第9話—冒険を夢見る狼少女—

「—は~楽しかった~!やっぱり世界は広いな~」

 数十分後、シルヴィアと狼のリカントの少女、カレンの戦闘は決着がついた。ほぼ  引き分けに等しいが前衛か後衛かの差で、若干だがカレンのほうが勝っていた。

「もうマナ全然残ってないよ・・・」

 それは護衛任務として大丈夫なのか?そんなことを考えてしまったレオだったが、ひとまずシルヴィア達に近づいていった。

「あれ?レオ、いつの間にこっちに来たんだ。」

「暇だったから適当にふらついていたんだけど・・・ちょっと面白そうな話を聞いてさ、探してたら戦闘しているのが見えて・・・あ、傷治すね?【キュア・ハート】」

 そういって、シルヴィアの傷を癒した。その後、カレンのところにもいき、傷を癒しながら尋ねた。

「君がバンチョ―?さんでいいのかな?」

 そう聞くと、カレンは顔を真っ赤にし悶絶した。しばらくすると、ようやくか細い声で尋ねてきた。

「・・・それって誰から聞いた?」

「近所の子供からだけど?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 それからさらに長い間彼女は沈黙してしまった。なんとなく想像のついているレオは黙ってあげている。シルヴィアは状況がよくわからないようで混乱していた。

「えっと・・・そこまで気にすることはないと思うよ?誰だって忘れたいことはあるし・・・」

「あなたの二つ名も十分痛いですよ?“蒼瞳の獅子”さん?」

 力強くフランベルジュを鞘に入れたままロークの足を叩いた。しばらく悶絶していたが、しばらくすれば治るだろう。その様子を見ていたカレンの表情は何かうらやましそうだった。

「・・・ねぇ冒険者ってさ、どんなことをするの?」

「・・・まぁそうだね。蛮族討伐や人探し、あとは今俺たちがやっている護衛任務とかかな?他にもいろいろあるけどね。」

 レオがこう答えると、カレンは何か悩んでいる顔になった。その後レオ達はさまざまな質問をされた。どうやったら冒険者になれるのか、そのための試験はあるのか、どうして冒険者になったのか。

「それしか生き方がなかったからかな~」

 シルヴィアが魔香水を嗅ぎながら、答えた。ちなみに完全に完治していなかった怪我は、迷惑料ということでカレンの母親が提供してくれた。おかげで体力は完全に回復することができた。

「私はまぁレオに巻き込まれたからですよ。」

「あれ?そうだっけ?」

そういっているものの明らかにレオの目は泳いでいた。

「ええそうですよ!私が執事として仕えていたのを無理矢理連れて行ったのはあなたじゃないですか!確かにあのくそ主人は最悪でしたがね。」

 初めて聞く情報にシルヴィアは納得していた。どうりで口調が丁寧なわけだ、と。

「・・・私はさ、この小さな集落で一生を終えたくない。もっといろんな場所を見て周りたい。だけどじっちゃんもおかぁもそんな危ないことはよしなさい!っていうからさ。前々から説得しようとしているんだけど・・・全然だめで、どうやったら説得できると思う?」

 話を聞いていたレオはしばらく考えていたが、やがて口を開いた。

「一つ質問。蛮族と戦ったことはある?」

「それはもちろん!ミノタウロスとタイマンはれるよ!」

 それはすごいとこの場にいる全員が心から思った。ミノタウロスはかなり強い。ましてやそれがタイマンでとなるとかなり骨が折れるはずだ。

「・・・じゃ、もうこっそり抜け出すとかすればいいんじゃないんですか?」

「いやそれはさすがに・・・」

 さすがにそれはダメだろとレオは思ったが、カレンはその手があったかという顔になった。それを見ていたシルヴィアが口を開いた。

「私はおすすめしないよ、それは。私には弟がいたんだけどさ、町を追い出された時にはぐれたまままだ一度も会えていない。もし大切ならやっぱり一度話し合うべきだと思うよ。」

 しばらく黙って聞いていたカレンだったが、小さく笑うと頷いた。

「そうだね。やっぱりもう一度話してみるよ!」

 そういうと立ち上がり、満面の笑みを浮かべた。それから大きく一度伸びをし、レオ達をみて尋ねた。

「そういえば今日どこに泊まるの?」

「確か族長の家のはずでしたが・・・」

「なんだ、あたしの家か。」

そういうと、先に走って行き、手を振った。

「案内してあげる!」

**************************************

「この大バカ者が!!あれほど外にでるなと言っただろう!なぜいつまでわがままを―」

「あ、じっちゃん、お客さん連れてきたよー」

 カレンの家にあがると、威厳たっぷりな熊の老リカントが待ち構えていた。部屋の奥にはギルバートとクライドがおり、ギルバートは相変わらず筋トレをしていた。

「まったく・・・特に何もないが、ゆっくりしていってくれ。わしは薪を取ってくる。」

 そういうと、一度家を出て行った。奥ではカレンの母親が料理をしており、いい匂いが漂ってきた。

「遅かったな。何かあったのか?」

「いや?ちょっといろいろと話していただけだよ。」

 クライドの質問にレオはにべもなく答えると、腰に差していたフランベルジュを壁に立てかけた。

「そういえば依頼主は?」

「ここの家の次女と外でお熱い仲になっているよ。」

「へ、へぇ・・・」

 シルヴィアの問いにギルバートが面白くなさそうに答えた。その後数時間は何ともなく過ごすことができた。   

       そうここまでは。

**************************************

 場所は変わり、リカントの集落入口近く。一人の男と、蛮族の軍勢が集まっていた。

「・・・ここだな。今にまっていろ、獣人ども!」

第9話—冒険者を夢見る少女—完

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