イレギュラー過ぎる異世界転生(中)

 刻雨は扉の先を見た瞬間に絶望した。なんと、1面真っ黄色な砂漠なのだ。その光景はまさに、地獄そのものだった。


「……なんで?」


「うぅ……」


「ねぇ、なんで目をそらすの?」


「……」


「君はこの状況を理解してないようだ。そんな君には体で教える必要があるみたいだね。とりあえずスコップを俺に渡してもらうか。穴を掘ってやるから裸でその中に詰め込んでやる」


「ごめんなさい!!!と、扉の出口を指定するのを忘れてました!」


 刻雨はその言葉を聞いた瞬間にリータに向けて軽蔑の眼差しを向け始めた。そして、とてつもないほどの殺気を放ち始める。


「……ま、誰にでも失敗はあるよな。もしかしたら俺のせいかもしれないからな。今度からは気をちゅけましょうね〜ばぶばぶ〜」


 刻雨はそう言ってリータを赤ちゃんのように扱う。リータは少し怒ったが、この現状を招いたのは全てリータなので怒るに怒れなくなり顔を真っ赤にして俯く。


「あれれ〜?歩けないのかなぁ〜?そうか、仕方ない仕方ない。リータちゃんは歩けないようでちゅね〜。特別におんぶちまちょ〜ね〜」


 刻雨は更に追い打ちをかける。そして、頭を撫でながらニヤニヤと笑う。


「あ、そうだ。砂漠だし魔法の練習でもしよ。”創造魔法そうぞうまほう・クリエイション”」


 その瞬間、砂漠の砂が刻雨の手のひらに集まっていく。そして、おしゃぶりが出来た。


 どうやら創造魔法はこの世界に存在するものの情報を別のものに変える魔法らしい。だが、変換できるのは等価交換で、大きさや量などを合わせなければならないようだ。


「これいるか?」


「なんでそんなの作ったのですか?」


「多分俺の意識が反映されたのだと思う。俺が魔法を唱えていた時に強く考えていたものがこれだったからこれが作られたんだ」


「よくそこまでわかったね。でも、そのおしゃぶりはいらないよ」


「よしわかった。もしかしたら何かあるかもだから一応取っておこう」


「そんなもの何に使うの?」


「さぁ?分からん。ただ、この情報は書き換えられるんだ。何かあったらこの情報を書き換えて武器に出来るだろ?」


「なるほど!あったまいい!!」


 リータはそう言って顔を明るくする。刻雨はそんなリータを見ながら少しだけ笑った。


「とは言え、早くこの状況をどうにかしないといけない。とりあえず歩くぞ」


 刻雨はそう言って歩き出した。リータはその後を追い始めた。


 ……そして、今……


 あれから3時間ほど歩き続けたが全くと言っていいほど街は見えてこない。ましてや、オアシスすらも見えない。見たところこの近くにはワジは見えないから恐らくどこかで雨が降ろうともここに水が流れてくることは無い。よって、ここには水は絶対にないことが証明される。


「……なぁ、リータは転移魔法か何か使えないのか?」


「え?無いですよ。私達神にだって刻雨さんと同じように得意不得意があるのですよ。そもそも、私は元人間ですよ?ちなみに得意魔法は封印魔法です!」


 刻雨はその言葉を聞いた瞬間呆れて言葉を失ってしまった。そして、なんとも言えない眼差しでリータを見つめる。すると、リータは少し気まずそうにしながら言ってきた。


「お、怒らない?」


「うん。怒らないよ。呆れてるだけ。……はぁ、ほんとまじイレギュラー過ぎるわ。転生したら砂漠だし、女神連れて来たら何も使えないし、いい加減にしろよ」


「う……ご最もでございます……。で、ですが私はどれだけ貶されても負けませんよ!私ってば、そう言うの意外と嫌いじゃないんですよ!」


「ほぉ、なるほど、お前はドMか。そうか。じゃあドSの俺とは相性が最高だな。ちょうど想像魔法を手に入れたんだ。日本にいた時にそっち系の漫画を読んで培った知識の中から1つ作ってやろう。俺的には、お前の背中側の恥ずかしいところからゼリーを腹いっぱいにぶち込むのが1番好きだよ」


「ひ、ひぃ!や、やめてくらしゃい!何でもしますから!」


「冗談だよ。多分これ以上ここにいても何も出来ないから賭けに出るぞ」


「賭け?ですか?」


「そうだ。俺の想像魔法で転移魔法を使う。出来るかわからんしどこに出るか分からんけど良いだろ?」


「はい!」


 リータはそう言って刻雨の手を握る。刻雨はそんなリータを見ながらニヤリと笑って魔法を唱えた。


 その刹那、2人の体はこの世界に転生した時に通った空間に似た場所へと飛ばされ、そしてその空間は一瞬で終わり違う場所に出た。


「お、成功した」


「そうですね。ですがここはどこでしょう?」


「さぁ?周りを見たら分かるんじゃないのか?」


 刻雨はそう言って周りを見つめる。すると、あることが分かった。そう、2人が転移したのは魔王城に行く前に立ち寄る街だった。


「とんでもないところに来たな。絶対ラスボス前やん。だって、この街普通にモンスターおるし空がおかしいもん」


「ほんとそうですね。これであと”1日”で倒せば勝ちですね」


「……え?」


 刻雨はリータの言葉に少し反応する。そして、今の言葉のおかしな点を指摘した。


「1日?6日の間違いだろ?」


「あ、いえ、1週間というのは6日前に言われたことなので、あと1日です。正確にはあと22時間程度です」


 リータは楽観的にそう言ってきた。刻雨はそんなリータを見て少しだけため息を着くと言った。


「もう無理やん。それは無理ゲーや。諦めよ?」


 その言葉を聞いた瞬間リータは涙目になった。

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