溺れるように
灰雪あられ
第1話 帰り道
駅前の歌声に。ふと足が止まった。
『僕を見て。僕だけを見て。
溺れるように僕を愛して抱きしめて。
誰の特別にもなれやしない
いつもいつも
抱きしめてほしくてたまらない。
寂しさが虚しくなるだけなのに
愛して愛して
誰だって構わないから
特別に愛して欲しいの。
誰だって深く愛してみせるから?』
–あぁ、僕だけじゃないんだ。
おのずと口角が上がってしまった。
誰か、誰でもいい。
特別に愛して欲しい。
それだけで、どんな奴だったって愛してしまう自信がある。
おのずとため息をついてしまった。
なんでこんなに愛に飢えてるかな。
「よお!」
勢いよく肩を叩かれてよろけた。
イラっときたので、
「よお、久しぶり!」
と言って強く肩を叩き返した。
地味に痛い。
「この後ひま?ちょうど飲める奴探してたんだわ」
しかも、微塵も効いてない。
反撃損だ。
「別に暇じゃないけど付き合ってあげる」
「いやー忙しい遥さまと飲めるなんて光栄だわー」
「棒読みすぎるね。もっと気持ち込めて」
「そりゃ無理だわ。声掛けたら絶対ノってくるじゃん?」
イラっときたのでケツに蹴りをいれた。
「やんっ遥さまのエッチ!」
もっとイラっとした。
「なんで渉と友達なんだろ」
「そりゃ好きだからだろ」
「気でも狂ってんのかな、僕は」
「昔からおかしかったからな」
チッと舌打ちして睨みつける。
勝てない。
こんな適当な奴なのに、いっつも勝てない。
知らん間に恋人作ってるし。
「で、他に誰誘うの?」
「久しぶりだし、サシで飲みません?」
「……」
「やっぱビックリすると瞬きしかできなくなんのかわいいね」
覗き込んできた顔をはたく。
「要にちくるよ?」
「いやーフラれちった。慰めて?」
「……」
「やっぱ…イッタイっギブギブ降参!」
僕としたことが耳を引っ張る技を忘れてた。
「浮気バレたの?」
渉はニコッと笑った。
「…意外。今度は本命だと思ってた」
「3日で醒めちゃった」
「うわぁ…」
「続きは店で話そうぜ。マキんとこでいいだろ?」
「もちろん。歩き?」
「もちろん歩き」
なんかコイツと歩くと刺されそうだな、と思いつつマキのバーに向かった。
溺れるように 灰雪あられ @haiyukiarare
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