第20話 隠しておきたいこと
「依頼の内容は見回りだけなの?」
二人で洋館の外に出た後、サリオンにたずねた。
細かい質問は省略したが、そんな簡単な内容なのかと聞きたかった。
「冒険者は避けがちですが、見回りも大事なことです。野生動物の進入、劣化による危険の回避。あとは侵入者の有無を確認する役割があります」
「たしかにそれは大事だね」
「王都の外れですから、盲点になりやすいです。手配された元冒険者が隠れていたこともあります」
「えっ、それって危ないんじゃ」
「だいぶ前のことですし、さすがに稀なケースですよ」
サリオンはこちらを安心させるような穏やかな声だった。
そうそう起きることではない知り、ホッと胸をなで下ろす。
ゴブリンを傷つけることでさえ抵抗がある以上、人と戦うなんて考えられない。
それに元冒険者とただの高校生である自分では勝負にならないだろう。
「ウィニーも口にしましたが、危ない時は私を頼ってください。手の届く範囲で何かあっては寝覚めが悪いですから」
「ありがとう。危なくなったらそうするよ」
二人で話すうちに洋館の前を離れていた。
今回は馬車を使わないのだろうか。
「このまま徒歩で移動?」
「アインの町に比べたら、ずいぶん近いです。王都の地理を知るのにちょうどいい機会だと思います」
「そうだね。古城なんて知らなかったし、もう少し街のことを覚えた方いいよね」
一人で未開拓の地区を歩くのは抵抗があるが、サリオンが一緒ならば頼もしい。
この世界に慣れるにはもう少し時間が必要なものの、せっかくならば色んなものを見ておきたい気持ちはある。
途中までは通ったことのある道を進み、曲がってからは初めて通る場所だった。
人通りはまばらで治安が悪そうな様子は見られない。
時折、通行人の中に屈強な男が見受けられても、こちらに絡んでくるような気配はなかった。
「ははっ、緊張していますね。この辺りは全然安全ですから、そこまで気負わなくても大丈夫です」
サリオンが愉快そうに笑い声を上げた。
そんなことを言いたくなる程度には、俺の様子がぎこちないのだろう。
特に反論するような気にならず、案内されるままに道を進む。
この辺りも食堂や商店よりも民家の方が多い。
洋館の近くもそうだが、大通りを囲むように住宅街があるような構造みたいだ。
王都全体の地図を見ることができれば、その全容を知ることができるだろう。
建築全般にそこまで興味があるわけでもないので、地図については必要があれば眺めてみようという程度の関心だ。
少しずつ王都の中心から離れたようで、反対方向にある王城が小さく見える。
古城も城になるわけだが、前に王族が住んでいたところなのだろうか。
「そういえば、定期的な見回りよりも解体した方が早いと思ったけど」
俺はおもむろにたずねた。
颯爽と歩くサリオンは前を向いたまま応じる。
「強力な魔法使いがいれば、それは可能かもしれません。しかし、解体後にがれきを運び出したり、諸々の費用だったりで現時点ではないといったところです。それに加えて王家の象徴でもあるので、国王陛下も消極的なのも大きいでしょう」
「何だか、どこかで聞いたことがある話だなー」
日本の空き家問題とか廃校になったままの校舎とか。
野外活動で行った先の田舎でそんな話を聞かされた記憶がある。
「エルフから見れば、人族で起きる問題なと似たり寄ったり。君がそう思うのも自然なことです」
「そういうものなのかな。俺にはよく分からないや」
「旅団にいれば見聞が深まるはずです。若いうちに色んなことを学んでおきなさい」
「先生みたいなことを言うんだね」
何気ない一言のつもりだったが、それを受けたサリオンに間があった。
気に障るようなことはないと思ったけれど。
「なるほど、興味深い。君は庶民のような振る舞いを見せているのに、実は有力者の子息……なんてことは……」
「いやいや、そんなことは……」
サリオンがじっとこちらを見る。
ウィニーには転移魔法陣で城に飛ばされたと伝えてあり、彼はサリオンにその部分は秘密にしてくれたのだろう。
こちらの出自に疑問を持ってもおかしくはない。
「ふふっ、詮索しても意味がないでしょう。イチハ族風の見た目で、周辺一帯では最大の王都の知識がない。なのに、貴族や有力者の子息しか通えない学校に行っていた気配がある」
「詳しいことはあんまり話せないけど、色々と訳ありなんだ。それでも、迷惑かけるようなことはないから」
気づけば立ち止まって話していた。
サリオンは微笑みを浮かべており、疑っているようには見えなかった。
「心配いりません。ウィニーとエリーも何か特別な理由から旅団を興しています。私はまあ、特段の秘密はないですが、腹の探り合いは信頼関係を損なうでしょう。今回は君の背景に興味が湧いただけです。答えにくいことは無理に答えなくて構いません」
「サリオン……全部は話せないけど、必要があればその時は話すよ」
「ええ、それでいいですよ」
話に区切りがついたところで、俺たちは歩き出した。
サリオンのおかげで隠していることへの後ろめたさが弱くなった。
勇者召喚、異世界転移――俺や内川と同じように召喚されているクラスメイトたち。
今はまだ話す気になれないが、いずれウィニーやサリオンに打ち明ける時が訪れるのかもしれない。
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