犯人を探し出せというひどい依頼を請ける羽目になりましたし・・・」

 しばらくの間続くロークの愚痴に思わず同情しかけたライゼだったが、気を取り直してあたりを見渡した。その後しばらく沈黙の時間が過ぎていった。そして—



「———————————なめるな!」


 そう小さく声を出しながら懐からダガーを取り出しロークに向かって切りつけた。かろうじて避けたロークは、“天女の羽衣”と“紫電”を構えなおした。

(俺は暗殺者として近接戦闘をやれないわけではないが、そこまで強いわけじゃない・・・早くこの場を離れないと・・・ただ向こうもおそらく近接戦闘主体じゃない。時間を稼いで逃げるしかない)

 ライゼは、ダガーをロークに向かって投げつけると、一瞬にして逃げようとした。ロークは反射的に投げつけられたダガーを撃ってしまい、気が付いた時には、ライゼは暗闇に消えていたのだった。

「・・・逃げられてしまいましたか・・・」

 どうやって報告しようか悩んでいると、後ろから近寄ってくる人影があった。レオ達だった。

「ローク⁉何でここにいるの⁈というか依頼はいいの⁈」

「ていうかさっきまで戦っていたの誰⁈」

 レオとカレンの質問攻めに少し困ったような顔をしたが、やがて口を開いた。

「ひとまず、お久しぶりです。これまでの経緯は帰りながら話しませんか?ひとまず私は飲まないとやってられない気分です」

「おまえが酒を飲みたいといわせるのって・・・どんな無理難題を吹っ掛けられたんだ?」

 余談だが、ロークは滅多に酒を飲まない。というより、食全体にあまり関心がないといったほうが正しいだろう。そのためいつも食事は栄養カプセル(ルーンフォーク専用)で済ませているのだ。

「そうだね。まずは“双濁”に戻ろう。そこで話を聞かせて」

 こうして、ようやくレオ達は帰路につくのであった。

**************************************

「まずポアー伯爵のドラ息子暗殺事件の犯人を調べるのに情報何も無しでやる羽目になったんですよ!唯一の手掛かりは殺されたときに刺さっていた矢のみ。・・・まぁ通常の人間では手に入れられない代物だったので助かりましたが」

「通常の人間では手に入れられない矢?」

 シルヴィアが出されたクッキーを食べながら訊ねた。なおこれまでの過程で彼女は二皿分のクッキーを一人で食べている。

「えぇ。トラストーン商会の少し高価なその日が発売の新商品の矢でした。本当に運でしかないんですが、たまたまその月この矢を買ったのが一人しかいなかったので・・・おかげで助かりました。いやはやトラストーン商会からしてみればえらい風評被害を受けることになってしまいましたが・・・」

 そこまでいうと、ロークは一度お茶を飲んだ。

「ただ、まぁ・・・殺されたドラ息子はろくでもない男でしたけどね。傲慢で他人を見下し、女癖も悪い。最近は怪しい男とつるむようになったんだとか」

「じゃあその暗殺者は誰かの怨恨から依頼を請けたってこと?」

「いえ・・・その可能性もないとは言えませんが、おそらく違うかと」

 珍しく歯切れの悪いロークに一同は注目した。というより彼の様子がいつもと違うからだ。いつもなら、すぐ誰かしらに茶化すようなことをするのだが、今回はそんなことをするわけではなく、深刻そうな顔をしたまま悩んでいるようだった。

「・・・レオ、“紅鴉”はしっていますか?」

 その話をすると、レオは頷いた。しかしイリスやカレンなど数名わからず、首をかしげていた。

「“軍”が指定する人族だけで構成された武装組織だったよね。もしかして、あそこで戦っていたのって—」

「おそらく“紅鴉”の一人です。それとカレンさんの集落のときに怪しい男に会いましてね。そのときあなたに『紅鴉にはいらないか?』と伝言を頼まれたんですよ」

 それをきくと、レオは少し顔を曇らせた。正確に言うとロークに向けてだ。

「なんでもっと早く言ってくれなかったの?!言ってくれたら自分で解決させたのに!」

「あなたのその性格だから言わなかったんでしょうが‼余計なことに他人を巻き込みたくないからそうやって自分ひとりで何とかしようとする。そういうところ、前から何も変わっていませんよ!」

 はっきり言われててしまい、しかも周りからロークへの同意しか集まらず自分の味方はいないと悟り、初めて自分は一人で抱え込みすぎているんだと気が付くことができた。

「・・・わかったよ、次から気を付けるよ。でもなんで今なの?もしかして忘れてた?」

「・・・・・・・ソンナコトナイデスヨ?」

 明らかに目線がレオに合わず泳いでいることから一同察しがつき、溜息をついた。

「まぁそのことは戻ってから考えようぜ。もう今日は疲れたし、さっさとスペルビア王国に帰りてぇ」

「面倒くさいだけでしょ」

 シルヴィアの的確なツッコミにより、クライドは呆れ顔になったが、その一言により、その日は終わるのであった。



  そして翌朝、予期せぬ邂逅を果たすことになるとはまだ誰も知らないのであった。



第23話—迷宮攻略の裏で・・・—完

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