28.強者

 放課後になった。

 授業中、九条は意外にも真面目に授業を受けていた。休憩時間の度に俺に干渉はしてきたが、授業は真面目に受けるスタイルのようだ。

 俺は部活に向かう為、姫宮と黒川と一緒に部室に向かっていた。


「で、なんで九条もついてきてるんだ」

「私も真様の入っている部活に興味がありまして」

「そう言われたら断れないな」

「いいじゃん、真。こんな可愛い子が入ってくれるなら先輩もきっと大歓迎だよ」


 姫宮が九条を見て言う。

 黒川は一歩引いたところで九条を観察しているが、自分から声を掛ける様子はない。


「ありがとうございます。姫宮さん」

「私たちとも仲良くしてね、九条さん」

「勿論です。よろしくお願いしますね、姫宮さん、黒川さん」

「ええ」


 黒川は人見知りを発揮しているのか、歯切れが悪い。九条と目を合わせようとせず、どこか引いている様子だ。


「ところで真様の入っている部活はどんな部活なのですか?」

「簡潔に言うと遊ぶ部だ」

「遊ぶ……ふふ、おもしろそうですね。私、真様とたくさん遊びたいです」

「九条さん、本当に真のこと好きなんだね」

「ええ、もちろん。でなければ転入してきません」

「凄い行動力ね。私に好きな人がいてもそこまでの行動力はないわ」


 黙っていた黒川が発言する。流石に無言を貫くのは悪いと思ったのか、会話に入ってくる。


「使えるものは使うべきかなというのが私の信条です。力を持っているのに使わないのは馬鹿のやることです」


 金の力を使えるだけ使って今回の転入を実現させたのだろう。マンガの世界とはいえ、お嬢様はやることがぶっ飛んでる。

 マンガでも真と付き合っていた時に、金の力を使って真を引き留めていた。それにたかる真が読者からクズ呼ばわりされていて、正直俺もそっち側だった。だが、いざ真に転生してみれば俺自身の問題なわけで。九条とそんな関係を築くことは俺のプライドに懸けて許さない。


「ふーん、私も真が好きなんだけど振られちゃったんだよね」

「姫宮さんもなんですか。これは恋敵というやつでしょうか。姫宮さんも諦める気はないのでしょう」

「そうだね。そんなに脈無しではないと思ってるよ」


 姫宮がウインクしてくる。確かに俺は姫宮のことを意識してはいる。それを見抜かれているようで少し気恥ずかしい。黒川に対しても同様だ。九条に対してはまだそこまでの意識はない。


「なるほど。では私は相当頑張らなければなりませんね」


 九条が不敵に笑う。未来で真を刺す可能性の高い九条だけは好きになるまい。九条がいったい何を企んでいるのか、俺には皆目見当もつかない。


「黒川さんはどうなの? 真と仲いいみたいだけど。好きになっちゃったりしない」


 いきなり話を振られた黒川は立ち止まり硬直した。表情こそ変わらないが手がせわしなく動いているのが目に付く。


「私は、鈴木くんとは仲のいいクラスメイトって感じよ。恋愛感情はないわ」


 本当か嘘か。黒川の本音は読み取れない。


「あのなぁ。俺のいる前でそういう話はやめてくれよ」

「あはは、ごめんごめん。優柔不断な真くんのお尻を叩いてあげようかと思って」


 姫宮は笑いながらそう言っているが、本音なんだろう。

 確かに俺は姫宮と黒川で揺れている。優柔不断と謗られるのも仕方のないことだと思う。傍から見ればそう見えるだろう。だが、死と向き合うというのはとても勇気のいることなのだ。ただでさえ、俺は一度死んだ身だ。その俺だからこそ、あんな体験はできればもう二度としたくない。この世界で死んだら今度こそ本当にゲームオーバーかもしれないのだ。そう簡単に割り切れることではない。

 俺が勇気を出して、彼女たちと向き合った時、俺はいったいどちらを選ぶのか。


「着いたよ。ここがレク部の部室」


 姫宮が引き戸を開けて、九条を中へと向かい入れる。


「待ってたよ、みんな。おや、その子は?」


 折本先輩が目ざとく九条を見つけて聞いてくる。


「入部希望者です」

「おーそれは僥倖だね。誰かが勧誘してくれたのかな?」

「いいえ、真がいるから入るらしいです」

「おーそいつは鈴木くん、君も隅に置けないねえ」


 折本先輩が俺の脇腹を肘で小突く。


「初めまして、九条くじょうみやこといいます。よろしくお願いします、部長さん」

「私は折本栞。この部の部長だよ。よろしく」


 入部届を手渡された九条はすぐにペンを走らせて入部届を提出した。


「それじゃ今日は何する?」

「各自自由にやりたいやつをやりませんか?」

「それは私は真様と遊びたいです」

「今日は初めてだからね。真の相手は譲ってあげよう」


 姫宮と九条で話が出来上がっていた。

 というわけで俺は九条と遊ぶことになった。選んだのはオセロ。単純明快なゲームだ。


「九条、俺はオセロには自信があるんだ。手加減してやろうか」

「いりません。普通に勝負してください。手を抜かれるのは屈辱です」

「わかった」


 そんな感じでオセロがスタートする。

 そして結果、


「馬鹿な……」


 四隅を九条の黒が全て押さえ、俺の敗北が決定する。

 ていうか九条、めちゃくちゃ強くないか。最初から最後まで俺は完封されてしまった。俺もオセロには自信があったが、その俺が全く歯がたたなかった。


「私の勝ちですね、真様」

「悔しいが完敗だ」

「凄い」


 観戦していた姫宮が感嘆の声を漏らす。この部で俺はオセロが一番強かった。その俺をいともたやすく退けたのだ。驚きもするだろう。


「よし、次は将棋で勝負だ」

「かまいませんよ」


 ゲーマーとして負けたままでは引き下がれない。俺はかなり頭を使うゲーム、将棋を提案する。そして結果はやはり俺の敗北で終わった。


「強すぎる……」


 時間を使って手を考える俺に対し、九条はほぼ即断で打ってきた。ほどなくして俺が投了するという結末に終わった。九条のやつ、ゲームめちゃくちゃ強いじゃないか。


「九条ってゲームが得意なのか」

「いいえ、この程度は普通だと思いますが」

「普通じゃないよ。自分で言うのもなんだが、俺はゲームに関してはそこそこ自信がある。その俺が手も足も出ないんだ。相当強いよ」

「強いかどうかはわかりませんが、真様に褒めてもらえるのは気分がいいですね」


 九条が微笑んで俺を見る。九条にこんな特技があったなんてマンガを読んでいた頃は気付かなかったな。九条の新しい一面を知った部活はその後も続けられ、俺の全戦全敗で終わった。


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