彩の英雄

流鏑馬サブヤ

集結

第1話—神を呪う者—

「おいレオ、お前本当に大丈夫か?」

 ここは希望と絶望の地、クピュリタス大陸。大破局以降、人族と蛮族の戦いは激しさを増していた。その大陸南東部フォルディウス地方最大国家スペルビア王国。その中の冒険者ギルド“蒼の陽炎”にレオはいた。

「あまり大丈夫じゃないんですけど・・・そろそろ生活費が危ういので・・・動けるうちに動きたいんです。」

「あんまり無茶すんじゃねえぞ?まだ全滅してから日がたってるわけじゃねえんだから。」

「ええ・・・わかってます。」

 レオはは先月まで、“ウィクトレアス”という6人組のパーティに所属していた。しかしパーティは全滅し、6人中、3人の死体が発見され、一人は、ギルド内で死亡、残る一人は行方不明で、彼が唯一の生き残りだ。


















―——よくぬけぬけと一人帰ってこられたよな———






———なんで生きてんの?恥ずかしくないわけ?―——
















―——こいつよりもアルトさんのほうがよかったな———






























(うるさい。もうそれ以上言わないでくれ)


 










 レオが一人だけで依頼から戻ってきたことで、周囲の人間からは責められまくられた。


 なぜおまえだけ戻ってきた。どうせならアルトさんのほうがよかった。なんでこんな新入りなんかが・・・


 レオがパーティに所属していた“ウィクトレアス”はギルド内で最強の冒険者で、周りのあこがれだった。


 それなのに戻ってきたのは、少しばかし名が売れ始めた新入りルーキーだ。その事実に誰も納得したくなかった。


 そんな状態でも、ギルドマスターや事情を知るごく一部の人間や旧友は心配してくれたので、まだなんとかなっていたのだろう。


 たださすがにそれも限界がある。少しの間、レオは体調を崩してしまった。回復はしたが、顔色はあまりよくなく、いまだ病人のように見えてしまっていた。

 それでも生活費だけは稼がなければならないので、無理矢理体を動かして、依頼を請けに来たのだ。


「・・・なんかあれば、相談に乗るくらいはできるからな・・・て、そういやお前依頼受けるつったって、一人でやる気なのか?神官戦士だとはいえ、それは許可できねぇぞ」

「ライゴウさん、流石にそんなことはしませんよ。それにもう俺は神聖魔法を使う気はないです。もしするなら、初心者向けの依頼探しますよ。」

 先ほどから話をきいていたドワーフの店主—もといギルドマスターがそれをきいて安心した顔になった。

「・・・お前さえよければ紹介したい奴らがいる。そいつらと組んだらどうだ?」

レオはしばらく考えると、

「・・・せっかくですがお断りさせていただきます。その・・・まだその気持ちになれないので・・・」

「・・・そうか・・・悪いな無r」

「やぁライゴウさんちょっとよろしいですか!?」

「・・・今取り込み中だ・・・ローク・・・」

 気まずい雰囲気だったが、ベージュのような髪をし、硬質素材に覆われている人間—ルーンフォーク—であるロークが入ってきた。

「おや?失礼しました・・・ってレオ君じゃないですか!」

「ローク?!なんでここに・・・ワトソン男爵の下で執事をやっていたんじゃ・・・」

「いろいろありましてね~、転職したんですよ。今はまた冒険者です。アルト様方とは上手くやれていますか?」

レオとロークは友人関係で、会うのは数か月ぶりだった。

「・・・一か月全滅したんだよ・・・アルトとエリーナ、ニコラウスは死亡、マリーはギルドまでは戻ってこれたんだが・・・」

「それは・・・大変失礼いたしました・・・。」

「大丈夫だよ。また仕事を探すさ!・・・」

 そういうと、無理矢理笑顔をつくった。

 それを見ていたロークは、一つの提案をした。

「では、また私とコンビを組みませんか?」

「・・・いや・・・今回はえんr」

「最近私、逃げることが可能になったので近距離も強くなったんですよ。」

「いや・・・だから・・・」

「銃もジェザイルに買い替えまして。」

「ほんっと人の話を聞かないな!おまえは!」

 そう半ギレで答えている横で、隣に座っていた人間の少女がうるさそうに、しかしどこか興味ありげにきいていた。

すると、

「がっはっはっはっは!そうだなロークのやつが正しいわい。よし気ぃ変わった。おまえ、今からいうやつらとパーティ組め!」

「おいマスター!さっきと言っていることが違うぞ!」

 無視してその横に座っている少女を見つめて、

「シルヴィ、おまえもこいつらと組め!」

といった。

 それを聞いてシルヴィと呼ばれた少女は、

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 今日最大級の声がギルド内に響き渡った。

「おぬしらはうちのギルドの中でももう数少ない実力者だ。それがバラバラで動かれても、どうせ依頼によっては協力することになる。そしたらいっそのこと最初からパーティにしちまえばいいと思ってな。」

