イレギュラーな異世界転生Re:make

五三竜

イレギュラー過ぎる異世界転生(上)

「……暑い……」


 彼は小さく呟いた。そして、何かを考えることも無くただひたすらに歩き続ける。その先には何も無い。変わることの無い景色が続くだけだ。


 空からは容赦なく太陽の光が彼を襲い、彼に当たらなかった陽の光は永遠に広がる砂漠でてり返され、結局彼を襲う。


「なんで砂漠スタートだよ……。普通街とか村とか、建造物がある場所でかつ過ごしやすい場所だろ……」


 彼はそう言ってこんな状況を作った人を恨む。そもそも、何故こんな状況になったのだろうか。それは、3時間前に起こった出来事が原因だ。


 時を遡ること3時間前……彼はいつも通りコンビニでおにぎりを買っていた。時刻は15時とまだ外も明るい。店の中には子供が数人程度いて、お菓子を選んでいる。


「……ったく、なんで俺がこんなもの買わなきゃならねえんだよ。久しぶりの休みの日で、しかも滅多に遊べない友達と遊んでいるのに、突然おにぎり買ってこいとかやってるな」


 彼はそう言っておにぎりを購入し店を出る。そして、自転車の鍵を取りだして乗ろうとした時、それは起こった。


 なんと、突如彼の目の前に男が現れたのだ。その男の右手には包丁、左手には包丁の形をしたダンボールが握られている。


 彼はその男をみて咄嗟に逃げようとした。しかし、逃げるまもなくその男に心臓を刺されてしまう。


「「「キャー!!!」」」


 店の中から悲鳴が聞こえた。恐らく店員の悲鳴だろう。彼は消えゆく意識の中その男の顔を見た。とてつもなくとぼけた顔をしている。そして、目が据わっていた。その様子からこの男が薬物中毒者だとすぐに分かる。


 彼はそんな薬物中毒者の男を睨みながらその命の灯火を消した。


 と、思っていた。だがそれは思っていただけだ。何故か彼は目を覚ます。そして、目を覚ますと知らない空間にいる。


 周りは見たこともない形状の時計が浮かんでおり、明らかに自分が生きていた世界とは異なっていると分かった。


「っ!?どこだ!?」


 彼は慌てて起き上がると周りを何度も見渡す。しかし、そこにここがどこかわかるようなヒントは無い。強いて言えば、目の前にタオル一枚で水浸しの女性が頬をふくらませながら座っていると言うだけだ。


「……あ、あなたは?」


「私ですか!?私は女神です!もぅ!あなたが突然死ぬから慌ててきたんですからね!お風呂に入ってたのに……」


 女神と名乗る女性はそう言って彼に愚痴る。彼はその女性を見た。その女性の姿はこの世で1度も見た事がないくらい美しい。世界一のモデルと言われても分からないくらいだ。


 そして、胸も大きいし痩せてる。そして何より、彼が大好きなお尻が大きく形が綺麗だ。弾力がありそうで触ったら気持ちよさそうだ。


「あ、今エロい事考えましたね。許しませんよ」


「あ、はい。すみません。てか、ここどこですか?」


「ここは死後の世界よ。あなたは今日本の地球と呼ばれる世界で死にました。だから、意識だけこの精神世界に来たのよ。こうなったらあなたには5つ選択肢があるわ。まず1つ目が、輪廻転生して再び地球で新しい生活を始める。2つ目が、天国でゆっくり過ごす。3つ目が地獄に行く。この3つを選ぶと資格を取れば私みたいに女神とか神とかそういう役職につけるわよ。で、4つ目が冥界に行く。この冥界に行くと何も出来ないけど自由よ。だから、何も考えたくない人とかがそっちに行くわ。そして最後が、あなたのその体をそのまま転生させて向こうの世界で新しく生きるというものよ。あなたの世界で言うところの、異世界転生よ。名前とか姿形、性格、その他諸々のあなたの情報は何も変わらないわ。私的にはこの異世界転生を選んで欲しいの。だから当然異世界転生するよね?」


「え?いや、なんでそんなにオススメするのですか?」


「え?それは秘密よ」


「あ、じゃあ天国行きたいです。天国行って神になってあなたに告白します」


「え!?お、お願いだから異世界転生を選んで!神になるの大変だから!ね!?ね!?」


「いや、だって何でそこまでオススメするのか教えてくれないじゃないですか。異世界に行ったらもしかしたら追放とか奴隷とか嫌なことあるかもしれないでしょ?」


「うぅ……ご最もでございます……。お、教えたら行ってくれる?」


「条件によります」


 彼はそう言った。すると、女神は顔をぱあっと明るくさせて教えてくる。


「あのね、前に私が送り込んだ日本人がね、何故かその異世界で魔王になっちゃったらしいのよ。そのせいで私に責任を押し付けられて、もしあと1週間でどうにか出来なかったら、女神の資格を剥奪される上に、全員の前で公開処刑されるの……!」


