第24話 イベント会議


 会議が始まると、文哉と司は営業部の担当者と共に相手方の島川原カンパニーの担当者と話を詰めた。イベントは来月の初頭。イベント内容はもうほとんど決まっていたから、最終確認が主な議題だ。



「イベント中、弊社の方では製造しているエアー遊具のコーナーと、ミニカーを使用したレース場、各おもちゃの体験ができるエリアの用意を行います」


「我々も弊社で販売しているお菓子の詰め合わせを配布するビンゴ大会を行います。そのビンゴ機はクラウントイズさんの物を貸していただけるということでよろしいでしょうか」


「問題ありません。またおやつのガチャガチャについても開発部の方から問題ないとの回答をいただいたので、そのまま進めていきます」


「承知しました」



 文哉は話し合いの内容を聞きながら、これまでの話と食い違うところはないか、改善するべき箇所がないか検討する。その隣で司はパソコンで議事録を作成していた。


 文哉と司が在籍しているクラウントイズは中堅規模のおもちゃメーカー。対して島川原カンパニーはお菓子の製造を主としている大手食品メーカーだ。企業の力の差はあれど、かなり順調に話し合いが進んでいた。



「来月のイベントを前に、今月末にプレイベントを開催するとのことでしたが、モニターは決まりましたか?」



 営業の担当者から話を振られると、相手方の担当者は顔を顰めた。



「それが、5歳から高校3年生までの子どもがいる弊社の社員に声を掛けたのですが、あまり芳しくない状況です。特に中高校生の参加が少ないんです」


「なるほど。新張さん、弊社の状況は?」



 話を振られた文哉は準備しておいた手元のタブレットを差し出した。右肩下がりのグラフを見た全員が肩を落とした。



「御覧の通り、年齢層が高いほど参加率が低くなりますね」


「うーん、社員の子どもじゃなくても、知り合いに声を掛けてもらいましょうか? ちなみに新張さんは誰かいませんか? 中高生の知り合い」


「そうですね、少ないですけど心当たりならあります」



 文哉の言葉に営業部の担当者の表情が明るくなった。



「その子の友達とかも誘ってもらえそうならお願いしたいです。なるべく連れて来てもらえませんか?」


「聞いてみますね」


「ありがとうございます。こちらでも何人か声を掛けておきますね」



 島川原カンパニー側の担当者も表情を明るくする。今月末のプレイベントもどうにか参加者が集まりそうだという結論が出たところでこの日の会議は解散となった。


 会議が終わると、文哉と司は会議室の片づけを営業部に任せて部屋を出た。



「東真くんたちに声を掛けるんですか?」


「ああ。お菓子とおもちゃなら南央ちゃんも楽しめるだろうしさ。東真くんは南央ちゃんの分のお菓子しか普段買わないから、タダで食べられるときに楽しんじゃっても良いんじゃないかと思ってさ」


「なるほど。西雅くんにも声を掛けますか?」


「そうだね。部活がないと良いけど」



 2人の中高生の知り合いは東真と西雅しかいない。東真は学校の友人が西雅だけ。あとは西雅が何人か連れてきてくれるかどうか、といったところ。



「ま、3人が楽しんでくれれば良いよ」


「そうですね」



 2人はオフィスに戻る。文哉と司はその足で課長のデスクに向かった。



「課長」


「ああ、新張くん、海善寺くん。会議お疲れ様。来月のイベントは順調かい?」



 文哉に声を掛けられて、強い天然パーマが印象的な課長が顔を上げた。おでこの大きなほくろとふくよかな体形も後押しして、あだ名は大仏課長。本人公認だ。



「はい、変更点もなく進んでいます。今月末のプレイベントのモニターをもう少し集めるという話をして解散になりました」


「そうか。了解した。新張くんと海善寺くんなら大丈夫だと思っているけど、気は抜いちゃダメだからね。ふふっ、この調子で頼むよ」



 大仏課長は後光が差しそうな朗らかな微笑みを浮かべる。文哉と司は深く頷いて返した。



「分かりました。それと、会議の準備で昼休憩が取れなかったので海善寺とこれから昼休憩に行ってきます」


「ああ、しっかり休んできなさい。あ、チョコあげる」



 デスクに常備されているチョコをそれぞれ1つずつ受け取って、2人は休憩に向かう。2人の後ろでは、大仏課長が総務課の面々に1つずつチョコを配り歩いていた。


 再び食堂に来ると、揃って食べかけのお弁当箱を開いた。文哉は幸せそうに表情を溶かすと、のんびりとお弁当を堪能する。司はそれを羨まし気に覗いてから自分で作ったお弁当を食べ始めた。



「主任、東真くんのお弁当で1番好きなおかずって何ですか?」



 司の質問に文哉は少し考えると、お弁当箱の中央に入れられていたハンバーグを指差した。


「やっぱりとろとろチーズのチーズインハンバーグかな。俺が好きだからってお弁当用に小さく作ってストックしてくれてあってさ。俺が明日頑張らないといけないことがあるって話をしたら焼いて入れてくれるんだよ」


「凄いですね」


「ああ。でもその優しさの裏にはさ、俺には到底分からない気持ちとか経験があるんだろうなって思うとやりきれない気持ちにもなる」



 文哉が視線をお弁当箱に落としてそう漏らすと、司はキュッと唇を結んだ。そして小さく息を吐くと、窓の外に視線を向けた。



「愛されたいのかも、しれませんね」



 闇を含んだ司の声に、文哉は頷くこともせずチーズインハンバーグを頬張った。文哉の口の中でチーズソースがとろりと溢れた。


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