 そういうと、戸棚から紙を取り出し始めた。ロークは一足先に名前を書き始め、その後シルヴィと呼ばれた少女もそれに倣って書き始めた。

「どのみち避けては通れないということか・・・」

そういうと、ペンをとり、自分の名前を書き始めた。

「あともう二人誘う予定だ。それまでは待っていてくれ。」

       

 ***


「まさかお前と組むことになるとはな。」

 次の日、ラウンジに集まると、幼馴染の生まれながらに“穢れ”を持ち、1~2本の角を持つ人間—ナイトメア—、ギルことギルバートがいた。その隣には相棒の直立した小型ドラゴンのような形をした種族—リルドラケン—、クライドの姿もあった。

「相変わらず、ライバル視か?ギル。」

「今日からは仲間だ。争う気はねーよ。」

 そういうと、テーブルに置いてあったエールに口を付けた。

「またこんな朝っぱらから飲んで・・・早死してもしらないよ。」

「うるせー。俺は酒には強いほうだよ。」

 この世界の人間での成人年齢は15歳である。ただこんな時間から飲むのは・・・と思ってしまったレオであった。

「ていうか同い年なんだ・・・」

「ん?てことはお前も・・・」

「あ、自己紹介これからだったね。私はシルヴィア・ソーウェル、よろしくね!」

 そういうと右手を差し出した。

「おお、よろしくな。」

 そういって握手に応じた。

「改めて、俺は“黒血の狂戦士”ギルバートことギルだ。こっちは“鉄壁竜”クライドだ。お前はなんていうんだ?レオがいう話を聞かないやつ。」

 そういうと、ジョッキを置き、顔をそちらにむけた。

「ロークと申します。それに話を聞いていないわけではありませんよ?」

 そういうと、この場にいる全員に手にしていた紙を掲げた。

「さぁ、このメンバーによる初依頼ですよ。」

     

   ***


「依頼内容は最近サルワードの森で行方不明になっている人々の捜索と原因解明です。」

 地図を見ながら、ロークはそういった。サルワードの森はスピルビア王国から見て南に存在し、その先にはルクスローク王国が存在する。貿易も盛んに行っているのだが、ここしばらくは連絡がとれていないらしい。そこで、国の中で稀有の戦力の存在になったレオ達が現地に向かうことになったのだ。

「それにしても不気味だね・・・いつもなら多少日の光がでているから明るいんだけどさ・・・今霧でよく見えないし・・・」

 シルヴィアは気味悪そうにあたりを見渡した。

「なんだ?怖気づいたのか?」

「べっつに~。思ったことを言っただけです~。」

ギルバートのからかいにシルヴィアが理解した上で返答した。少しずつ仲がよくなってきている。

―しかしー

「・・・・・・・。」

レオだけが浮かない顔をしていた。

(何してるんだろうな、俺。)

 そうずっと彼は考えていた。実のところレオはもうパーティを組みたくなかった。それどころか冒険者もやめようかと考えていたのだ。その場合は仕立て屋として生活し、しばらくはそれで食つなぐつもりだった。しかし彼は人の頼みを断れない性質で、今回も巻き込まれる形でついてきてしまった。

(もう俺は、信じたくない・・・だからみんなの求めていることはできない・・・)

 そんなことを考えていると—

「さっそくおでましだな。」

 クライドがいう先には、大柄な熊が4体迫ってきた。

「・・・グリズリーか。悪く思わないでね。」

「おや無慈悲。」

 シルヴィアの一言にロークはわざとらしく体をすくめた。

「では・・・」

 そう軽く微笑むとグリズリーの目の前まで接近し、銃口を向けた。次の瞬間―

「マギスフィア起動。コードロード:【クリティカルバレット】」

 そう言い放ち、グリズリー一体に致命傷を与えた。そのまま雄たけびを上げる間もなく同じことを繰り返し、息の根を止めた。

 残りの3体が襲おうとしてきたが、すかさずクライドがブロックし、手持ちのヘビーメイスで反撃した。しかし、決定打を与えることが出来ず、グリズリーに苦しみの表情が浮かんだ。すかさずギルバートがクーゼで攻撃し、落とした。

