第7話

 納品物の素材を探しに森の中。

 出てくる獣は追い散らしては、散策にいそしむ。


 といっても、薬草とかいうものから、木皮に果実、はては苔に岩石と何でもござれだ。

 目についたものは片っ端から背負子に詰め込んでいく。


 そして、使わない死蔵品も増えている気もするが、そこはそれ。

 いつかは使えるはずである。



 いつかは……




  そうして、森の中を散策していると、組合ギルド員に鉢合わせすることもある。



「ドワーフのおっちゃん、何してんだ?こんな森で」

「……散策だよ散策。素材になる物探しだ」

「へぇ……」

「あ、この前の薬品セットの改良品、かなり助かりました」

「そうそう、ああいうの有るだけでも便利っスよね」

「ところで、ここらへんに猪いませんでした?」

「……こっちじゃなくて沢のほうじゃねぇか?峠からこっちはみかけてねぇ」

「あー、そっちだったか……」

「リーダーどうする?罠張り替える?」

「今からじゃぁ、もう遅いか?」

「ッスねぇ」



 4人の若い衆と偶然にもバッタリと出会い、軽い情報交換を行う。

 薬品セットとは、小さな腰袋に、必要最低限の薬品を入れ込んでおく物である。


 ワシ考案、組合ギルド採用、考案手数料で毎月ワシに金が、組合ギルドは死傷者が減る、つまり、お互いが得するお話って奴である。


 ちなみに、この地方都市のバーグパスでは、その改良品としたセットにしている。

 都心部と違うのは、その中に"魔獣除け"も一緒にいれているという代物だが


 と、そんなやりくりをしていると、近づいてくる何かがいる事に気づく。


 若い衆4人組は、その事には気づいていなさそうだが……


「……お前ら、気をつけろ?何かくるぞ」

「えっ?何も気配しないッスけど……」

「だよね」



 斥候役が索敵を始めていたが、時すでに遅し。

 接敵が確定する。


 側面となる木々の間から、独特な羽搏き音と共に茶褐色と緑が混じった存在が襲ってきた。


 が、鉄杖を進路上に置いては、相手から強襲してくるのを一旦止めてやる。



「って!?ベアハント!!」

「う、うそでしょ?!」

「ど、どうするッスか?!どうするッスか!!」

「!?!?」



 若い四人衆は、いうなれば錯乱しているとでもいうのだろう。


 なにせ、相手はベアハントとう、熊型の獣を捕獲して倒すレベルの魔獣。


 魔獣ってのは獣とは異なり、魔法を扱ってくる獣という、まぁそんなものに分類されるのだろう。


 魔法を扱うってだけでも、厄介になるので、実力が伴わない場合は、見つかる前に逃げに徹するしかない存在でもある。


 で、いま表れているのは、その体が外骨格型で羽がついており、しかもやや静穏性に優れている。

 特徴的なのは両手にはよく切れそうな鎌を携えていることだろうか。


 ……まぁ、あれだ、でっかい蟷螂カマキリだな。


 首を傾げては、こちらの様子を見ているかと思えば、さらに手にぶら下げいる鎌で、ワシを仕留めにかかってくる。


 (脅威度を上げたつもりはないんだがなぁ……目を付けられたか?)



「うわぁぁぁぁ!!」

「……あわてんじゃねぇ。よく見てたら対処できるだろうが」


 そう言いながら、いつもの鉄杖でその鎌を受けてはいなす。

 続けざまにくる反対の鎌も、同じように鉄杖で受け流しては、石突で相手ついては一定距離まで遠ざける。



「お、おっさん?!」

「すげぇッス」

「……盾持ちはよく見て、相手の攻撃軌道に添わせるようにすりゃぁ、だれでもこなせる……ぞっと」


 さらに追撃にくる蝙蝠野郎の攻撃を鉄杖でしのいでは、同じように反対の鎌をふってくるのが予測できるので、その鎌腕を力いっぱいぶったたき外骨格を破損させる。


「……ああいう手合いは外骨格さえつぶして、手数を制限させちまえば対処は簡単になるぞ」

「それ、普通はできないっスよ?」

「そうそう」

「うん」

「です」

「……そ、そうか」


 なれれば、だれもが出来る事だと思うのだがな。

 あの神官オーガのやつも、手甲で受け流して本命の拳をぶちこめるだろうし。


 っと、こっちが余裕をみせてたからか、片手落ち状態となった蟷螂は、目を赤く変色させては、こちらへの怒りを発露している、というかあれは魔法を発動している感じか。



「……もののついでだ、ああいう虫系は、怒らせれば怒らすほど動きがさらに単調になってな?肉体強化系の魔法をつかっていようが」



 残った腕を大振りしてくる蟷螂カマキリ


 だが、振りかぶるという行為が隙だらけになるという事は理解できていないのだろう。

 鉄杖の石付きを地面を擦らせては土を相手に吹き飛ばしつつ、先端のカバーを外しては、鋭利となった石付きを相手の頭へと捻じ込む。


 螺旋を描くように、手首のひねりを加えながら。



「……とまぁ、予測できれば、こうもできる」



 相手の頭部を粉砕する形で、その頭部を破裂させては突き抜けた鉄杖。


 まぁ、この鉄杖あってのやり方でもある。


 というか、この鉄杖は"鉄"とはいってるが希少金属の端材の寄せ集め合金の代物であり、結構な強度に撓りをもつという一品である。


 希少金属?


 よくある堅い奴やら魔法を通しやすい奴やら、神様のどうたらこうたらとか言われている奴やら、赤くて柔い奴やら、いろいろである。いろいろ。



「す、すげぇ」

「っス!」

「……とまぁ、大振りすることがわかってりゃぁ、対処なんて簡単なもんだ」

「それ、普通できないと思うんですけど……」

「……まぁ、やり方を覚えておくのは、その悪くないという事にしておこうか」

「けど、助かりました」

「ありがとうございます」

「私たちじゃ、助からなかったかもしれませんし」

「っス」


 四人が四人とも感謝の意を表明してくれる。

 くれるのだが、この森での一番の危険度が高い魔獣である蟷螂カマキリ野郎に出会わない様にするための道具があったはずだが……


「……そもそも、魔獣除けの香があっただろうに」

「使い切ってました」

「補充し忘れまして」

「すいません」

「っス」

「……お前らなぁ、命をなんだと思ってんだ?」

「補充するお金が……」

「そのための依頼で……」

「っス……」

「……」



 反省の色は各人から出ているので、説教するという事もないだろう。


 とりあえず、自分が持っている自作の魔除けのお香を差し出しては、気を付けろよ?と注意を促しておく。


 四人は、一応依頼を受けているので、これから沢に罠を仕掛けなおしてくるとか何とかで別れる形となった。


 彼ら若い衆に、良い事が起こりますようにと。







 なお、その夜、若者四人衆が助けられたことでの英雄譚(?)騒動となり、フォーマルモノクル獣人と斥候魔族、はては組合ギルド員の野郎たちに酒の肴にされて弄りたおされた……

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