第2話

「ツヴォルグさん、少しよろしいでしょうか?」

「……あん?」



 先に昼飯を、としてギルド併設の酒場スペースに赴こうとした矢先、受付嬢から声がかかった。


「……なんだ?納品した代物にケチがついたか?」

「いえ、そういうお話ではないのですが……」


 この組合ギルド、何でも屋的な仕事の斡旋場であり、討伐系からはじまり、雑事にお使い、果ては品物の調達と色々と取り揃えていたりもする。


 自分の場合は、作った物を納品している感じであるが。



「実は、急ぎ納品していただきたい代物がありまして……」

「……急ぎ?何でそんなものが?」

「守秘義務のため詳しくは話せませんが、納品していただければ、来月分の貢献値を……あっ」



 貢献値とは、組合ギルドに対してどれだけ貢献したかという基準値みたいな奴であり、これが少ないと組合ギルド員としての資格をはく奪されたり、等級が下がったりする。


 等級が下がると、まぁ、いろいろなサービスが受けれないって仕組みでもあり、税金の免除額云々から施設の利用料金の話にもつながっていく。


 例えば、この酒場の利用に関しても、その等級によっては割引が反映されてたりするし、組合ギルドが運営する寝泊りする場所の利用権もなくなるって寸法だ。


 そのため、下積み世代は最低限の貢献のためにアクセク働いては、下がることをしない様にもする。


 するのだが……



「……それ、ワシには関係ないだろ?」

「ええ、そうでしたね……いつもよく来られるので、つい癖で……」



 なにしろ、組合ギルド員では無い自分にとって、貢献値というものは意味をなさないからだ。


 自分がここに来る理由としては飯にありつくのと、消耗品となる道具類などなど多岐にわたり、いち職人としての業者として・・・・・納めているだけである。


 また、製作する諸々の原材料に関しても、自分で獲りに行くのだが、その余剰品を組合ギルドの依頼表にあれば納品として、小金稼ぎに卸しているぐらいだ。


 その際には、手数料を多く差っ引かれはするものの、それは組合ギルド員としてよりも、職人的な立ち位置として納品している格好を崩す気がないからだ。


 まぁ、その多く差っ引かれる手数料というのも、酒場の利用料として払っているという考えなので、特に気にすることもないのだが……



「……話を聞くぐらいするが?余っている材料かもしれんしな」



 少なくとも、こういうところで良い印象を植え付けておくのも悪くないと判断する。



「ありがとうございます。それで、物はといえば、香草になります」

「……香草?それなら何時もあの掲示板に貼り出されているだろう?」

「いつものではなく、以前、試供品でいただいた代物で……」

「……試供品?」


 だが、試供品と一言でいわれても、いろいろと試しているためにどのことを指しているのかがさっぱりわからない。


「お香の奴です」

「……ああ、あれか、いろいろ試してた時の余り物で作った奴だな」

「あの香草が、一部の魔物に対して有効として認められまして……」

「……たしかに、独特な香りをしてたな」



 最近で、余った材料を使ってお香を作ったというのなら一つしかない。

 たしかに、薬草としても使えない事はないが、趣向品という方が正しいのだろうか?

 虫よけ・・・ぐらいにはなる御利益・・・はありそうではあるが……



「……残念だが、余っちゃいねぇぞ?そのお香で使い切ったからな」

「そうでしたか……では、手に入れる事は可能ですか?」

「……明日ぐらいから別の素材獲りに出発するつもりだったが、ついでに見てこようか」

「ありがとうございます!では、10束ぐらいをお願いします」

「……いきなりな数を吹っかけてくるな。めったに手に入らんから、良くてその半分だ」

「そうですか……わかりました、先方にはそう伝えておきます。」

「……そうしてくれ。にしても在庫ねぇ、どっちにしろ帰ってくるのは半月ほど先になるが、それでもかまわないやつなのか?」

「えっと、期限は……はい、期限はひと月ありますので、大丈夫ですね」

「……なら、ついでに獲ってくるから、その時は、色々と色をつけてくれよ?準備も増えるからな」

「えーっと、支部長に伝えておきます」

「……おう、そうしておいてくれ、でなけりゃお前の秘蔵の酒を飲みつくしてやるとな」

「あはははは、そう伝えておきますね」

「……ああ、それとついでた、いつもの試作品だ。後で経過感想を聞かせてくれ」


 そういいながら、後で渡すつもりだったハンドクリームが1ダース分(支部にいるスタッフより多い12個)を手渡す。


 これは液状の石鹸を試行錯誤で別のアプローチで開発する過程で生まれた代物で、試供品で渡したら、女性の肌に優しいモチモチ感を出すと発覚し、その後、品種改良してみた試作品の続きである。


 野郎となる自分の肌では、細かいところの感触がいまいちわからなかったが、女性の意見をいろいろと参考にしては調整しているところでもある。


「あ、ありがとうございます!ツヴォルグさんのクリームって、使った後手荒れとかきれいになるし、肌も艶々になるから取り合いになるんですよねぇ、市販しませんか?」

「……まだまだ納得の出来じゃねぇからな、出来たら商会にでもレシピ売るさ」

「早く完成させてくださいね!まってますから!!」

「……お、おぅ」



 女性の美への追及は限度を知らないとはいうが、この受付嬢に関してもその類なのだろうなと、圧を肌に受けながらも再認識してしまった。




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