「おや見事な連係プレー♪」

 そうロークが褒めている横でレオとシルヴィアが残りのグリズリーと対峙していた。

「【アヴェンジャー】」

 そういうと、自らを呪い、その呪いを写し取り、ダメージを与えた。そしてそのままレイピアで首を切り落とした。

 レオはレオで、仕留めることはできていたが、本人的にはあまり満足のいく結果ではないようでしわい表情をしていた。

 その様子を見ていたギルバートは訝しげにそんなレオを見つめていた。

      

   ***


「お前、魔神使いだったんだな。」

剥ぎ取りが終わったころ、クライドがシルヴィアに対して何気なくそういった。

「だったら何?一緒にはやってらんないって?」

 そういってしまったあと、きつく言ってしまったと後悔した。魔神使いは忌避される傾向にあるため、警戒しているのだが、それでも言いすぎてしまったと思えた。

「別にそんなつもりはねぇよ。疑わせちまって悪かったな。」

 そういうと軽く、シルヴィアの頭をたたき、そのままギルバートのもとに向かった。

「たぶんここにいる人はそんなこと誰も気にしないと思うよ。」

驚いて顔を向けた先にはレオが先ほどまで使っていたフランベルジュを磨いていた。

「俺もだけどさ・・・君はそんなことをする人じゃないと思うから。」

「どうしてそう思うの?」

「ライゴウが紹介した人だから。ここにいる人たちはみんなライゴウさんに世話になっているからさ。ギルは家でして家がなくなった後、冒険者として育て上げてもらった。クライドは冤罪を着せられて監禁されていたところを助けられた。ロークも何度も就職先を見つけてもらっているし・・・そういう俺も、命を助けられた。だからみんな信用しているんだ。」

 黙って話を聞いていたがやがて少し微笑んで、

「ありがとう。なら期待以上の成果上げなくちゃね。」

といった。

「改めてよろしくね!“蒼瞳の獅子”さん。」

 そういって右手を差し出した。

「・・・正直、俺はこの冒険が終わったらやっぱり断ろうと思ってるんだ。だから答えることはできない。」

「・・・それは前のパーティでの失敗が理由?」

「・・・他に何がある?」







 そういった途端、パァァァンとシルヴィアに頬を叩かれた。





「そんなんでいいの?!その前の仲間はそれを望んでいるの?!あなたは本当にそれでも神官のはしくれなの?!」

 先ほどのセリフを言った人間とは思えない言葉にシルヴィアは思わず激昂してしまった。

「俺はもう神を信じられない。だからもう神聖魔法を使うことが出来ない。そんなやつはもうこの場にはいらないだろう!」

 そう言って今までの憤りをぶちまけてしまった。しまったと後悔したが、そのときにはもう遅かった。

「舐めたこと言ってんじゃねぇ!!レオ!俺はそんな奴に何度も負けた覚えはねぇぞ!」

 そう怒声を飛ばしながらギルバートがレオに近づき、胸ぐらを掴んだ。

「関係ないだろギルには!」

「なんだと」

「ちょっ」

 殴り合いが始まってしまい、流石にシルヴィアが止めに入ろうとしたが、クライドに止められた。

「放っておいてやれ。あいつにも言いたいことがあるし、俺も少なからず言いたいことがあったから、逆にその分も個人的には上乗せしているつもりだ。」

「そう・・・」

 しばらくカオスな場面を見ていた二人だったが、ポツリとシルヴィアが言った。

「私はレオがこのパーティにいてほしい。ちゃんと自分の本心に向き合ってほしい。」

「なら気づいてもらわないといけませんね。」

 振り向くと、ロークが木に寄りかかっていた。

「しかしあなたも優しいですね。“紫怨の魔女”さん」

「なんだ、知ってたんだ。」

そういうと少し警戒した目に変わった。

「ご安心を。私も争う気はございませんよ。まずは、レオに本当の気持ちを気づいてもらいましょう。」

 そういって殴り合いを続ける二人を見つめるのであった。

  