「……それで、死ぬのですか?」


「い、いえ、大衆の面前で1枚ずつ服を脱がされ、私の体の全てが見えるようにモニターに移されて、鞭で全身を叩かれるの……!その後も、1週間トイレをしては行けないとか、逆に1日3回浣腸をしなくちゃいけない生活を1週間続けるとか、精神的そして肉体的に苦痛を与えられる生活を1年間続けなくちゃならないの!」


 女神はそう言って彼に泣きながらすがりついた。そして、涙と全身に付着している水で彼をびしょびしょにしながら言う。


「お願いだから!チート能力とかなんでもあげるからぁ!」


「いや、じゃあなんであなたが何もしないのですか?それに、優雅にお風呂に入ってるし」


「え?だってめんどくさいじゃん」


「はい死刑。お前死刑な。もしくは俺が神達の前に先に罰を下す」


「ゆるじでぐらじゃあぁぁぁぁい!!!」


 彼は半ギレでそう言う。すると、女神は泣きながら土下座をした。彼はそんな女神を見てため息を着くと呆れながら言った。


「良いでしょう。今回は特別に行ってあげましょう。ですが条件があります」


「ふぇ!?何?」


「それは、まず俺があなたに対してタメ語を使っていいということ、2つ目が俺が異世界を救ったらあなたと結婚するということ、3つめがあなたも着いてくるということ、4つ目が俺が異世界を救ったらあなたに何でもしていいということです」


「何それ?下心満載ね。でも、私はあなたのこと初見だけど嫌いじゃないわ。結構タイプの人間よ。だからその条件を呑むわ」


「よし。じゃあ異世界に行ってやろう。それで、扉は?」


「切り替え早いわね……まぁいいわ。向こうに行く前にあなたに色んなものあげるわ」


「ん?何をだ?」


「ほら、よくあるチート能力よ。普段なら一つだけだけど、私の人生がかかってるから特別に3つ持って行って良いわよ」


「マジ?何でも?」


「本当ですわ」


 女神がそういった途端彼は楽しそうな顔をした。その瞬間女神は気がつく。彼は狂戦士バトルマニアだということに。


「あ、先に行っておきますけど、ステータスはあなたのステータスですわよ。だから、異世界に行ったから突然強くなるなんて言うバグは起こりませんわ」


「え?あ、それバクだったの?」


「……聞かないで欲しいです」


「……何となく察したから聞かないでおく。まぁ、俺はドSだからわざと聞くとかいうこともしていいけどね……」


 彼はサイコパスな顔をしてそんなことを言い出した。その笑みから恐怖しか感じられない。


「もぅ!そんなこと言ってないで早く選んでください!」


「へいへい。まぁ、もう選んだよ」


「あ、そうなのですね。何を選んだのですか?」


「1つ目は時間魔法じかんまほう、2つ目は創造魔法そうぞうまほう、3つ目は想像魔法そうぞうまほうだよ」


「あれ?同じものが2つ?」


「漢字が違う。あと効果もな」


「そうなのですね。まぁ、書類に書くので大丈夫ですよ。じゃあこの書類に書いて下さい」


 女神はそう言って紙とペンを持ってきた。


「いや、異世界転生に書類って、世界観ぶち壊しすぎだろ。アホか?」


「言い過ぎですよ!」


「悪い悪い」


 彼はそう言って紙にスラスラと自分の個人情報を記入していく。


「……あれ?電話番号とかいらないのか?」


「異世界で電話とか使えるわけないでしょ?」


「確かにな」


 彼はそう言って紙を女神に渡す。すると、女神はその紙に目を通して言った。


八神やつがみ刻雨こくう?変な名前ね」


「無礼だな。たま取るぞ」


「すみません!」


 刻雨がそう言うと女神はそう言って全力で頭を下げる。


「えっと、とりあえず扉を開けますね。あ、あと私の名前も言っておきます。私の名前はリータ。よろしくお願いします。様をつけてんでもいいです……よ……」


 リータは刻雨の顔を見て黙り込んで無言で土下座をする。


「おい、早く行くぞ。時間がないんだろ?あと1週間で異世界に行って魔王を討伐して世界を救わなければならないんだから」


「はい!そうですね!」


 リータはそう言って扉を開ける。


「……てか、いつからこんな扉あった?」


 刻雨はそんなことを呟いたが、どうやらリータには聞こえなかったらしい。刻雨が行くと言って気分がかなり高揚しているようだ。刻雨はそんなリータを見てその扉のをくぐった。その瞬間、自分の体が宙に浮く。そして、幻想的な空間をぬけながら空へと上がっていき、光の中へと入った。


「じゃあ行きますよ!」


 リータがそう言った時、突如下に落ち始める。そして、下にこの空間の出口のようなものが見えた。


 刻雨はそれを見てニヤリと笑う。そして、その出口に向かった。その時、リータが刻雨に向かって言う。


「てか、『失礼』じゃなくて『無礼』なんですね。ちょっとズレてると言うか、おかしいですね」


 その刹那、刻雨の手のひらがリータのお尻を全力で叩いていた。

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