第41話 守りたいもの
島川原家を出ると、井高と運転手によって普通の大型車で東真たちの家まで全員が送られた。普通の車にも乗り慣れていない面々は落ち着かないが、リムジンよりはマシだった。
井高たちが去ると、それぞれの家に解散した。司は西雅と四季を家まで送ってから帰ると言って立ち去った。
東真と南央、文哉は大日向家に入ると崩れるように3人で川の字に寝転んだ。
「つ、疲れた」
「お疲れ、東真くん」
「んふふぁあ」
「待って、南央ちゃんのそれは何?」
南央の謎の言葉に文哉は吹き出した。東真も楽し気に笑うと、南央を強く抱き締めた。文哉もその上から2人を抱き締めると、その頭をポンポンと撫でた。
「よく頑張ったね。あまり、力になってあげられなくてごめん」
文哉が小さく呟くと、東真も南央も顔を上げて首を傾げた。そして東真は小さく笑って文哉の頭を撫で返した。
「文哉さんがいたから、頑張れたんです。それに、南央のことも守ってくれました。本当に、感謝してもしきれないです。僕は、南央を人質にされたら何もできませんから」
東真が笑いかけると、文哉の瞳からポロッと涙が零れた。南央が不安げにその涙を手のひらで拭ってニパッと笑ってみせると、文哉も泣き笑いを浮かべて頷いた。
「2人は強いな」
「僕は強くないですよ? でも、南央を守らないといけないですから」
「そっか」
東真の強さは南央を守るという強い意志が生み出したもの。南央を失えば、ポッキリと折れてしまう可能性もある。
「だけど最近は、文哉さんのおかげでもっと頑張れるんです」
「俺の?」
「はい。文哉さんが南央を守ってくれて、僕のことも大切にしてくれますから」
文哉がその言葉に目を丸くすると東真が照れ臭そうに笑った。その危うさを支えるものができたからこそ、東真はより強くなった。
「あたしね、とーちゃんと文ちゃんがいれば良いんだよ! だからね、さっきのおじさん嫌い。とーちゃんと文ちゃんのこと、あとさいがくんとつかさくんのことも。いっぱいいじめたから嫌い!」
南央がムーッと頬を膨らませると、東真と文哉は呆れた顔になった。けれどすぐに2人で両側から抱き締め直した。
「南央、人のこと嫌いって言うのはあんまり良くないね」
「あ、ごめんなさい」
南央は東真に注意されてしゅんとした。そこをすかさず文哉が頭を撫でてフォローする。飴と鞭そのものだ。
「気持ちは分からなくないけどな。ま、口にするのは気を付けようぜ。どこで誰が聞いてるか分からないからさ」
「あれだ、壁にミミリー、障子にメアリ―だ」
「それを言うなら壁に耳あり障子に目あり、だな」
「そうとも言うかな?」
「そうとしか言わねぇな」
南央と文哉がケラケラと笑っているのを見て、東真も頬を緩ませる。その温かい空気に身を委ねていた3人だったけれど、文哉が急に真剣な顔に表情を引き締めた。
「それで、どうする? 四季さんはああ言っていたけど、東真くんと南央ちゃんはどうしたい?」
東真もグッと顔を引き締めた。南央は少ししゅんとしたけれど、すぐにニッと笑って東真の上に乗り上げるようにのそのそと動いた。
「あたしはね、とーちゃんと文ちゃんと一緒ならなんでも良いよ!」
「そうなの?」
「うん! でも、とーちゃんが大変なのは嫌だ。とーちゃんが頑張ってるのは好きだけど、とーちゃんがサッカーとか、やりたいのできないのは嫌だ」
南央も東真がサッカーが好きなことは知っていた。公園に行くとサッカーをしている子を遠目に見ていた。ずっと東真を見ていた南央がそれに気が付かないわけがない。
文哉は南央の言葉に頷くとよっと身体を起こして東真の上から南央を抱き上げた。そして視線を合わせると、コツンとおでこを突き合わせた。
「俺も同じ気持ちだよ。東真くんが大変なのは嫌だな。もちろん南央ちゃんも。2人がやりたいことやって生きていけるならそれが1番」
「文哉さん、南央……」
東真はゆっくりと身体を起こした。そして目元をグイッと拭うとにへらと笑った。そして窓の外に視線を送ると、スッと目を細めた。
「僕も南央と文哉さんと離れるのは嫌です。2人のためなら頑張れますから。あ、えっと、文哉さんが嫌じゃなければですけど」
東真がはにかむと、文哉はふわりと頬を緩める。そして東真の手を取ってギュッと握った。
「嫌なわけないじゃん。これからどうなるか分からないけど、俺はもう2人と離れられないだろうからな」
「1人だとご飯もろくなことになりませんしね?」
「あははっ、それはそう。体内時計も整ってきたし、休日も充実してるし。東真くんのご飯も美味しいし、南央ちゃんと一緒にいると癒されるでしょ? こんなに幸せなのは大人になってから初めてなんだよ」
文哉は頬を掻くと、迷うように視線を落とした。けれどゴクリと唾をのみ込んで覚悟を決めると、バッと顔を上げて東真と南央を交互に見つめた。
「俺は2人と血は繋がってないけどさ、大事な家族だと思ってるから。2人に一緒にいたいって言ってもらえるのは嬉しいんだ」
文哉の言葉に東真と南央は顔を見合わせた。そしてどちらからともなくパッと表情を明るくすると、文哉に飛びつくように抱き着いた。文哉は目を大きく見開いたけれど、幸せを堪えきれない様子でそれを受け止めた。
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