第44話『友人との不毛な議論と、その後の気づき』

 7月から、毎週土曜日午後16時頃待ち合わせで、大阪の親友とバンド活動をしている。親友は、現在47歳の私が、18歳でマスコミ系専門学校で出会った。学年も年齢も1歳年上で、音楽ができ、僕より筆が立ち、友情に厚い。


 そこで、時代劇の脚本家の師匠と出会い、卒業してから2人ともに弟子になった。弟子になってから、15年ほど、毎週末、週に1冊、戯曲やシナリオを読んで(一冊に、10本は載っている)、師匠に口頭で、簡単なストーリーとテーマ。ハコを書いて見せるんじゃなくて、やはり、口頭で、記憶と組み立てながら話す。


 そんな過酷な修業時代、苦楽を、いや、ほとんど苦しみの連続だったから、現在でも、一番の理解者であり、一番ボクの作品に厳しい。



「今、ハロウィンに向けて短編書こうとしとんねん。『USJに楽しみに行った男が、たまたま、家族と来ていた刑事に犯人に間違われ大変な目に会うコメディー』とストーリーを簡単に言うと、


 顎に手を当ててt、「つまらん! 遊園地が有りがち」と、バッサリ、「ほんなら、どこを舞台にすんねの」と言うと、「お前の好きな、橋本忍さんの『羅生門』でええやろ」と代案までくれる。


「うん、確かに、その方が面白そうだ」と、素直に納得した。(オイラ、自分のアイデアに固執しないタイプなの良い代案があれば、手がける前なら結構素直に受け入れる)



 そんな友人関係なのだが、今日は、僕が間違った話題を振ってしまった。


 どんな、親友関係であっても、完全に意見や思想が同じことなどありえない。僕は、真言宗と浄土真宗と神道、ニーチェを都合よくミックスしたような思想で、親友は創価学会。でも彼は、頭も上で懐が深くて、僕のアホさと欠点も受容してくれている有難い人物だ。


 今日は、思想と言うか考え方の差異によって、バンド活動そっちのけで、議論してしまった。


 2時間のスタジオレンタル時間で、始めの30分は久しぶりにドラムも叩いたが、残る1時間30分は、芸術・政治・経済について不毛な議論をしてしまった。



 例えば、僕が10万字の原稿を書くのに必要所用時間を例にとると、2000字書くのに3時間かかる。最低時給は1200円だから、×3。1話3600円、10万字だと書くだけで50日かかる。さらに、中身の人物の掘り下げ、世界観の構築、モンスターや魔法などの資料代で、参考書籍を集めるのに、2週間、参考書籍に3万円必要。



 さらに、推敲、リライト、などあるとすれば、6か月はかかる。まあ、単純に1日1万円として、×30×6で、180万が相場だろうと、僕が友人にぼやくと、友人は真逆の反応をした。


「売れるか売れんかわからん作品に5万円の値をつけてくれるだけそれだけでエエんちゃうの?」


 ここで、僕と、友人の考えがぶつかった。



 僕は、「著作権を放棄する自分が書きたくもないゴーストライターの仕事、最低時給は保証して然るべき」と考えるが、友人は、「売れるか売れんもんかわからん作品に値段がついただけでもエエのんちゃうの芸術ってそんなもんやで」


 と、意見が分かれた。僕的には、職人仕事だから、それなりの対価は当然と考えるが、友人は、「あくまで芸術作品の値段を決めるのは、買い手と客、それが民主主義。お前、ちょっと左寄りやで」


 この友人の僕が左寄り発言に、反発した。「今度の総選挙の、自民党の総裁選候補支持は、僕は、青山繁晴で、高市早苗、積極財政派、超保守を押している」から、友人の左寄り発言に反論した。


「いやいや、最低賃金を割るような仕事をやっちゃう人間が居るから、いつまでも、日本は、月給が上がらんのやで」と持論を展開すると、友人は、「オレは決して裕福ではないけど今の収入もそれなりに満足している」と意見が真っ向対立した。


 もう、こうなれば、バンド活動より、政治経済の議論に注力してしまった。



 僕の見解では、上場企業は、バブルが弾けた時代より儲かっている。企業が払う気があれば、給料は上がる。それを、泣き寝入りしている労働者マインドに便乗して、企業が足元を見ているのだ。しかし、友人は、日本企業は儲かっていないと言う。理由は、30年の不況が物語っている、儲かっていない企業が給料払える訳ないやろ」と意見は、真っ向対立となった


 いやいやいや、上場するよな、企業は、3期に1回黒字にすれば、税金を免除されるルールがある。その後5年だかは、税金免除の特例がある(うろ憶えの記憶で申しわけない)それを巧みに利用しているから、大企業が体力がないわけではない。本来は、賃金を上げて当たり前だと、自論を展開した。


 人件費は、固定費だから、賃金を上げたら企業が潰れると友人は懸念を示すが、そんなことはない。日本は世界GDP4位の国だ。日本人の平均時給は安すぎるのも海外比較や、円安で明らかだ。友人は、何らかの情報が頭の片隅にあって、納得しない。


 地方公共団体は、赤字破綻はあるが、国は国際信用力がある。海外で売れる商品があれば、国際信用力が担保されるレベルであれば、国債を発行しても大丈夫である。積極財政の高市早苗さんや、青山繁晴氏を推している僕の方がむしろ保守で、ここでは、友人の方が泣き寝入りの左寄りに感じた。



 でもさ、こんな、政治経済で、対立して、せっかくの友人との貴重な時間を、不毛な議論で終わらした。自分を恥じた。


 僕と友人が、バンドを始めたのは、同世代や、若い世代を、オッサンが楽しんで、応援歌歌ってるよ。が始まり。


 ただでさえ、世知辛い世の中なのに、1票しか持っていない人間が、真剣に政治経済を議論したところで、相手を論破したところでしかたない。しかも、相手は唯一の理解者の友人だ。




 帰宅後、LINEで、今日のことを詫びた。僕が、意固地に、自論に固執していたのが恥ずかしく、「今日は、せっかく時間を作ってくれたのに、不毛な時間にしてしまって申し訳なかった」と詫びると、友人は、「それは、お前の癖みたいなもんで、承知してるから気にするな。なんとも、思っていない」と、返信が返って来た。


 と、返信が返って来た。



 ありがたい。言葉だ、僕は、33歳の頃、精神の病気を患い金銭的にも困窮した時、家族も身近な友人も誰も助けてくれなかった時に、親友がタイミングよく、向こうから電話をくれて、僕の落ち込みを察知して、僕の地元に来て、「返さんでエエから少ないけどこの10万円好きに使え」と用立ててくれた。


 バンドメンバーのもう一人と、僕のためには、親友は、いつでも一肌脱ぐ準備をしてると、心強い言葉を今日の別れ際にも言ってくれた。


 僕が、こうして、今も文字を綴るのは、友人が助けてくれたから、僕は、バカだから、失礼なことも言うけど。友人には一生頭があがらない。


 こんなありがたい友人との時間は、自分でコントロールする訳じゃない政治経済の不毛な会話ではなく、もっと、良い小説・脚本・バンド活動に全力を向けようと心に決めた。いつも、未熟な僕を応援してくれてありがとう。必ず、世に出るぞ!






〈了〉


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