第10話—真夜中の襲撃者—前編
「・・・そういやじっちゃん、まだ帰ってきてないな・・・」
夕食を食べ終わっており、後はもう寝るだけなのだが、ふとカレンは思い出し、少し不安な顔になった。
「なら俺が見てくるよ。ついでに依頼主も回収してくる。」
そういうとギルバートは立ち上がり、玄関へ向かっていった。残されたレオ達は寝る準備を始めようとしていた。ちょうどレオが眠りにつこうとしたとき、ギルバートが勢いよく扉を開けて入ってきた。
「起きろ!敵襲だ!」
飛び起きたレオは急いで近くに置いてあるフランベルジュを手に取った。鎧はいざというときのために着ていたので、その時間は削ることができた。クライドとロークも準備ができているようだ。
「シルヴィは?」
「今カレンと準備してる。とにかく急ぐぞ!」
すぐさま外に出ようとするギルバートだったが、ロークに止められた。
「誰がロナルド君たちを守ります?」
「あ」
どうやら失念していたらしい。明らかに焦った顔になり始めた。しかしあまり護衛に人員を割いている余裕はない。数秒沈黙の時間が下りた。しかし—
「俺が護衛につく。元凶はお前らがなんとかしてくれ。」
クライドがそういうと、ヘビーメイスを持ち直した。レオ達は頷くと、急いで外に飛び出した。外にはもうシルヴィアとカレンがおり、近くのゴブリンを退治していた。
「うわー・・・なんかヤバそうなのいる・・・」
おもわずレオは口に出してしまったが、実際にその通りなのだ。そこかしこにトロールがおり、さらにミノタウロス数体暴れていた。しかし集落の者も負けてはいなかった。この村は戦士の集落なのだ。戦いには長けている。
「三手に分かれましょう。ギルとカレンさんはカレンさんのおじいさんを、レオとシルヴィ東部を、私は一人で西部を抑えます。」
そういうと、ホルスターからデリンジャーを取り出し、構えた。
「ロークだけで大丈夫?」
心配そうにシルヴィアが聞いたが、大丈夫だと言わんばかりに親指を立てた。
「まぁ、最悪死んでも記憶が飛ぶだけですので。」
『まず死ぬなよ!』
この世界では基本、蘇生は忌避されており、蘇ると“穢れ”が溜まってしまい、溜まりすぎると最終的にアンデッドになってしまうため、一般人はまずしたがらない。しかし冒険者は別だ。多少は理解があるため忌避されにくい。ルーンフォークは死んでも穢れない。代わりに記憶の1年分が無くなるのだ。余談だが、ナイトメアは生まれながらにして“穢れ”を持っているため、“忌み子”として扱われる。しかし能力が高いため、冒険者などではそういった差別が少ない。そのため冒険者になるナイトメアが多いのだ。
「大丈夫です。やばくなったらクライドを盾にしますよ。」
それはそれでどうかと思うがとレオ達は思ったが、これ以上無駄話をしている暇はないので、移動を開始した。
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「けっこう倒したね・・・」
「終わる気配見えないけどね・・・」
30分程経過したが、レオとシルヴィアは撤退する気配のないこの状況に危機感を抱き始めた。ここまででレオ達はトロールを3体倒している。しかしまであちこちにトロールが残っているのだ。夜が明けるまでに倒しきれるのだろうか。そんなことを考えていると、今倒した敵の奥からトロールよりも引き締まったスマートな体格をした蛮族が出てきた。
「・・・ダークトロール!!」
シルヴィアが忌々しそうに誰となく呟いた。—トロールでさえ一苦労なのに、それよりも上の敵がいるだなんて!—そんなことを思わずにはいられなかった。
「ほう?少しは手ごたえがありそうだな。かかってこい、人間の少年少女よ!」
「シルヴィア、援護頼む!」
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視点は変わり、ロークはかなり参っていた。敵の数の多さもある。しかし今一番困っているのは―
「おっかぁ!どこぉー!」