      ***


 出発するころには日付が変わっており、さらに言えば、日が昇っていた。もっとも霧でよくはみえないが。

「やっぱ男のノリはついていけないや。」

「安心してください。私もついていけませんよ。」

 そうシルヴィアとロークが会話している後ろでレオとギルバートが気まずい空気をかもし出していた。

「ね?仲直りできたの?」

 そうシルヴィアがレオに聞いたが、彼は黙って首を横に振った。

 またしばらく無言の時間ができたが、遺跡の近くまで来ると、異変に感じた。なにかじわじわと何かがむしばんでいく気がした。

気がつくとレオは一人、前のパーティが全滅した場にいた。

・・・いや一人ではなかった前のパーティの死体たちがいた。

「なんで見捨てたんだ。」

「お前がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかった。」

―ちがう。みんなはそんなことは言わない。―

「俺のせいじゃないんだ・・・俺の・・・」

そのとき、

「甘ったれてんじゃねぇぞ」

 そう脳内にギルバートの声が響き渡った。

「一人で抱え込みすぎちゃ駄目だよ」



 またどこからか違う声がした気がした。








それもよく聞いたことがある、アルトの声だった。





「大丈夫、そんなに心配しないで。レオはもう——一人じゃないよ」







——あぁ、そうかそういうことか——






 その瞬間、レオは理解した。自分が欲しかった本当のものが。本当はどうすべきかが。


——次の瞬間―—


「起きろレオ!死にてぇのか!」

 ギルバートの怒声のおかげで、完全に覚醒したレオは状況を確認した。

周りをみると、クライドとシルヴィアが倒れており、ロークとギルバートが必死に攻撃を防いでいた。

「おい!起きたんならこいつをなんとかしてくれ!」

レオにはもう迷いがなかった。すぐさまフランベルジュを抜き、近くのコケを切った。その後すぐさま——

「【キュア・ハート】」

そう詠唱し、ギルバートの傷を癒した。

 しかし、安心する間もなく、何やら全体に胞子が広がった。その途端、体が急に重くなった。

(毒か)

 レオはそう思うと少し距離を取った。そのころにはシルヴィアとクライドも意識が回復しており、後方に下がっていた。

「こいつ、遺跡などに生息する、グリーンセメタリ―っていう植物。確か炎に弱かったはず。」

シルヴィアの解説が終わるや否やー

 「では、皆さんお下がりください。マギスフィア起動。コードロード:【グレネード】」

そう唱えると、ロークは、懐からマギスフィア(小)を取り出し、グリーンセメタリ―に向かって放り投げた。次の瞬間、苔は炎に包まれ、燃え尽きるのであった。

      

  ***



「やっぱり原因はグリーンセメタリ―みたいだね。」

 レオがあたりを見渡しながらそういった。周囲には無惨にも行商や冒険者などが死体になってころがっていた。レオ達は丁重に死体を並べ、弔った。

「・・・信じられないんじゃなかったのか?」

 祈りながらギルバートはレオに問いかけた。

「・・・幻覚を見せられた時に気づくことが出来たんだ。本当に俺がしたかったこと。」

「そうか。」

「ギル、ありがとう」

「みずくせぇよ。長い付き合いになるんだからよ」

それを聞き、レオは何か救われた気がした。

「一緒にいて、いいの?」

「そんなの当たり前でしょ!」

シルヴィアの屈託のない笑みに同意するようにクライドがうなずいた。

「さて、初任務も無事終了しますし、パーっと飲みましょう!」

そういって、レオの背中をたたき、歩き出した。

「レオ、いこ!」

そういってシルヴィアはレオの手を引っ張った。



もう彼の顔には迷いがなく、決意の表情だった。




















***






 レオ達が隣町に着くころ、フードを被った一人の男がレオをを見下ろしていた。


「————あれが、かの忌み子ですか・・・・・・今はまだ、何も知らないようですが、果たして彼の未来はどうなるのでしょうか・・・・・・今からでも楽しみになってきましたよ。まあ、じきに会いましょう、レオ・ラザフォード」


彼は細く微笑むと、また森の中へと消えていくのであった・・・・・・




ステータス

レオ・ラザフォード 人間 男 16歳

起用度:18

敏捷度:16

筋力:26

生命力:22

知力:20

精神力:24

技能:ファイター7

   プリースト(アーデニ)6

   ウォーリーダー1

   セージ1

戦闘特技:≪魔力撃≫≪魔法拡大/数≫≪マルチアクション≫≪武器習熟A/ソード≫

武器:フランベルジュ+1

防具:プレートアーマー、タワーシールド

装飾品:聖印、軍師微章

所持金11000G






次回予告

シルヴィア「始まりました!記念すべき第一話を見てくれている皆様に感謝します!」

クライド「今後も連載予定だから、気長に待っていてくれ。多分不定期更新だ。」

ギルバート「メタいこというなよ!」

レオ「いやでも、作者事情で連載されないのはよくある話じゃん。」

ギルバート「だからメタいって。よし終わりにしよう。ロークしめてくれ。」

ローク「次回、空蝉の冒険譚。最終回!」

ギルバート「いや続くから!第2話人を憎む者。お楽しみに!」

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