第5話

 バカ騒ぎから数日たった後、工房にて制作が完了したものを箱詰めする。

 それと、オマケも少しつけて。


 こういう作ったものを商業組合にて品評した後は、一般流通する格好にはなるだろう。

 生活に、ちょっと役に立ってくれれば、それでいいし、それで小遣い稼ぎもできりゃぁとしている。



 今回は上々の品だろう。

 なにせ、組合ギルドの嬢ちゃんたちと、残念な美人からお墨付きをもらった代物でもあるのだ。



「ツヴォルグさん、いらっしゃいませ」

「……おうよ。また、品を売りに来た」

「おお!今度は何でしょうか?取り次ぐのでお待ちくださいね」



 商業組合は、いつもの賑わいというか、売買契約やら貿易品やらの手続きやらでごった返している。

 そんな中、顔見知りとなっている受付の嬢ちゃんに話を通して待つこと数分、呼ばれた先は一種の個室と、これまた数十年来の顔なじみとなる支部長である。



「今度は、どの様な物だ?」

「……ハンドクリームだな。手に塗って使うなりすりゃぁ、肌荒れも落ち着く」

「ほほぅ……美容品の一種という事か?」

「……そこまでのもんじゃねぇとは思ってるが、試供品はそういう評価が多いな」



 たしかに、そいう評価が多かった。

 手荒れが解消されたとか何とか言われていたが……



「ふむ、では、試供品を」

「……ほらよ、とりあえず12個分だな」

「確かに。あと、現品での納品か?それとも、以前のようにレシピを販売か?」

「……レシピでいい」

「なら、手続きをすすめてくれ。おい」

「はい。では、その使用料に関しての手続きを」



 秘書となる人から書面を手渡される。

 毎度毎度、使用料云々を決めるのだが、売り上げの何割かが懐に入る形になっている。


 以前作った、香り付きと清浄性の高い石鹸が大好評らしく、売り上げの数割がかなりの金額で転がり込んできてもいるので、使用料を払えばどの工房でも作れる形になっており、その香料や清浄性能の区別で工房独自の色を出せる様にもしておいた。


 その使用料のおかげでか、生活が苦しいという訳でもなく、次なる物を作る資金には困らないともいえるが……



「以上となります。何かご質問は?」

「……ねぇよ。そっちに任してるしな。悪い風にはせんだろ?」

「それはもちろんだな。商売には信用が第一だ」

「……なら文句はねえ」

「では、これで進めます」

「……そうしてくれ、あと試しに作ったら、大量にできた奴の処分を手伝ってくれ」



 そういってはオマケとして持ってきた包みを受け渡す。


 後ろにいる秘書の嬢ちゃんも、目の前にいる耳が尖がっている胸のふくらみがほぼない「何か、変なことを考えてなかったか?」「……いんや?」支部長も、そのオマケに注目していた。


 まぁ、交易街で手に入れた代物と、フォーマルモノクル獣人の奴から追加でせしめ・・・いや、もらった蜂蜜を練りこんだ、チョコレート菓子という奴だ。


 砂糖でもよかったんだが、試しにと練りこんだら、これがまた「甘すぎ」で自分としてはキツイ代物になってしまった。


 一人で甘ったるいのを食べる気にもならないので、こうして伝手に処分を依頼している。



「これは、チョコレートですかね?」

「……ああ、カカオが手に入ったんでな。それに、モノクル獣人の野郎から蜂蜜をもらってな、試しに練りこんで作ってみたら甘すぎてワシの口には合わんかった」

「ああ彼か、となると北方産の蜂蜜だろうな」

「……だな。量も量だからな、捨てるのももったいないからな、そっちで処分してくれていい」



 そういって口にするエルフの支部長。

 秘書の人は、いつのまにか紅茶を準備していたりもしたが、そちらも一緒にと



「ほぅ、香りもよく、味も良いではないか、それよりも、この甘さは」

「……だが甘すぎる」

「ん?私としては、もう少し甘みが欲しいが?」

「……ハァ?」



 なんだそれ、それはもう砂糖そのもじゃないか?

 そんなものを口にいれたいとか、身体が受け付けずに吐き出すレベルだろ。

 大丈夫か?この尖り耳エルフ……



「……まぁいい、とりあえず、作りすぎたからそれらはやる。その包み分はそっちで処分頼む」

「あの、ついでに聞きますが、これのレシピは売られないのでしょうか?」

「……そんなものはココだけで十分だよ」



 秘書がいつのまに正面に座りなおして食い気味に聞いてきていたが、ココだけだといっては、自分の頭を指さす。

 それをみた秘書と支部長は、あきらめたかの様な残念とでもいった表情をしていた



「市販再現は無理か……残念だな」

「これは、一つのブランド商品になりえますよ?もったいないですよね」

「確かにな、お前がもちこむ菓子は、評判がいいんだぞ?」

「……しったことか。それよりお前さんら、本当に甘いのが好きなんだな、どんだけの甘党なんだ」

「ただ甘いのが好きという訳ではないぞ、こういった甘くバランスの取れた菓子に目がないだけで、そもそも……



 なんか真剣な表情で話し始めた尖り耳エルフの支部長、それを横目に静かに席を立つ秘書。

 話を始めた支部長はといえば、それはもう鬼気迫るとでもいうか……


(あ、これはなんかふんじまったか?)


 そうして視線だけを秘書の人に目をやれば、関わり合いになりませんという感じで、表情を変えることもなく素早くそれでいて洗練された動作で紅茶の器を片付けては退室していった……



「聞いているのか?ツヴォルグ、ここからが大事ところで」

「……あぁ、おぅ、聞いてる……ぞ」

「だから、この甘いということは……



 家を出るときは頭上にあったであろうお日様が、いつのまにか窓からのぞき込む高さになっていたのは、考えてはいけないことなんだろうな。



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