そういって泣きじゃくっている子供を連れていく羽目になっていることだった。先ほどの戦闘中に見つけ、どうしたのかと聞いたら親とはぐれてしまったようだ。このままでは下手な戦闘はできない。どうしたものかと思っていると―
「—貴様、魔動機師だな?」
目線の先には人間に似た肌が雪のように白い蛮族が前に立ちはだかった。片手にはロングソードを持っていた。ロークは軽くため息ををつくとアルボルを向き直った。
「できれば見逃してもらえませんかねー、今私子持ちなんですよ。」
「それで逃げられると思うか?一昔前、我々は貴様ら魔動機師のせいで住処の森林を大量に伐採されたのだ。ここで殺さない意味があるか?」
鬼の形相ですごまれ、冷や汗をかいた。—まずいな。この子だけでも逃がすか?—
しかし生きて返していられる自信はない。じりじりと近づいてくるアルボルをどうにかしなければと考えているとき、横からアルボルに向かって矢が飛んできた。
「今のうちにこっちへ!」
声が聞こえた家の裏側に向かうと、レオ達と同い年くらいの少年少女がそれよりも年下の子たちを守っていた。
「この子もお願いしますね!」
迷子の子を預けると、ロークはホルスターからデリンジャーを抜き、前に出ようとした。すると守っていた子たちのリーダー格であろうラーテルのリカントの少女が止めに入ってきた。
「一人で行かれては駄目です!ここに隠れてやり過ごせれば―」
「あの蛮族の狙いは私です。見つかれば、それこそ皆殺しにされます。」
「・・・ならせめてここにいる戦士を一人だけでも連れていてください!前衛の役に立ちます!」
そういうと、近くにいた少年と目配せした。少年は頷くと持ち場を離れようとした。
「気持ちだけ受け取っておきます。これ以上ここの人数を減らすのもまずいですし、おそらく足手まといになるので。」
「な―」
「では失敬。」
そういうと、あえて何軒か先の家の前から出て行った。
「どこ行ったあのルーンフォーク・・・」
先ほど逃げられたロークを探していたアルボルは、リカントの少年少女たちが隠れている家の前まで来ていた。アルボルが裏側に踏み込もうとした瞬間—
「マギスフィア起動。コードロード:【クリティカルバレット】」
そう後ろからアルボルを撃った。しばらくその場で呻いていたがロークの姿を目視すると怒りに任せて攻撃してきた。
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「まさかここまで強いやつがおるとはな・・・」
ギルバートとカレンは数分前から一人の人間のような蛮族と対峙していた。どちらも今は満身創痍の状態で立っているが、ギルバートとカレンのほうが有利な状況だ。
「動けるか?ていうか言葉通じるか?」
目線の先には獣変貌したカレンがいた。獣変貌すると、筋力が上がるかわりにリカント語しかしゃべれなくなるのだ。だからといってコミュニケーションが全く取れないわけではないのだが、練習しなければ明らかに不利だ。
ことの発端は数十分前に遡る。カレンの祖父を探すために裏山まできていたギルバートとカレンだったが探すのはそこまで苦労しなかった。カレンの祖父は人間らしき蛮族と戦っていたのだ。しかしそれ以前にも他の蛮族とも戦っていたようで怪我がひどく、疲弊しきっていた。そこへギルバートたちが加勢したのだ。
「ガルル(とりあえずこっちは伝わっているよ!)」
「うむ全くわからん。じいさん下の様子見てきてくれるか?そろそろ向こうの状況が知りたい。」
カレンの祖父は獣変貌を解くと、こう言い放った。
「若造が!大口叩くのなら死ぬなよ。」
次の瞬間には走り出し、山を駆け下り始めていた。
「ふん・・・あまりやりたくなかったのだが・・・本気を出してやる」
次の瞬間、人間のような蛮族は5m程のトカゲのような姿にギルバートたちを見下ろした。
「さぁ、ここが勝負どころだ!」
第10話—真夜中の襲撃者—完
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