第24話 友との再会

 洋館への道を歩きながら、リゼットへの感謝の気持ちを抱いていた。

 魔王の影響があればどうなっていたか分からない。

 特殊なケースみたいなので、俺だけに起きたことならいいのだが。


「同じ魔法使いのミレーナなら、何か知っているかもしれない」


 洋館に戻ってから、リゼットについてたずねることにした。


 すでに何度か歩いた道を通って、洋館の中に入った。

 お昼時ということもあり、料理の匂いが漂っていた。

 廊下を通過していつもの部屋に入る。


「お疲れっす。見回りは終わったっすか?」


 料理を配膳中のルチアが声をかけてきた。

 大きな鍋にお玉を突っこんでいる。


「うん、ついさっき。サリオンは馬毛亭に行ったよ」


 酒を飲みに行ったと伝えたら、ルチアが悪態をつきそうなので、部分的にぼかしておいた。

 彼女と話していると椅子に内川が座っているのが見えた。


「……元気?」


「この前は悪かった。サリオンとの依頼は危険だったと聞いた」


「うんまあ、そうだね」


 気まずさはあるものの、普通に話せたことに安堵する。

 城の転移魔法陣で飛ばされた六人はおらず、身近にいるクラスメイトは内川だけだ。

 同じ世界の人間は貴重であり、友人である以上は良好な関係を維持したかった。


 とはいえ、まだ完全に修復できた感じでもない。

 話はそこまで弾まずにミレーナの姿を見つけて、彼女の近くの席に腰かけた。


「あの、少し話してもいい?」


「私に何か用?」


 特に警戒しているわけではないが、不思議そうな顔をしている。

 リゼットのことをミレーナにたずねたかった。


「魔法使いのリゼットって知ってる?」


「とても有名な人よ。魔法使いで知らない人はいない」


 スキル表示にあった「大魔法使い」は誇張ではないようだ。

 古城にあった鏡の状況を考えると昔の人のようだが、実際はどうなんだろう。


「有名なんだ。年齢は何歳ぐらい?」


「聞いたことないわ。実際に会ったという人を知らない。存命だとしても高齢のはず」


 リゼットもそうだったが、ミレーナも淡々とした口調で話している。

 魔法使いはみんなこうなんだろうか。


「カイトも食べるっすか?」


 ルチアが皿を持った状態で声をかけてきた。


「うん、俺もお願い」


「了解っす」


 ルチアは元気に言うと盛りつけを始めた。

 俺はミレーナに向き直って話を続ける。


「ここまで聞いた感じだと、リゼットに会うのは難しいってことだね」


「……会ってみたいの?」


「いや、すごい人なら興味があるなって」


 ミレーナは魔法使いでもない俺がリゼットに関心があることに疑問を抱いているようだ。

 この話題を深堀りしてしまうと、魔眼のことにも近づいてしまう。


「私も会ってみたい。けれど、情報が少ないから難しい」


「そうだよね。昔の人なら尚更」


 ミレーナが疑いを強めることがなく、ホッと胸をなで下ろす。

 話に区切りがついたところで、ルチアに食事の用意ができたと呼ばれた。


「教えてくれて、ありがとう」 


「リゼットについて何か分かったら教える」


 俺はミレーナの近くを離れて、食事が置かれた席に移動した。

 テーブルの上にはスープ皿が置かれており、中には煮こみ料理が入っている。


「今日はホロホロ鳥のトマト煮っす」


「へえ、美味しそう。いただきます」


 スプーンを手に取り、湯気の浮かぶ汁と具を口に運ぶ。

 しっかりと味つけされていて、見回りで疲れた身体が喜ぶような味わいだった。


 食事を終えてから、改めて内川と話しておこうと思った。

 リゼットに魔王の力を封印してもらったことだけは隠しておくつもりでいる。


「お前がサリオンと行動を共にする間、僕はルチアと一緒だった」


「それは知ってる」


「訓練には心の底から嫌気がさしたが、二人で街を巡回した時に情報が集められたのはよかった」


 ルチアとミレーナは席を外しており、部屋には二人だけの状況である。

 内密な話をしても誰かに聞かれる心配はない。


「俺はサリオンについていくのに必死で、そこまで役に立つ情報はないかな」


「そうか。最初に話しておきたいのは、少なくとも王国内には鑑定スキルが使える者はいないってことだ。僕らの能力が看破されることはない」


 重要な内容だけに内川は誇らしげな様子だった。

 

「それはいい情報だね。あまり目立ってもいけないし」


「もう一つ重要な情報がある」


「えっ、他にもあるの?」


「ウィニーが旅団として活動している理由が謎めいているから、可能な範囲で調べてみた」


 内川はのどを潤すようにティーカップに口をつけた。


「詳しいことはまだ分からないが、ウィニーとエリーはどこかの国から流れてきたことは間違いない。僕らのように非力な者を受け入れる一方で、ルチア、サリオン、ミレーナは明らかに実力者だ。目的があって戦力を集めている気がする」


「すごい、そこまで考えたんだ。俺はウィニーを気のいい人物としか思わなかったよ」


「悪人ではないはずだが、彼の目的が分かるまでは注意した方がいいかもしれない」


「分かった。様子を見るよ」


 現時点ではウィニーに不審な点は見当たらない。

 ギルドで声をかけてきたのも、登録できそうにないのを見計らっただけのはずだ。

 ただ、内川が言うように何らかの目的はあるような気もしてきた。

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