第33話 公園に行こう
外出時には誰かと共に行動する。そんな窮屈なルールができたのは島川原を警戒してのことだった。けれど常にそれができるわけではないのが現実。この1週間で本当に1人になるタイミングがないのは南央だけだった。
東真は学校からバイト先まで基本1人で行動をする。西雅は部活がある日は司が仕事帰りに高校に立ち寄ったり部活の友人と一緒に帰っていた。けれど部活がない日は1人になってしまう。
「これだと東真くんと西雅くんを守り切れないな」
「はい。それに、いつまでも続けられるわけではありません」
「だよなぁ」
日曜日の昼間、公園のベンチに腰掛けた文哉は頭を掻いて腕を組んだ。隣でお茶を啜る司は、少し向こうで南央と一緒にサッカーを楽しむ東真と西雅から視線を離さない。
東真と西雅が約束してた公園でのサッカー。それがようやく実現したのに、心から楽しむことができない状況に文哉と司は頭を抱えていた。
「島川原が何かしてこないと分かれば良いんだけどな」
「そうですね。実父とただの友人では守り切れませんし。西雅くんはお母様がいますが、東真くんと南央ちゃんは違いますからね」
深くため息を吐く2人の元に、トタトタと南央が駆け寄ってきた。それに気が付いた文哉は笑顔を浮かべて南央を抱き留めた。そのまま膝の上に抱き上げると、南央はふわふわと笑った。
「南央ちゃん、休憩?」
「うん。ちょっと疲れちゃった」
高校生男子の体力に小学生がついていくのは難しい。ましてや休みなく働く東真と現役で部活動に参加している西雅が相手では無理がある。
「南央ちゃん、お茶をどうぞ」
「つかさくんありがと!」
司から水筒を受け取った南央は、ストローをチューチューと吸う。その姿を真顔で連写してスマホに納めた文哉は、視線をちらりと東真と西雅に向けた。
「楽しそうだな」
「東真くん、サッカー上手ですね」
もしもこの世界の何かが違えば同じ部活でボールを追いかけていたかもしれない2人。文哉は同じユニフォームを着る2人を想像して、すぐに首を振ってその妄想を消し去った。
「司も混ざってくれば?」
「無理ですね。スポーツは碌に嗜んでいないですし、体力もありませんよ」
「俺よりは鍛えているくせに。腹筋だってあるしよ」
文哉は自分の割れ目のない腹を擦って司を軽く睨んだ。南央は2人の会話をキョトンとしながら聞いていた。そしておもむろに自分のぽっこりした腹を擦った。
「あたしのお腹ぷにぷに」
「それが可愛いんだよ」
文哉が噛み締めるように言うと司は顔を引き攣らせた。そして南央を自分の膝の上に連れ去る。
「あ、おい! 何で連れて行くんだよ」
「変態に預けて置けませんから」
「おま、言うようになったな」
一瞬ムッとした文哉だったが、つい笑ってしまった。司は文哉の笑みに恥ずかしそうに頬を掻いた。
ぐぅぅぅぅ
「あれ、何か聞こえた気がするなぁ?」
「んふふ、あたしのお腹ぁ」
ニコニコと笑い合う文哉と南央。司は腕時計を確認すると横に置いてあった鞄をガサゴソと漁り始めた。
「良い時間ですし、お弁当にしましょうか」
「お弁当!」
「そうだな。よし、南央ちゃん。東真くんと西雅くんを呼びに行くか!」
「行く!」
司の膝からピョンッと飛び降りた南央は、キュッと文哉の手を握ってその手を引っ張る。グイグイと引っ張られた文哉は、そのまま東真と西雅の方へ軽く走る。その姿を見送った司はベンチの傍らにあった木陰にレジャーシートを敷いた。
司がお弁当を広げている間に文哉が3人を連れて水道まで手を洗いに行った。高いテンションをそのままに水の掛け合いを始めた西雅に、文哉が応戦する。東真は南央が濡れないように庇いながらその姿を見ていた。
「文ちゃん、さいがくん、お腹空いたぁ」
そのうちに我慢できなくなった南央の声掛けで、ようやく水の掛け合いが終了した。頭がびしょびしょに濡れた文哉は、髪を会社にいる時と同じようにかき上げた。
「うわっ、髪をかき上げただけなのに仕事できそうに見えるっすよ」
「文ちゃん格好良い!」
「あははっ、ありがとな。ほら、司が待ってるから行くぞ」
「よし、南央ちゃん、競争だ!」
「おー!」
司の元まで走って行った西雅と南央の後ろを、東真と文哉は並んでゆっくり歩く。東真は文哉の頭に小さなタオルハンカチを乗せた。
「小さいですけど、まだ使っていないので使ってください。夏ならまだしも、もうすぐ冬ですよ?」
「ありがと、助かるわ」
文哉がハンカチで軽く髪を拭く。それを見ていた東真は、小さくため息を吐いてハンカチを奪うと、立ち止まってわしゃわしゃと文哉の髪を乾かし始めた。
「うわっぷ」
「ジッとしてください」
東真の手によって大方髪が乾かされると、文哉は頭を左右に振る。それだけで髪型がオフモードに戻った。
「やっぱり東真はしっかりしてるわ」
「文哉さんももう少ししっかりしてください」
「あははっ、言われちまった」
2人はケラケラと笑いながらまた歩き出す。その背後、公園の端の植え込みの陰からその様子を見ていた人影はその場を立ち去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます